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できれば食べに行きたくないグルメガイド?『めざせ!ムショラン三ツ星』

できれば食べに行きたくないグルメガイド?『めざせ!ムショラン三ツ星』

元CBCアナウンサーの小堀勝啓が、様々なカルチャーを紹介しているCBCラジオ『小堀勝啓の新栄トークジャンボリー』。9月8日の放送で紹介した書籍は『めざせ!ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版刊)。タイトルから想像できるように、刑務所での食事情が紹介されているとのことです。

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刑務所の献立を考える

小堀「ミシュランならぬムショラン。刑務所の食事の話です。この本で初めて知ったんですが、刑務所の食事は、受刑者自身が作っているんだそうです」

著者の黒栁桂子さんは、愛知県岡崎市出身で、現職の男子刑務所勤務の管理栄養士。

多くの刑務所の栄養士は非常勤ですが、黒栁さんは全国に20人ほどしかいない法務省専門職法務技官の管理栄養士です。

黒栁さんの仕事は、予算内で毎月のメニューを考え、週に1~2回は受刑者と一緒に炊事場に立って調理指導をすること。

ほとんどの受刑者は料理をしたことがない人ばかりで指導も大変。刑務所内では食事が大きな楽しみのひとつ。限られた予算で、飽きのこない多彩なメニューを考えるのも、これまた大変なことだそうです。

独特な調理風景

黒栁さんが勤務しているのは岡崎医療刑務所。ここは日本一小さな刑務所と言われているそうです。

現在、80人ほどの受刑者と、刑が決まる前に拘置されている拘置者、合わせて110人分ぐらいに当たる食事を毎日用意する必要があります。
調理チームは、黒栁さん以外は全員男性受刑者11人。

調理場は刃物もあり、火も使えるので、調理スタッフに選ばれる人は頭も良くて体力もあって、かつ性格が穏やかな初犯の人たちだそうです。

炊事場に行くには、毎回鍵のある8つの関門を通ります。炊事場には監督・監視する男性の刑務官がいて、黒栁さんが受刑者を指導。

号令に始まって号令に終わる作業。黒柳さんも最初は戸惑ったそうです。

例えばニンジンを入れて醤油を入れるという単純な作業も、「ニンジン入れます!」「醤油入れます!」と受刑者が大声で報告。刑務官もそれに対して毎度「よし!」と指さし確認するとか。

呼び出されてびっくり

一食の献立は、基本的に主食と副食3品。
朝は麦飯に味噌汁で、市販の佃煮や総菜の他にふりかけや味付け海苔が出る時もあるそうです。
昼と夜は、麦飯かパンか麺類のどれかが主食。それに汁物と焼き物、デザート。

気を遣うのは平等な配分。受刑者にとっては、食事は大きな楽しみ。少しの量の違いがいざこざの原因になりがちなんだとか。

ある時、黒栁さんが事務所で書類整理をしていると、刑務官から内線電話で緊急の呼び出しを受けたそうです。

びっくりして厨房へ駆けつけると、厚焼き玉子がデーンとまな板の上に鎮座。それを囲んで、無言で見つめている受刑者。一体何が?

受刑者にはできない

厚焼き玉子は、普段なら20等分にカットされたパックが納入されます。
ところがその日は手違いで、切られていないものが数本納入されてしまったそうです。

これをどうやって20等分するのか?受刑者がパニックになってしまって、黒栁さんが呼ばれたのでした。

黒栁さんが1本を等分に切って見せると、受刑者たちから感嘆の声。「あとはやってみて」と促すも、「先生が全部やって下さい」と言われたそうです。

玉子焼きはおかずの中でも人気が高いメニューで、大小は受刑者の間でも大問題。
栄養士さんが切り分けたのなら、多少の大きい小さいがあっても文句は言わないだろうという考えだそうです。

厨房のドタバタ

その他にも、独特なエピソードが盛りだくさん。

ポテトサラダがいつも水っぽいことが気になった黒柳さん。作るところをチェックしてみたら、茹でたジャガイモに水道水をジャージャーかけ冷やしていたとか。
他にも冷凍コロッケを、いきなり熱い揚げ油に大量に投入して破裂させたエピソードや、皮つきバナナとアルミホイルに包んだものはメニューに入れてはいけない理由などが書かれています。

また黒柳さんは、料理に興味を持った受刑者から「出所後に調理師免許を取りたい」と相談を受けたこともあったそうです。

国家資格である調理師免許の受験資格は中学卒業以上で、2年以上の実務経験があること。
実はこの実務経験として、刑務所での調理スタッフ業務も認められます。
この受刑者は出所後、実際に調理師資格を取得したそうです。

クサくないメシ

小堀「資格を取っても、前科があるので就職が容易でないのが実社会です。それでもこういう資格を取ることで、再犯率はぐっと下がると黒栁さんは言っています」

本の表紙には「刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります」とあります。

小堀「昔はドラマで出所して来た人が『クサいメシ食ってきた』とか言ってましたけど、今や栄養面と味のことも考えられている時代になりました」

黒栁桂子著『めざせ!ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』は、東海三県の書店員が選ぶ「日本ど真ん中書店大賞」を受賞しています。 
(尾関)

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