避けられない天変地異、ならば...。三陸鉄道から学ぶ"レジリエンス"
石塚元章
◆あの震災から4年が経ちました。何回か現地に入りましたが、とくに何度も取材させていただいたのが「三陸鉄道」。その後、例の国民的ドラマの舞台となったあの鉄道です。岩手県沿岸部を走る第3セクターで、廃線の危機に直面していた国鉄時代からの鉄路を、なんとか残そうと誕生しました。
震災直後の現地では、13メートルもの高さがあったはずの高架が津波で崩壊し、文字通り飴のように垂れ下がったレールや、島越(しまのこし)や田老(たろう)の駅周辺(島越は駅があったはずの場所...でしたが)ですっかり姿を消した街並み。目の当たりにしたその光景は脳裏に焼きついています。
トンネルの中で停車した列車から乗客を連れて脱出した運転士さんや、手旗信号で運行に挑んだ社員の方...。「列車が動けば住民に力を与える」との信念で、震災後5日で一部区間とはいえ列車を運行させた社長の決断。 そこには震災に限らず、"万一のとき"に備えて我々が学ぶべきことが、数多くあります。
◆最近、「レジリエンス」という言葉が注目されています。「回復力」「復元力」や「しなやかさ」など、使われる場面によって微妙に異なりますが、ダメージを受けても折れずに立ち直る力...というような意味でしょうか。
人類は、災害にまったく遭遇しないというわけにはいきません。となれば、被災したあと、いかに復興(回復・復元)していくかという対応力が大きな意味を持ってきます。
天変地異の場合にあてはめれば、それは被災したひとりひとりの心の問題でもありますし、被災地を助けようとする周辺の人・組織・自治体・国の問題でもあります。さらに、ハード面にも当てはまる考え方でしょう(そもそもが物理学の用語だそうですが)。
三陸鉄道の4年間は、「レジリエンス」のケーススタディであり、実例でもあったのかと改めて思うのです。
◆なんとか全線開業にこぎつけた「さんてつ」。とはいえ、駅周辺に以前のような街並みが戻ってきたわけではありません。三陸鉄道の戦いはまだ続いています。
震災から4年を前に、三陸鉄道の望月正彦社長に久しぶりにお話を伺いました。「被災地に観光などででかけるのは、はばかられるという人もいると思いますが、そんなことはありません。是非、どんどん来てください。美味しいものが目的でも、景色を楽しみたいでもいいんです。とにかく来て、見てもらうことが大事だと思います」。
← 三陸鉄道はいま「震災学習列車」を走らせている。写真は、震災から4年目の2015年3月11日の震災学習列車。社員らがガイド役で同乗し、震災時の様子や復興の現状を説明しながら沿岸部を走る。犠牲者が多かった場所では停車し、黙とうも。
(三陸鉄道:提供/上の写真も)
あるベテラン県議の言葉~自民党大会を取材して
横地昭仁
3月8日に東京都内で開かれた自民党大会を取材してきました。
今回の大会の標語は「立党60年 新たな扉を開こう」というものでした。自由民主党は、保守合同といって、日本民主党と自由党という二つの保守政党が一つになって生まれました。今年はそれから60年の節目にあたるのです。
自民党の生まれた1955年は、当時右派と左派にわかれていた日本社会党が統一され、それがきっかけとなり保守合同も実現したと言われています。今、その社会党はなく、自民党と社会党という二大政党が政治の大きな流れをつくってきた55年体制という言葉も、永田町でほとんど聞かれることはなくなりました。
変わって最近よく聞かれるようになったのは、一強多弱という、自民党が圧倒的に強いとされる、いまの国政の状況を指す言葉です。
党大会での谷垣幹事長の報告でも、先の総選挙で一年生議員が多数再選され、総選挙ごとに前の政権党に所属する新人議員が大量落選、野党の新人議員が大量当選して政権交代になるという、2009年と2012年の2回の総選挙で繰り返されたことにも象徴される、いわゆる振り子現象に終止符をうつことができたと胸を張り、これまで自民党が2回下野しながらも政権復帰できたのは、強固な地方組織のおかげ、地方創生を日本創生にしようと、目前にせまった統一地方選への取り組みを訴えていました。
ここで印象に残ったのは、党大会に参加していた、引退を決めたあるベテラン県議の言葉です。次の地方選挙を目指す若い人たちにぜひ言いたいことはなんでしょうと尋ねたところ、毎日の積み重ねを大事にしてほしい、地域の有権者との対話の積み重ねから政治は生まれる、あたりまえのようなことだが、それを強く噛み締めてほしいと話していました。
安倍総裁は、この党大会で戦後以来の大改革に邁進していく決意を表明していましたが、その一つである農業改革は、まさにそれぞれの地域のありかたに密接にからんでいる問題です。経済の再生も地域経済抜きに語ることはできません。さらに、安全保障についても有権者に一番近い地方議員が接する様々な声も、実は大事なのかもしれません。
自民党だけでなく、広く地方政治を目指す人達が、地元の問題について、今の国政の課題の視点も踏まえた上でどんな主張をしていくのか、そして、それぞれの訴えの中で、どれだけ地域の声に接することができるのか、こうした点をしっかり見守っていきたいと思いました。
