全国から利用者が!スマホ・家電が使えない“脱デジタル”の宿 夜はランプの灯りだけで癒しの空間を
スマホにコンビニ、電子レンジ。暮らしを便利にする道具があふれる世の中で、注目されている宿があります。岐阜県中津川市にある “秘湯の宿”は、スマホの電波は圏外、便利な家電製品もありません。私たちの生活の中で当たり前にあるものがないからこそ見えてくるものがありました。明治の創業時と今も昔も変わらない宿を受け継ぐ家族に密着しました。
山奥にポツンと一軒建つ宿 電気もガスも水道も通っていない
岐阜県中津川市にある付知峡から10㎞先の山奥にポツンと一軒建つランプの宿。宿に向かう県道の入口にある看板には「この先携帯電話が圏外になります」と記載されています。
途中から未舗装の道となり、ひたすら山奥へ進むとようやく駐車場らしき場所に到着。階段を上がると山小屋のような木造の建物「ランプの宿 渡合温泉」が現れました。
出迎えてくれたのは、宿のオーナー今井俊博さん(61歳)。天井にはたくさんのランプが吊るされています。
(ランプの宿 渡合温泉・今井俊博オーナー)
「電気が通っていないので、ランプを使っています」
ランプはここでの生活の必需品。電気だけでなく、ガス、水道も通っていません。昔は林業のため約500人が住む渡合地区という集落でしたが、今はこの宿だけ。江戸時代に温泉の源泉が発見され湯治場として栄えました。宿は明治時代に創業、今も大正時代の建物が残っています。
冷蔵庫もないため飲み物は約14度の湧水で冷やします。そして電話は、緊急用の衛星電話だけ。必要最低限の電力は自家発電でまかないます。客室には家電類もコンセントもありません。裸電球のみが部屋を照らします。
最低限の電力だけ作り、自然の恵みを生かす
最低限の電力しかないので夜10時には一斉に消灯、その後はランプの灯りが頼り。温泉は昔ながらの五右衛門風呂で、冷泉のため薪で沸かしますが夜はお風呂のランプで、癒しの空間が広がります。
宿泊客が使うランプの手入れ・準備は、長男・健太郎さん(31歳)の仕事です。他にもお風呂で使う薪割りなど、仕事は多岐に渡ります。
母の美香さん(57歳)は、健太郎さんのおかげで男手が増え、丁寧に仕事をしてくれるので助かっていました。
(ランプの宿 渡合温泉・今井健太郎さん)
「マクドナルドを食べるために往復100㎞。帰ってきた時には冷めているだろうなとか」
街へ降りた際にネットで調べたかったことを忘れ、戻ってきてから思い出すこともあると照れながら話しました。
ランプの灯りに癒されて本音がポロリ 宿泊客は大満足
お客さんのリピート率は50%、コロナ禍でも週末は予約でいっぱいです。取材した日は、小学校からの幼馴染の男性3人組が、静かさを求めてランプの宿にやってきました。
(幼馴染の男性3人組)
「文化から離れたい。疲れているから。現代に殺されちゃう。(スマホが圏外で)違和感はある、誰とも連絡を取れないし。」
食事も宿の大きな魅力。種類豊富な採れたての山菜、湧水の池で養殖しているイワナや鯉、そんな食材を使った夕食は、魚料理だけでも4種類とボリューム満点。山菜の5品盛りに、天ぷらの盛り合わせなど全て地元の食材で作る、ここでしか味わえない料理。特大の五平餅も宿の名物です。
夕食後は、俊博さんのランプ講座があります。消灯前、お客さんは自分で付けたランプを持って部屋へ戻ります。そして夜10時、消灯。宿の中はランプの灯りだけになりました。翌朝、チェックアウトしたお客さんたちはここでしか過ごせない時間を満喫し、大満足で帰路につきます。
(幼馴染の男性3人組)
「12時過ぎくらいまで男トークしていましたね。携帯とか使えないから話をするだけなんですけど、逆にこういう場所だから盛り上がった」
健太郎さんは、宿を残していってほしいというお客さんの声に対し、今後はもっと外の自然を楽しんでもらうための工夫をしたいと考えていました。
(ランプの宿 渡合温泉・今井健太郎さん)
「『宿を残していってよ』と言ってくれるお客さんはたくさんいますし、楽しんでもらえる場所が作れればと思います」
便利なものに囲まれて暮らしているからこそ、ランプの宿でしかできない体験に魅力があるのかもしれません。
CBCテレビ「チャント!」9月9日放送より