サザン10年ぶりの茅ヶ崎ライブ!披露された至極のセットリストに酔いしれた夜
夕闇迫る茅ヶ崎の海風に頬をまかせながら開演を待つ、はずだったのだが、実は名古屋市内の映画館にいる。サザンオールスターズ、デビュー45周年を記念して、10年ぶりとなる“故郷”茅ヶ崎でのライブ。公式ファンクラブ「SAS応援団」のチケット抽選から始まり、一般抽選まですべて“撃沈”した。初期の名曲『茅ヶ崎に背を向けて』でなく「背を向けられて」しまい、2023年9月30日、そして10月1日の2日間、映画館でのライブビューイングに参加した。何はともあれ“リアルタイム”にはこだわりたかった。
幕開けは茅ヶ崎の「C」
注目の1曲目は何だろうか。サザンオールスターズ、そして、桑田佳祐さんのソロライブでは、ファンの間で毎回、予想合戦もある。今回のライブで選ばれたのは、デビュー翌年の1979年(昭和54年)に発表された『C調言葉に御用心』だった。また予想は外れてしまったが、大好きな曲だけに文句なし、一気にテンションが高まる。茅ヶ崎海岸のシンボルでもあるモニュメント「茅ヶ崎サザンC」の「C」から選曲されたのだろう。茅ヶ崎のライブのスタートに相応しい曲だった。
怒涛の9連続に興奮!
2曲目にデビューアルバムからの1曲『女呼んでブギ』を披露して、あらためて45年の歩みを印象づけた後は、一気に連続9曲の披露があった。次々と歌われる、時代を越えた名曲の数々、その息もつかせぬステージタイムは圧巻だった。『OH!! SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』では、桑田さんが自らキレキレのギターテクニックを存分に魅せた。この曲はじめ『夏をあきらめて』など、舞台が茅ヶ崎とあってか「夏」をテーマにした曲が多かったのも今回の特徴だろう。
サザンこそ5人の“故郷”
怒涛の演奏は、10曲目の『そんなヒロシに騙されて』にたどり着く。原由子さんボーカルのこの歌の、何とも昭和チックなイントロが流れた時の「おー」という大歓声。桑田さんのハモリとの“夫婦競演”は感動的であり、あえて度々スクリーンに映し出されるドラマーの松田弘(ヒロシ)さんの姿にも笑った。曲の後半は、原さんとパーカッションの野沢秀行さんもステージ前に登場し、桑田さん、そして、ベースの関口和之さんと共に歌う。この5人の姿が実に楽しそうだった。何より、桑田さんが“はしゃぐ”。やはり茅ヶ崎と同様に「サザン」はメンバー5人にとっても“故郷”なのだろう。
あのドラマの世界にも誘う
昭和の時代に放送された人気ドラマ『ふぞろいの林檎たち』。山田太一さんの脚本で、大学生ら若者たちの生きることへの葛藤を、中井貴一さんの主演で描いた名作だが、そのドラマを盛り上げたのが、サザンの数々の曲だった。同時に、このドラマによって、サザンの歌も、さらに幅広い世代に周知されたのだった。ステージでは、主題歌『いとしのエリー』はじめ、『My Foreplay Music』『栞(しおり)のテーマ』が披露された。ドラマが放送された1980年代に思いを馳せた人も多かったはずだ。こうした風景も、デビュー45周年の財産のひとつである。
これ以上のセトリはあるの?
今回の茅ヶ崎ライブのテーマ曲『歌えニッポンの空』、そして『盆ギリ恋歌』など新曲と共に、演奏されたセットリストは“圧巻”のひと言だった。『真夏の果実』『LOVE AFFAIR ~秘密のデート』『ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)』、さらに「G」ではなく「爺」と書いたヅラ(かつら)をかぶった『マンピーのG★SPOT』と、誰もが知り、誰もが愛する曲が次々と歌われていく。『みんなのうた』では、久しぶりに恒例のパフォーマンス“水かけ”が登場した。桑田さんが、ホースを使って、客席に放水する。この時ばかりは、映画館のスクリーンから水が飛び出して来てくれないかと思った。会場でそれを浴びたファンは、さぞや幸せだったことだろう。聴きたい曲はまだまだ多い。しかし、それが何かすぐに思いつかないほど、サザン名曲のオンパレードだった。
感動のクライマックスに酔う
アンコールに入り、ラスト3曲は、これしかないという締めの3曲だった。学生バンドだった思い出を切ないメロディーラインで歌う『Ya Ya (あの時代を忘れない)』の時には、メンバー5人の若かりし頃の写真が映し出されて、思わず胸が熱くなった。『希望の轍』は、2000年(平成12年)に開催された初めての茅ヶ崎ライブの記念すべき1曲目だった。そして、ラストはデビュー曲の『勝手にシンドバッド』。何回聴いても、いつの時代に聴いても、心から元気が出るこの歌で、全25曲、最終日は全26曲の圧巻のステージは、大団円となった。会場、そして、全国およそ270の映画館ライブビューイングを含めて、4日間で27万人余りが参加した。茅ヶ崎の夜空には花火が打ち上がり、夏から秋への熱き“祭り”は幕を閉じた。
歌い終えたサザンメンバー5人の晴れやかな顔。サポートメンバーたちの笑顔。そこには、この一大イベントを成し遂げたことへの満足感が広がっていた。桑田さんが宣言した「サザンは次なる計画を練って、またご報告します」という言葉に、茅ケ崎から遠く離れたライブビューイング会場でも割れんばかりの拍手が起こった。
ありがとう!サザンオールスターズ、同じ時代に生きていて、そして、45年の歳月を一緒に歩んでこれて、本当に良かった。
【東西南北論説風(457) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】