中学生殺害事件 文部科学省の検証と教育現場
横地昭仁
川崎市の中学一年の男子生徒が殺害された事件は、17歳から18歳の少年3人が逮捕され、社会に大きな衝撃を与えています。
この事態を受けて文部科学省は、先月27日、この事件についての教育現場の対応の検証や再発防止を検討するタスクフォースを設けました。タスクフォースという言葉は、日本語にすると、この場合、特別検証委員会という意味合いになるのでしょうが、いたずらに時間をかけず、機動的に検証するという姿勢も、この言葉に込められていると感じます。タスクフォースのトップ、地元愛知6区選出の代議士である丹羽秀樹文部科学副大臣に先日話を聞いてきました。
丹羽副大臣によりますと、タスクフォースの設置には、この事件に対する安倍総理の強い思いがあったそうです。タスクフォースでは、まずは、登校せず連絡のとれない児童・生徒の緊急調査をはじめていますが、事件自体については、どうして大切な命を救うことができなかったのか、学校現場だけでなく、警察との連携など、広い視野から、早急に、しっかり検証していきたいということでした。
もちろん、徹底した検証をお願いしたいのですが、お話をうかがっていて、もう一つ感じたのは、教育現場の現状についてです。事件の直接的な検証とはすこし離れてしまうかも知れませんが、少子高齢化という人口構造の変化は教育現場にもおよび、今、いわゆる団塊の世代のベテランの先生が大量に退職していく中で、中堅層のベテランの先生の割合が相対的に減ってきている現状があります。その中で、学校現場では、教室での授業以外に様々な業務が発生し、特に経験の少ない先生に負担がかかるという構造的な問題があるのではないかという点です。
文部科学省でもチーム学校というとりくみを進めることにしていて、ソーシャルワーカーやスクールカウンセラーなど、教師以外の人材を積極的に学校現場で活用することが具体的に検討されています。また、学警連携といって、地域の教育委員会と警察が協定を結んだりして、非行の問題などに、地域も含めて機動的に対処しようというとりくみも始まっていますが、全国的には、まだ道半ばという面があるようです。
子どもをまもり育てていくのは、教育現場や家庭だけの問題ではありません。次代を担う大切な命がなぜ奪われてしまったのか、タスクフォースには、幅広い検証をお願いするとともに、教育現場がおかれている現状や、それに対して地域がどうかかわっていくべきかといった点にもしっかりと目を向けていきたいと感じています。
民主党大会に行ってきました
横地昭仁
東京都内で開かれた民主党の定期大会に行ってきました。党大会は、民主党の最高議決機関と位置づけられていて、定期大会は前年の活動を総括し、これからの党の活動方針を決める重要な集まりです。
折しも統一地方選目前、今回の大会は、昨年の総選挙の結果を民主党がどのように受けとめて、どのように党の再生を図るのか、そして、これから民主党として何を目指すのか国民にアピールする重要な場にもなったといえるでしょう。
岡田代表は網膜剥離の再発で欠席しましたが、蓮舫代表代行が代読したメッセージで、女性と地方を大きな二つの柱とし、生活起点、地域起点という二つのキーワードを掲げて統一地方選を戦っていくという決意を示しました。また、枝野幹事長は、先の総選挙を敗北だったと認めて、国政選挙については、来年の衆参ダブル選挙も想定して候補者の選定を急ぎ、国会では、安保法制などで安倍政権と対峙していくと語っていました。
こうした党幹部の決意表明に加えて、個人的に印象に残ったのは、来賓として出席した連合の古賀会長の発言です。民主党に対して強く冷たい向かい風が吹いていると明言し、国民の信頼を回復するために一人一人の自覚や覚悟、それに、筋の通った組織運営を求めるという、選挙で支援をしている組織の来賓あいさつとしては、異例ともいえる厳しいものでした。しかし、先の総選挙の出口調査などから、古賀会長の発言は、民主党に対する有権者の見方を反映しているとも感じました。
いわゆる第三極や少数政党の存在も重要ですが、今の衆議院の選挙制度が一つの選挙区で一人の代表が選ばれる小選挙区制を基本としている以上、与党側、野党側と二つの大きな政治勢力が互いに切磋琢磨していくことが健全な民主主義のために求められることでしょう。
しかし、今の民主党が、かつて実現したような政権交代の可能性も含め、与党に対抗しうる大きな政治勢力の核となるには古賀会長が指摘したような課題があることも事実でしょう。
まずは、地方選で、民主党所属の立候補予定者が、民主党に対する批判も含めたそれぞれの地域の有権者の声をどのようにうけとめ、生活起点、地域起点という、今日示されたキーワードを、それぞれの具体的な訴えにどうやって落とし込んでいくのか注目していきたいと思いました。
調査から去年の総選挙を振り返る その①~選挙と調査について~
横地昭仁
<はじめに>
