昭和の珍品おもちゃ~オスとメスを判別する不思議なペンダントを覚えていますか?
それは「ミステリーファインダー」という名前だった。半世紀以上の歳月を経て、今も筆者の手元に残っている品、チェーンの先に5センチほどの小さなペンギンの人形が付いている。チェーンの端を持って、このペンギンを何かの上にかざすと、男か女か、または、オスかメスかを判別するという“ペンダント”だった。ファインダー(Finder)とは「判別器」、まさに“不思議な判別器”だった。
オスとメスで変わる動き
取扱説明書も残っている。冒頭に「人間・動物・鳥・魚はもちろんのこと、肉・刺身・昆虫などの雄雌が不思議に判別できる秘法」と書かれている。使用方法は「風の当たらない場所で、手を動かさないように、鎖の端を持って対象物の上に垂らす」。その上で、直線に揺れれば「雄(オス)」、楕円を描くように動けば「雌(メス)」と書かれている。「動かない場合は、自分で運動を止めているか、うたがい深い方です」という但し書きもある。「うたがい深い」という一文が何とも強烈だ。
不思議な商品を手にした日
この「ミステリーファインダー」を手にしたのは、1970年代、昭和40年代後半の小学生時代だった。名古屋駅前のデパートに「王様のアイデア」という、ユニークなアイデア商品ばかりを扱っている店があり、そこで母親が購入してきてくれた。早速、試してみる。自分の手のひらにかざすと、それは「男」を示す縦揺れだった。母親の手の上では、ペンギンは「女」を示す円を描いた。飼っていた犬でも試してみると「オス」を示す。正解だ。その日は、家族全員から始まり、犬やジュウシマツなどのペット、さらに、庭の植物など、とにかく夢中で試し続けた記憶がある。
子ども心に芽生えた疑問
なぜ判別できるのか、その仕組みについて取扱説明書には「生物の雄には陽電気、雌には陰電気があり、その生物電気にはサイクルに微妙な差異があり、電気化学的インパルスと正確な生理的答鼓振幅を応用」と書かれているが、正直理解するには難しい。「生理的答鼓振幅」という言葉も理解が難しい。好奇心旺盛な子どもの時代、しばらくの間、いろいろ“判別”して遊んだ後、どうしても謎を放置したくなかった。これは人間がチェーンを持つから意識が伝わって動きが生まれるのでは?と考えた。
「不思議」の解明に挑戦
そこで指先で持つのではなく、鎖を机からぶら下げて固定し、その下に手のひらをかざしてみた。すると、ペンギンは微動だにしなかった。やはり“人の意識”が伝わって、それが動きとなるのだろう。目の前にいるのが男か女か、雄か雌か、分かっているなら、その意識は何となく手の先に伝わるはず。はたしてそれが正解かどうか分からないが、答えらしきものにたどり着いて、子ども心に安心した記憶がある。
たどり着いた真実とは?
歳月を経て、あらためて取扱説明書を読んで、気づいたことがある。
「日常のストレス解消にも、精神統一剤としても、家族団らんのお食事中にも試して、大笑いをしながら楽しくお過ごし下さい」
「いわく言い難い不思議な現象ですが、めんどうくさい理屈理論はさておいて、子どもさんも大人も、アクセサリー、高尚なおもちゃとしてお楽しみ下さい」
いろいろ表現を変えながら「これは玩具(おもちゃ)なのだよ」と、くり返し念を押しているのだった。
「ミステリーファインダー」の狙いは、それを試す人に対して「なぜ?」と考えさせ、楽しませることだったのかもしれない。それこそが「ミステリー」が付いた名前の由来なのか。男性とか女性とか、そういう区別とか価値観とかはなくなった平成時代、そして令和の現在。それ以前の昭和の時代には、このような何とも摩訶不思議な品も存在していたのである。それも時代の“記憶遺産”なのだろう。
【東西南北論説風(499) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※『北辻利寿のニッポン記憶遺産』
昭和、平成、令和と時代が移りゆく中で、姿を消したもの、数が少なくなったもの、形を変えたもの、でも、心に留めておきたいものを、独自の視点で「ニッポン記憶遺産」として紹介するコラムです。