日本がフィリピンに護衛艦を初輸出へ。背景に中国の海洋進出

日本政府がフィリピンに中古護衛艦を輸出する方向で調整を進めていることが明らかになりました。実現すれば初めての事例となります。7月10日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、元NHK解説委員で政治ジャーナリストの増田剛さんに、このニュースの背景を伺いました。そこには中国の海洋進出という大きな要因がありました。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く護衛艦輸出の経緯
6月上旬、シンガポールで開催された国際安全保障会議で、日本の中谷防衛大臣とフィリピンの国防大臣が会談。海上自衛隊の中古護衛艦の輸出について協議し、輸出する方向で一致しました。
輸出が想定されているのは、海上自衛隊の「あぶくま型」護衛艦6隻。全長109メートルと海上自衛隊の他の護衛艦に比べてやや小型で、現在は日本近海の警備活動などに使用されています。
1989年から1993年にかけて6隻が就役し、すでに30年以上が経過しているため、日本では順次退役する方向になっていました。
フィリピンの狙いは中国への対抗
フィリピンが日本の中古護衛艦を求める理由について、増田さんは「ズバリ言うと中国への対抗です」と明言します。
中国は近年、南シナ海、東シナ海への海洋進出を積極的に進めており、フィリピンは南シナ海で南沙諸島をめぐって中国と領有権問題を抱えています。
フィリピン軍の船が中国の海警局の船と衝突する事案も相次いでおり、中国に対抗するために艦船の数を増やす必要に迫られています。
一方、日本も東シナ海で中国の強引な海洋進出に直面しています。
「仮にフィリピン軍が日本の開発した護衛艦を運用すれば、中国への抑止力をフィリピンと共同で強化することができる。同じ武器を使うので、仲間になれる」と、増田さんは狙いを説明しました。
武器輸出の厳格なルール
戦後、平和国家を標榜してきた日本には、「専守防衛に徹して、他国に脅威を与える軍事大国にはならない」という考え方があります。これに基づき、武器輸出には厳格なルールを定めています。
「防衛装備移転三原則」により、攻撃能力の高い殺傷能力のある武器は輸出することができません。しかし、他国と共同開発した武器であれば、その共同開発国に輸出することが可能だという規定があります。
今回は、中古の「あぶくま型」護衛艦にフィリピンが求める装備を導入して仕様を変更し、「フィリピンと共同開発した」という形を取ることで、輸出の実現に向けて検討を進めています。
増田さんは「いずれにしても、中国の海洋進出が日本やフィリピンの警戒感を高め、こうした武器移転の動きを加速させている」と、この動きの背景を改めて指摘しました。
自衛隊機への異常接近
先月、中国海軍の空母から飛び立った戦闘機が、海上自衛隊の哨戒機に45メートルまで異常接近したという事案がありました。
「高速で飛ぶ飛行機ですから、45メートルって、もう衝突しかねない近さですね」と増田さんは驚きを隠せません。
自衛隊の哨戒機の前方を中国の戦闘機が横切るという挑発行為もありました。当時、中国の空母が太平洋を航行しており、それを自衛隊の哨戒機が監視していたところ、空母から飛び立った中国の戦闘機がその哨戒機を威嚇したということです。
「俗っぽく言うと、『見てんじゃねえよ』ということですね」と増田さん。
太平洋に展開する中国空母
中国が西太平洋に派遣した2隻の空母は、宮古島の南東や南鳥島の南西などで活動していました。防衛省が中国の空母2隻が同時期に太平洋を航行しているのを確認したのは、これが初めてでした。
このような異常事態を受けて、自衛隊のP3C哨戒機が空母の動きを監視していたところ、空母から発艦した中国の戦闘機がP3Cに異常接近し、威嚇行為に及んだのです。
今回の戦闘機の異常接近の背景には、中国海軍の空母が東シナ海や南シナ海を越えて太平洋にまで進出し、その作戦能力を高めようとする動きがありました。
日本の安全保障のリアル
増田さんは、「こうした中国の強引な海洋進出の動きが、日本をはじめとした周辺国の警戒感を高め、各国の防衛力強化の動きを加速させている」と分析します。
中古の護衛艦をフィリピンが日本から導入しようとしている動きも、結局は中国の海洋進出に対応するための警戒感から来ているといいます。
このように、中国の強引な海洋進出が日本とフィリピンを共に警戒させ、護衛艦輸出という具体的な防衛協力に発展しているのです。
この日、佐賀駐屯地が開設されオスプレイの配備が始まりましたが、これも長崎の水陸機動団と連携して南西諸島の防衛を強化するもので、中国海軍の動きを想定した対応です。
これが日本の安全保障のリアルです。中国の海洋進出という共通の脅威が、日本とフィリピンの防衛協力を加速させ、新たな安全保障の枠組みを生み出しているのです。
(minto)
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