学園ミステリーアンソロジー『放課後推理大全』の魅力を解説!
水曜日の「CBCラジオ #プラス!」では、書評家の大矢博子さんが小説などおすすめの新刊を紹介しています。8月21日の放送では、大矢博子さん自身が編集した学園ミステリーアンソロジー『放課後推理大全』(朝日文庫)をピックアップ。全7作のそれぞれの魅力について語りました。
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「アンソロジー」とはひとつのテーマに基づいて複数の作家の短編を一冊にまとめたもので、クリスマスソングばかりを集めたようなオムニバスアルバムの小説版といえます。
今回紹介したアンソロジーは、学園ミステリーというテーマで誰のどの短編を収録するのかを決めたのが大矢さんです。
収録作家は有栖川有栖さん、金城一紀さん、栗本薫さん、城平京さん、友井羊さん、初野晴さん、米澤穂信さん。
書評家である大矢さん厳選の学園ミステリープレイリスト7作品を本人が解説しました。
舞台が高校の作品 その1
城平 京「岩永琴子は高校生だった」
この作品はアニメ化し話題となった虚構推理シリーズのひとつです。
主人公の琴子が幽霊や妖怪が見えたり話したりできる能力を使って難事件を解決していく物語。高校生だった時代にミステリー研究会で起きた事件を解いていきます。
この作品、本来は短編ではなくて長編の第1章ですが、この1章だけで話が完結しているため、一章だけで独立した短編として収録した掟破り的ポジションです。
友井 羊「カトルカールが見つからない」
クラスメイトから人探しを頼まれた女子高生。この女子高生は吃音症で悩んでおり、人と話すのが苦手だが断ったけれど…といった物語です。
謎解きの面白さはもちろん、吃音はただの緊張しやすさから起こるだけなど、世間に出ている誤解を解いてくれるような症状の解説が読みどころです。
舞台が高校の作品 その2
初野 晴「アスモデウスの視線」
高校のあるクラスで、1ヶ月で3回もクラス替えが行なわれました。一体その理由は何なのか…というミステリーです。
初野さんについて「とにかく文章がめちゃくちゃ楽しい作家さん」と評価する大矢さん。読みながらケラケラ笑ってしまうような、センスのいいコントのような会話を書くそうです。
それでいて楽しいのに笑っていると実は謎解きにシビアな社会問題が組み込まれており「笑っている場合じゃなかったぞという落差がとても魅力」だと大矢さんは語りました。
米澤 穂信「ない本」
高校の図書委員が主人公。自殺したクラスメイトが最後に読んでいた本を知りたいという依頼を受け、図書委員がわずかな手がかりからその本を探し出す物語です。
直木賞作家である米澤さんのビターな青春ものが読めると大矢さんは絶賛しました。
舞台が大学の作品
有栖川 有栖「瑠璃荘事件」
ある学生のノートが盗難され、同じ下宿の学生が疑われます。その濡れ衣を晴らせるかという物語です。
舞台は昭和最後の年である1988年。現代とは学生の在り方がかなり異なる様が描かれています。
現代では少なくなってきた下宿についても細かく描写がされているため、大矢さんは「下宿生活の実態を読み取ることができ新鮮に感じるのではないか」と語りました。
金城 一紀「永遠の円環」
青春小説を中心に活動している金城さんですが、ミステリー作品もあるぞという隠し弾的作品がこの「永遠の円環」です。
主人公は病気で余命わずかな“僕“。死ぬ前にある人物を殺したいと思っています。体がいうことをきかないため、見舞いに訪れた学友にある手伝いを頼む…。
学友は顔見知り程度で交友がほとんどありません。なぜ見舞いに来るのかというところから謎が生まれます。
栗本 薫「伊集院大介の青春」
1968年の昭和中期が舞台です。70年安保闘争で全国の大学が学生運動の最中にあり、この翌年には東大入試が中止になることがありました。
そんな学生運動の最中に、大学の校舎から学生が突き落とされる事件が起き、物語が動きます。
大矢さんは見所について「学生運動というともはや歴史になってしまっていますが、時代によってこんなにも青春の形が違うのかというのを味わっていただけるのではないかと思います」と語りました。
オリジナルを読むとより楽しめる
以上全7作品の見どころでした。
金城さんの作品以外はシリーズものや、連作短編集のひとつになっているものばかりです。
短編で読んでも楽しめますが、そのオリジナルの一冊を読むと、この短編自体が次の短編の伏線になっている…など、また違った読み応えが楽しめます。
アンソロジーは知らない作家との出会いの場。
気に入った作品があれば、その人の他の作品に手を伸ばしてみてくださいね。
(ランチョンマット先輩)