ルーツはスイス?「木彫りの熊」発祥から100年
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北海道のお土産の定番といえば、木彫りの熊。誰もが一度は目にしたことがあるであろうメジャーなこの置物、実は海外から取り入れられたものだったのです。2月22日放送のCBCラジオ『石塚元章ニュースマン!!』では、北海道の「八雲町郷土資料館・木彫り熊資料館」学芸員の大谷茂之さんに、知られざる木彫りの熊のルーツについて尋ねました。聞き手はCBC論説室の石塚元章特別解説委員と加藤愛です。
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石塚「木彫り熊といえば、鮭を咥えて四つん這いになった姿のイメージですが。あれが一番オーソドックスなんですか?」
大谷「そうですね。いま皆さんが思い浮かべるものとしては、あれが一番メジャーでしょうか」
加藤「結構黒っぽいものですよね」
「木彫りの熊」と聞いて一般的にイメージされるのは、黒っぽいずんぐりとした熊が鮭を咥えているという姿ですが、もともとは鮭は咥えていなかったとか。
大谷「最初に作られたのは立った状態の熊で、しかも手のひらに乗るサイズだったんです」
加藤「小さい!」
石塚「どんどん大きくなっていったんですね」
鮭を咥え始めたのは、第二次世界大戦後になってから。戦後になって工芸品としての木彫り熊がよく売れるようになり、現在の鮭を咥えた姿が定番になったようです。
鮭は担ぐもの
大谷「実は咥える前は、鮭は背負うものだったんですね」
立った状態で鮭を担いでいるというのが、最初のいでたちだったという木彫り熊。
北海道のローカルCMには「笹の葉担いで鮭しょって」というフレーズがあるそうですが、これも昔ながらの木彫り熊のことを指しているのだとか。
大谷「明治時代あたりから、小学校の教科書にとある小話が載っていて。熊が鮭をとって笹の葉に刺して担いで歩いていくんですけど、知恵がないから笹の葉を結べず、刺した鮭をどんどん落としていくっていうものなんです」
さかのぼると、江戸時代から絵物語として残っているというこの話。戦前までの日本では、鮭を担ぐ姿の熊はパブリックイメージとして一般的に広く認知されていたようです。
発祥の地である八雲町でも、戦前まではそちらのタイプばかりだったとか。
スイスからやって来た熊
大谷「そもそもの流れとしては、実はスイスのものを参考にしているんです」
石塚「木彫りの熊がスイスにあったんだ!」
「ペザントアート」と呼ばれる、ヨーロッパの農民が作った木製の民芸品や美術品のうちのひとつだったという木彫り熊。
農業のできない冬の時期に、そういった民芸品を作り観光客向けに売ることで生計を立てていたそうです。
大谷「スイスって野生の熊は絶滅してて。『熊公園』という公園がベルンの都市にあるんですけど、そこに飼われてるだけなんです」
檻の中の熊を見ながら作られたため、スイスの木彫り熊は鮭も背負っていなければもちろん咥えてもいません。どちらかといえば小太りで、野性味のない姿をしていたようです。
きっかけは尾張徳川家
では、スイスの木彫り熊はどのような経緯で日本へ渡ってきたのでしょうか?
大谷「八雲町には尾張徳川家19代当主、徳川義親が農場を持っていたんです。ここの農場主だった義親が大正10年にヨーロッパを視察した時にスイスにも行って、農民たちが作った木彫り作品を見て感銘を受けまして。
『これは八雲でも農閑期の副収入にちょうどいい』ということで日本に持ち帰ってきたんです」
そこから八雲町での木彫り熊作りが始まったそうです。
最初はスイスの熊を参考に見よう見まねで作られていたものが、次第に独自の表現がみられるようになり、また地域によっても作り方に差が現れて、工芸品としての文化を確立していくようになりました。
お土産からアートへ
ひとくちに木彫り熊と言っても、作り手によってひとつひとつ表情が違うのが面白いところと語る大谷さん。
毛の掘り方ひとつとっても、毛皮があるように繊細に掘られていたり面で豪快に掘られていたり。掘った後は色を付けたり、あえて木の風合いを生かしたり。
仕上げの方法もラッカーや炭などさまざまです。
熊の姿もスキーをする、かごを持つなどのユニークなものから、擬人化といって人間らしい恰好をしているものもあり、非常に多岐にわたっています。
そんな木彫り熊は、2024年で発祥100周年を迎えました。
大谷さんは令和のいま、昭和に続いて再び木彫り熊ブームが訪れるのではないかと分析しています。土産物としてではなく、アートとして自分で作ってみたいという人が増えてきているのだとか。
スイスからやってきた木彫り熊が、再び日本の家庭に飾られるようになるのかもしれません。
(吉村)
番組紹介
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