書評家が直木賞候補作を徹底考察!

書評家が直木賞候補作を徹底考察!

第171回芥川賞と直木賞の選考会が7月17日に行われ、芥川賞に朝比奈秋さんの『サンショウウオの四十九日』(新潮5月号)と松永K三蔵さんの『バリ山行』(群像3月号)が、直木賞に一穂ミチさんの『ツミデミック』(光文社)が選ばれました。賞が決まった作品はもちろん、候補作も秀逸な作品ばかりです。同日の「CBCラジオ #プラス!」では、書評家の大矢博子さんが直木賞の候補作全5作品を解説しました。

直木賞の傾向から考察

第171回直木賞の候補作は全部で5冊です。

青崎有吾『地雷グリコ』(KADOKAWA)
麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)
一穂ミチ『ツミデミック』(光文社)
岩井圭也『われは熊楠』(文藝春秋)
柚木麻子 『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社)

選考会前の放送では、大矢さんが受賞する直木賞作品を予想しました。

これまで6回連続で的中させていましたが、今回の予想は『あいにくあんたのためじゃない』で残念ながら外れ。
しかし大矢さんの見事な考察はパーソナリティから何度も感嘆の声を出させました。

物語の内容から、直木賞の傾向から選ばれるかどうかなど、受賞作も含めて5作品全てを解説です。

青崎有吾『地雷グリコ』

大矢さん曰く台風の目となったこちらの作品。
勝負事に強い女子高生が文化祭の場所取りをかけてゲームをします。
じゃんけんで階段を登る「グリコ」や、神経衰弱、だるまさんが転んだなど一般的なゲームをやりますが、それぞれに特殊なルールが加えらており、頭脳戦になっていく頭脳バトルゲーム小説。

このような内容は『カイジ』や『ライヤーゲーム』など漫画ではお馴染みですが、小説で描くのは珍しいです。
『地雷グリコ』は日本推理作家協会賞や本格ミステリー大賞などミステリーの賞を総なめにしていますが、感動や社会性を重きに置く一般文芸のステージではエンタメに特化しているのではと大矢さん。

しかし今年の5月に大きな文学賞である山本周五郎賞を受賞した時、「これが周五郎賞を取るの!?」と界隈がざわついたそうです。
そのため直木賞も狙えるかと思われますが、「これ小説じゃないでしょ?」と指摘する選考委員が現れるのではないかと大矢さんは予想しました。

『地雷グリコ』が賞を取ったら直木賞の歴史が動くと評価し、大矢さん自身も少しそれを期待していたようです。

麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』

麻布競馬場さんはもともとSNS『X』(旧Twitter)で小説を書いていた方で大人気になり、作家デビュー2作目の作品が早くも直木賞候補作となりました。

エリート大学に通う若者が意識高い系の社会人になる様子を、意識低い系の人が冷笑気味に見ている物語です。
Z世代とは何かを描いており、若者小説として興味深い、社会をえぐった作品。

作者はZ世代ではなく、Z世代の読者が読んでどう思うかはもちろん、大矢さんは比較的高齢の選考委員会の人もどう受け止めるのかが選考の鍵となりそうと考察しました。

一穂ミチ『ツミデミック』

一穂さんは直木賞3回目のノミネートとなりました。

『ツミデミック』はコロナ禍で起きた犯罪をテーマにした短編集です。
緊急事態宣言やパンデミックの影響で経営が難しくなった店主など、これまで善良に生活していた人がふとしたはずみで犯罪に走ってしまう様子が描かれています。
コロナはなんだったのかを社会の面から見ている作品。

他にもUber Eatsやゲームの課金問題など、現代の様々な側面を切り取ったもので、非常に直木賞好みだそうです。

ただ大矢さん曰く、『地雷グリコ』『令和元年の人生ゲーム』の個性が突き抜けていて、選考会では小粒にみえてしまう可能性があると考察しました。

直木賞好みという考察がピタリ的中、見事直木賞受賞です。

岩井圭也『われは熊楠』

今回の候補作唯一の長編であり、直木賞を取りやすい歴史小説。
知の巨人と言われた博物学者・南方熊楠の人生を描いた作品です。

慶応元年に生まれた南方は学問で身を立てたいが親に反対される。
それでも学問を続けたがなかなか研究が日の目を見ない…。

この作品は「非常に面白いんだけど」と大矢さん。
熊楠自体が面白い人物のため、小説の力がどこまで働いているのかというところを見られそうだと考察しました。

柚木麻子 『あいにくあんたのためじゃない』

「これが問題!」と言う大矢さん。

柚木さんは今回でなんと直木賞ノミネート6回目となります。
大矢さん曰く、ノミネート5、6回目が賞のあげ時なんだとか。
選考委員も4回~6回候補に挙がってやっと賞を貰った人が多く、柚木さんのような方の気持ちがわかるそうです。

物語は、ネットで他人を叩いて正義を成したような気になっている人や、子どもの声に文句を言う人、無断で他人の動画を撮る人など日常にいる腹の立つ人達がスカッと成敗される痛快な短編集。
作者ならではのユーモラスな語り口で問題の根っこはどこにあるのかを書いた作品です。

ノミネート6回目で賞をあげ時ではあるけれど、これまでノミネートされてきた作品はどれも社会問題をがっつり書いてきた長編のため、これまでと比べると今回の短編集は軽い感覚になってしまうではと危惧しました。

そして6回目での受賞はならず。
7回目のノミネートで受賞を期待します。

いかがでしたか。
直木賞の傾向を把握して読むとまた違った味わいがあるかもしれません。
受賞作だけでなく、気になった候補作も読んでみてはいかがでしょうか。
(ランチョンマット先輩)
 

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