去年12月第47回総選挙が執行されました。結果を見ますと、与党の内、自民党は選挙直後の追加公認を加えると291議席となり、一強多弱といわれた政治状況は、改選後も大きく変わることはなく、35議席まで増やした公明党とあわせて、与党は全体の三分の二を超える大きな勢力となっています。
では、自公政権は有権者から無条件に信任されたといえるのでしょうか。
ここでは、これから何回かにわたって、主に今回の選挙でCBCテレビが実施した世論調査と出口調査から、東海三県の有権者の選択を見てみることにしましょう。
<選挙と調査>
・有権者の疑問
その前に、選挙の度に各マスコミが実施する調査、特に放送局が実施する調査について考えます。
最近ツイッターなどのSNSが発達し、有権者のみなさんが選挙についてどう思われているのか、自由に書かれたご意見をこれまでより容易に閲覧することができるようになりました。その中で散見されるのは、マスコミの選挙調査は何のためにやっているのかという疑問、また、調査結果に正しく有権者の意思が反映されているのかという疑問です。
まず、こうした疑問にお答えしましょう。
・当確報道と出口調査
まず、何のための調査なのでしょうか。一言で言えば冒頭に記したように有権者の選択を示すためです。
しかし、放送をメインの媒体とする私たちは、新聞や雑誌などの印刷媒体とは異なり、選挙当日の夜、時々刻々と変わる情勢を「生」で伝えることが大きな使命だと考えています。そうしますと投票が締め切られてから、どの候補がバッチをつけるのか、私たちの責任において、その折々に的確に当確報道をしていくことがとても大切だということになります。次々に判明する一つ一つの議席の積み重ねが、選挙後の国政のありかたを作り上げていくからです。
的確な当確報道のためには、それぞれの選挙区での取材の蓄積も大切ですが、選挙当日は開票状況の取材、そして、投票を終えた皆さんに直接投票行動について伺う出口調査がなにより重要になります。さらに期日前投票が有権者に広く浸透してきた現在、期日前投票の出口調査も重要です。
・有権者全体を考えるには世論調査が欠かせない
ただ、私たち放送メディアの選挙報道の役割は当確報道だけにあるとは考えていません。私たちを規律する放送法には、目的の一つに、「健全な民主主義の発達に資するようにすること」と記されています。誰が当選確実なのか、だけではなくて、投票に行かない方も含めて、有権者の皆さんがそれぞれの選挙にどんな思いをもたれているのか、それが結果にどう結びついているのかをお伝えすることも、「民主主義」のためにはとても重要なこと、これも有権者の選択としてお伝えすべき重要なことだと考えています。
そうしますと、投票に行かない方も含めて、選挙区のすべての有権者を調査の対象としてとらえる世論調査、具体的には電話による聞き取り調査も大変重要になるのです。
・調査の大切さ
もう一度、改めてどうしてこうした調査が大切なのか説明します。もし、出口調査や世論調査データがありませんと、全体として有権者の投票行動にどういう傾向がみられるのか、また、ポイントとなった争点はなにか、投票結果と個々の記者の取材の蓄積はあるにしても、推察を中心にした分析になってしまいかねません。
どうしてかというと、投票用紙に記載するのは、候補者や政党の名前だけだからです。もちろん選挙には必要十分なのですが、開票結果を見ても一票ごとの投票者の年代や性別は分かりませんし、まして、それぞれの投票用紙にはどんな思いが込められているのかとなると、別に調査データがないと、客観的な根拠をもとに投票行動について考察し、報道することができなくなってしまうのです。
・調査は信頼できるのか
しかしここで大きな疑問を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。投票者、あるいは有権者全員に聞いているわけではないのに、どうして全体の傾向だといえるのかと。確かにSNSでもこうした点から、マスコミの調査の信頼性に疑問を持つご意見を拝見することがあります。
ただし、そもそもすべての方に調査をするということは事実上不可能です。そこで、工業製品や食品の品質管理にも用いられているサンプリング調査という考え方が登場します。ごく簡単に言いますと、調査対象の全部を調べなくても、そのうちの一部をうまくとりだして調べれば全体の傾向がわかるという統計の考えかたを用いているのです。
そうはいっても、だれにうかがうのかという調査対象の決め方や、質問の方法など、具体的にはさまざまなやりかた=手法があります。
・私たちの取り組み
私たちCBCテレビはこれまでの国政選挙で独自・単独の出口調査を10年以上、世論調査については、さらに長い期間にわたって実施してきています。調査の手法については、さまざまな具体的な工夫を重ねることで、全体を代表するような調査となるよう取り組みをづつけ、統計上はおおむね選挙結果通りといってよい調査結果となっています。
それはとりもなおさず、有権者の皆さんが私たちの調査についてご理解いただき、快くご協力いただいているからだこそともいえます。大変ありがたいことです。
では、皆様からの貴重なデータをもとに、今回の選挙について考えてみることにしましょう。