アマビエ乗せた桑田佳祐とサザンオールスターズが日本列島を元気づけた夜
待ってました!という声が日本全国から沸き上がった夜だった。サザンオールスターズが初めての無観客ライブを行い、その模様をネットで一斉に生配信し、新型コロナウイルスで息苦しい日々を過ごすファンを元気づけた。
50万人が“見た”配信ライブ
2011年の東日本大震災の時には、応援ソング『Let's try again』を同じ事務所の福山雅治さんらと発表、さらにソロとしても『明日へのマーチ』を歌うなど、積極的に被災地支援を行ってきた桑田佳祐さん。今回の新型コロナ禍の中、満を持して決めたのが、サザンオールスターズのメンバーによるライブだった。それも6月25日というサザンのデビュー記念日に、これも“聖地”である横浜アリーナで開催するというものだった。
ライブはメディアを通して一斉に配信されて、18万人が“チケット”(3600円)を購入してアクセスした。事務所の発表では、その家族や友人ら推定50万人が視聴した、新しい様式での“大ステージ”になった。
新型コロナ対策あふれるステージ
無観客の横浜アリーナ。1曲目の『YOU』では、いつもと勝手が違うのか、桑田さんの声も時おり上ずっていた印象だったが、3曲目の『希望の轍』あたりからは、普段通りのノリノリで魅力たっぷりの歌唱になった。この日のステージでは、ウイルス感染防止への様々な取り組みが見られた。メンバー以外の舞台袖のスタッフはマスク姿、ステージを彩るダンサーたちもマスクをしている。いつもは桑田さんと絡む距離も“ソーシャルディスタンシング”を保っている。桑田さんの足元にはアルコール消毒液。バンドの間には飛沫防止のためのパーティションも置かれていた。歌詞にも新型コロナに対する言葉が盛り込まれた。「大変な毎日をご苦労様。今日は楽しくいきましょう」。
至極のバラード『真夏の果実』の時は、会場のすべての席に灯りが点った。ひとつひとつの席に、ライブの際に入場者が手首に巻く光るリストバンドが設置されていた。スタッフの大変な苦労の賜物であり、その温かい気持ちが伝わってきて感動した。
桑田の頭上で踊るアマビエ
圧巻だったのは、人気曲『マンピーのG★スポット』だった。ライブではほぼ毎回披露されるが、その度に桑田さんがかぶるヅラ(かつら)が注目を集める。名古屋でのライブの時は名古屋城の天守閣が乗った時もあった。そして今回は、新型コロナ禍の中で紹介されるようになった妖怪アマビエと共に「疫病退散!!」の文字が頭上で踊った。
それに続いたのはデビュー曲『勝手にシンドバッド』だった。医療関係者や市中で新型コロナと格闘している人たちへ、として「つつしんで我々の42年前のデビュー曲をお届けします」という言葉には、バンドの“誕生日”にこの配信ライブを敢行した心意気があふれていて、画面に向かって思わず拍手をしていた。
明日への扉を開けたサザン
新型コロナによって、様々な社会活動が制約を受ける中、放送界や芸能界でも次第に、その不自由さを逆手に取るようなユニークな試みが見られるようになった。
例えば、人気アイドルグループ嵐の番組では、メンバー5人が別々の場所からリモート出演して自分たちの持ち歌に合わせて踊り、音が途切れた後も誰が一番ぴったり踊り終えるかを競うゲームを行った。これが実に面白いのだ。番組スタッフそれぞれが自粛中に自宅で挑戦したことを撮影して、その映像素材を持ち寄って制作した番組もあった。落語家による大喜利をリモートで見せる番組では、一瞬にしていつもの席順を入れ替えることも演出で取り込んでいた。そして今回のサザンの無観客ライブでは、会場を縦横無尽に動き回る40台ものカメラによって、ステージをより一層、多角的に映し出していた。
サザンオールスターズと同じ事務所に所属している星野源さんが「お客さんがいないことが感じられない楽しいライブだった。すごく勇気をもらった」と絶賛したことも十分に納得できるステージだった。新型コロナ禍に向き合う各アーチストにとっても、きっと今後の配信ライブの新たな指標になるであろう。
ちょうど1年前は夏にかけて40周年記念の全国ツアーを行っていたサザンオールスターズ。今回の配信ライブの収益の一部は医療機関に贈られるという。「with コロナ」の時代に踏み出した中、梅雨空の下で新たな歴史を刻んだ、希望あふれるステージだった。
サザンオールスターズと同じ時代に生きていることを、心から良かったと思った一夜だった。
【東西南北論説風(173) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】