舞台のひとつにパリ五輪が!書評家おすすめスポーツ青春小説、額賀澪『夜と跳ぶ』
水曜日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんがおすすめの新刊書を紹介しています。8月7日にピックアップしたのは額賀澪さんの『夜と跳ぶ』(PHP研究所)。「パリ五輪も佳境を迎えているこのタイミングで読んでほしい」と大矢さんが推すスポーツ青春小説です。
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主人公である38歳のスポーツカメラマン・与野はパリ五輪にもカメラマンとして参加する予定でした。
しかし国内の陸上大会の撮影中に暴力事件を起こしてしまい、業界から干され、パリ行きもなくなりやさぐれてしまいます。
そんなある夜、与野は渋谷で、3年前の東京五輪のスケートボードで当時16歳で金メダルを取った大和に出会います。
大和はメダルを取って以降、児童養護施設出身という背景もあり一躍時の人に。
しかししばらくするとメディアに全く出なくなり、公式大会にも出なければパリ五輪にも出ず、消えた金メダリストと言われていました。
そんな大和が夜の渋谷で自由気ままにスケートボードを楽しんでいるのを見て与野は「アスリートはメダルのために懸命に頑張っているのに何をチャラいことしているんだこいつは」と腹を立てます。
しかし大和のパフォーマンスに魅了され、いつしか与野はスケートボーダーの専属カメラマンになっていました。
38歳の崖っぷちおじさんと18歳の金メダリストの凸凹バディは一体どこに進むのでしょうか。
スポーツに対するメッセージ性の強さ
大矢「スポーツって一体なんのためにやるのか、という問いかけがある」
この物語は、児童養護施設出身の大和がどんな事情で東京五輪に出場したのか、なぜメディアにも公式大会にも姿を見せなくなったのかという疑問が小説を貫く大きな柱となっています。
事情は様々ありますが、ひとつはスケートボードの認知度向上。
大和は五輪で金メダルを取れば、ストリートでのスケートボードが認められるのではないかと思っていました。
しかし実際は金メダルが持て囃されるだけで、世間のストリートでのスケートボードに対する「迷惑、チャラい、不良」などの印象は全く変わりませんでした。
スケートボードはストリートが発祥の競技です。
階段や斜面、縁石などをどう利用してトリックを作るかを考えて行うパフォーマンスから始まったスポーツであり、大和はそのスピリットを否定されたくありません。
そこでスケートボードの認知度を上げるために五輪に出場しましたが、全く叶わなかったことで絶望してしまいます。
さらにメディアは大和のパフォーマンスよりも児童養護施設の面ばかりフォーカスして御涙頂戴に仕立て上げようとするばかり。
メディアも視聴者もスポーツに興味があるのでしょうか。スポーツの取り上げ方にも鋭く切り込みます。
「他にも大和が姿を消した理由は様々あるので読んでほしい」と語る大矢さん。
スポーツものでもありサスペンスでもあり
大矢さんによると、この物語はなんと途中からサスペンスになります。
与野と大和は、都内を騒がす連続空き巣事件や通り魔事件に巻き込まれてしまうとか。
そこでスケートボードの技が役に立ったり、逆に大和の金メダルが盗まれたり、ミステリーの方にも流れていきます。
そして犯人を追ううちに意外な事実がわかってくるということです。
作者である額賀さんは、若いアスリートと挫折した中年の組み合わせの小説を多く出版しています。
棒高跳びの選手とお笑い芸人、競歩の選手と小説家などのタッグから、スポーツ自体の魅力を掘り下げていくシリーズです。
そんな中で『夜と跳ぶ』の最後の場面は2024年8月8日のパリ。
この日、与野と大和は何をしているのか?ぜひこのタイミングで読んでみて下さい。
(ランチョンマット先輩)