「年賀状は今年限りで」増加~お別れの機会が減っていく時代の中で思う

「年賀状は今年限りで」増加~お別れの機会が減っていく時代の中で思う

ある程度予想していたことだが、この正月に受け取った年賀状で「来年からは賀状による挨拶は控えさせていただきます」と書かれたものが目についた。最近「終活年賀状」とも呼ばれるものだ。特に2019年は「平成最後の新年」という時代の変わり目だけに、「これを機に」と年賀状を打ち止めにする人が多いようである。

鬼平の年賀状は?

年賀状で思い出すのは、『鬼平犯科帳』や『剣客商売』など時代劇の名作で知られる作家の故・池波正太郎さんである。数々のエッセイで自ら紹介していたところによると、池波さんの年賀状はすべて手書き、それも干支の絵が直筆で描かれる。出す数が多くとても年末だけでは描ききれないため、「年が明けるとすぐに来年の年賀状を描き始める」と語っていた。そんな池波さんが存命ならば、終活年賀状が増えてきた昨今について、どう思いどう語るのだろうか。

嵐の人気で減少に歯止め?

年賀状を出さない人の数は年々増えている。特にその傾向は電子メールやSNSを積極的に活用する若い世代に顕著に見られ、日本郵便では4年前からPRキャラクターに人気グループの嵐を起用、コマーシャルだけでなくイベントにも出演してもらうなど、減少に歯止めをかけようとしている。しかし2019年用の年賀はがき当初発行枚数は、前年より7%も減り24億枚余りだった。1年前の年賀状引き受け枚数が前年より6%減って、ピーク時の実に6割、20億枚に落ち込んだことから、2019年はいよいよ大台を割り込む予想も出ている。年に一度の年賀状やり取りを止めたとしても、連絡を取り合う手段はある。しかし、連絡が途絶えてしまう人の数はかなり多くなるはずだ。もし亡くなられたとしても家族からの報せも来ない可能性がある。

家族葬はますます増える

亡くなった方とのお別れという意味から言えば、葬式も最近は「家族葬」がとても多い。
親戚ですら、遠い縁故の場合は連絡が事後になることもある。会ったことがない人の葬儀に遺族との関係によって列席しなければならないケースは減ったが、逆に、個人的にお世話になって最後のお別れを是非言いたい人の場合も、すべて終わってからお骨との対面というケースも増えてきた。

別れのエッセイに胸を打たれ

作家の伊集院静さんは、2度の悲しい別れを経験した。20代では弟を、そして30代では人気若手女優だった妻を亡くしている。週刊誌に連載中のエッセイ『大人の流儀』には随所に「別れ」というテーマが顔を出す。そして、その文章は読む者の心を切実に打つ。
エッセイをまとめた最新刊『大人の流儀8 誰かを幸せにするために』の一編で、こんな文章が胸に残った。
「近しい人を亡くした人に私が言えるのは、何でもない時に別離して行った人の面影があらわれたら、その人の笑っていた時の顔や、楽しそうな姿を思い浮かべることをすすめたい」
「亡くなった人の死は生き残った人のためにあることを知る」

人の縁を結ぶ物理的な形が変化して、お別れがなかなかしづらくなった時代。だからこそ、一期一会をますます大切にしたい。そんな新年の日々である。
(2019.01.10)

【東西南北論説風(80)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

<引用>伊集院静『誰かを幸せにするために』(講談社・2018年)

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