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沖縄の“食”を支えた那覇の名物市場へオマージュ~変わりゆく街の風景に思う~

沖縄の“食”を支えた那覇の名物市場へオマージュ~変わりゆく街の風景に思う~
那覇市第一牧志公設市場

今暮らしている名古屋の街も「令和」という新時代を迎えて、風景が大きく変わりつつある。都心にあった昔からの建物が次々と建て替えなどのため一旦姿を消そうとしているのだ。

建て替えラッシュの都心

三菱UFJ銀行はこのほど、2021年度中に名古屋・栄に建設する新しいビルの起工式を行ったが、もともと旧・東海銀行の本店だったその場所は現在更地である。近くにあって1年前に閉店した丸栄百貨店は建物解体工事の真っ只中であり、2019年3月に閉館した中日ビルもまもなく解体される。当然のようにそこにあった言わば“目印”のような建物が次々となくなり、名古屋の街の風景が変わる加速度を体感する日々である。

沖縄の“台所”その歴史

そんな中、沖縄からも姿を消す建物の報が届いた。那覇市の中心部、国際通りからアーケード商店街を歩いたところにある「第一牧志公設市場」である。老朽化による建て替えのため2019年6月16日に現在の場所での営業を終えた。
牧志公設市場は1972年(昭和47年)に現在の姿で営業を始めた。その年は沖縄が本土に復帰した年であり、以来47年、地元沖縄の人たちにも、そして多くの観光客にも愛されてきた市場である。もともとは戦後に米軍の物資を売っていた闇市から始まり、1950年に公設市場として歩み始めた。市場の公式ホームページによると、肉、魚、加工食品、野菜・果物、そして飲食店など115の店が入居している。

公設市場の魅力とは?

那覇市第一牧志公設市場

市場を訪れたことがある人なら誰しも分かると思うが、一歩足を踏み入れると、そこには“不思議な空間”が広がっていた。1階には肉屋、魚屋そして漬物などの加工食品を売る店が並び、元気な活気にあふれている。店先にはお面のような豚の頭があるかと思えば、アオブダイやイラブチャーなど色鮮やかな県産の魚も並ぶ。元気なおばあが島らっきょの漬物を試食に差し出してくれる。2階には飲食店が並ぶ。固定メニューに加え、客が1階の魚屋で買った魚をそれぞれお好みの料理に調理して食べさせてくれる。地魚は刺身と唐揚げになったり、伊勢海老は刺身と味噌汁になったり、海外からの観光客はじめ訪れた人たちが喜ぶ趣向だ。

スーチカーとワンダーランド

筆者が牧志公設市場を訪れる目的は「スーチカー」という豚肉の塩漬けを買うためである。「スー(塩)」「チカー(漬ける)」から由来するこの食材は、沖縄独特のもので、どこででも買えるものではない。炙っても、大根など野菜と煮込んでも、沖縄麩とチャンプルーにしても、そしてチャーハンの具にしても、肉からしみ出す塩味が料理にインパクトのある深みを与えてくれる。美味い!
そして目的のもうひとつは、市場の空気を満喫するためである。半世紀近くたって建物に傷みも目立つ市場内には、いつも沖縄の食と人の歴史が充満していた。建物の中は「ワンダーランド」にも思えた。お店の人たちとの会話を楽しみながら、その空気に浸る時、故郷でもないのに「帰ってきた」感覚になった。

新しい市場への切なる願い

那覇市第一牧志公設市場

牧志公設市場はこれまでと同じ場所で2022年春に鉄骨3階建てへと生まれ変わる。その間の2019年7月1日からは西に少し離れた広場にできる仮設市場での営業が始まる。
長寿県と言われる沖縄にも高齢化の波は押し寄せていて、今回の建て替えを機に後継者不在から店を閉める人もいる。3年後に生まれ変わった時、当然ながら風景は変わるだろう。市場内の空気もおそらく変わるだろう。しかし、訪れる客と楽しげにやり取りする市場の人たちの人情、持ち合わせのお金が足りなかった観光客に「次に来てくれた時に残りを払ってくれればいいよ」と普通に品を渡す温かさ、これらは沖縄の宝物だ。どうか引き継がれていきますように。

街の風景は変わっても、決して変わってほしくないものがますます多くなっている。

【東西南北論説風(110)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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