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自転車はじめて物語~日本での進化、変速機そして世界初の電動アシスト誕生へ

自転車はじめて物語~日本での進化、変速機そして世界初の電動アシスト誕生へ
CBCテレビ:画像『写真AC』より「サイクリング」

名探偵シャーロック・ホームズを思い出した。「自転車」が19世紀のヨーロッパで生まれた、と知った時である。諸説ある中、そもそもの原点は、子ども用の木馬に車輪をつけて、それにまたがった大人が、地面を蹴って走ったことと伝えられる。その舞台のひとつが英国らしい。

シャーロック・ホームズは、その19世紀後半に、英国の作家アーサー・コナン・ドイルが、小説によって世に送り出した名探偵である。56ある短編の中に「自転車乗り」をテーマにした一編がある。『シャーロック・ホームズの帰還』に収められていて、原題は『The Adventure of the Solitary Cyclist』。「孤独な自転車乗り」などと訳されてきた。主人公である家庭教師の女性が、一本道を自転車で走る度に、後ろからもう1台の自転車が現れ・・・という謎を、ホームズが解き明かすミステリーなのだが、物語では「自転車」が重要な役割を果たしている。ドイルも、発明されたばかりの「自転車」に注目していたのだろうか。

そんな「自転車」、日本には、江戸時代の末期に持ち込まれた。明治時代に入ると、主にレクリエーション用として使われ、やがて、その便利さから“移動手段”として広がっていった。この二輪車は、ニッポンの開発技術によって、世界が驚く進化の道を歩む。

CBCテレビ:画像『写真AC』より「自転車の変速機」

最初の進化の舞台は、戦国時代に“鉄砲の町”として知られた大阪の堺。老舗の鉄工メーカーによって、後輪の歯車である「フリーホイール」や「変速機」などの開発が進んだ。走る地形によって、様々なスピードを選ぶことが可能になるシフトチェンジの技術は、海外からも高い評価を受けるようになっていく。各メーカーが製造する、変速機が付いた少年用のサイクリング自転車は、昭和時代の子どもたちにとっては、あこがれの的だった。学校の放課後、子どもたちは、友人と一緒にささやかな“ツーリング”を楽しんだものだ。

自転車に大きな革命の波がやってくる。静岡県浜北町(現・浜松市)に創業した「ヤマハ発動機」、モーターバイクで世界的に有名なメーカーである。バイクの他に、かねてから同じ二輪車である「自転車」に注目していた。考えたのは「人の力でこぐ自転車に、モーターを付けて、走る力を助ける」すなわち「ペダルをこぐ力をアシストする」発想だった。ヤマハには、バイク製造で培ったエレクトロニクスの技術があった。ヤマハの公式ホームページ内「ヒストリー」などに開発の歴史が紹介されている。二輪車と電動モーターの回転を合体させて、「ペダルをこぎ始めると、回転軸にかかる力とスピードをセンサーが察知して、電流がモーターに流れて動き出す」仕組みだった。それをコントロールできるシステムを開発した。

こうして、1993年(平成5年)に、世界で初めての画期的な自転車「電動アシスト自転車」が誕生した。「パワー・アシスト・システム(Power Assist System)」の頭文字を取って、商品名は「PAS(パス)」と名づけられた。電池はフルに充電して、20キロ走行できた。

CBCテレビ:画像『写真AC』より「子供乗せ電動アシスト自転車」

電動アシスト自転車は、坂道でも、向かい風でも、そして、荷物を積んでいても、まるで“誰かに背中を押されている”感覚で、走ることができた。発売された頃は、主に年配の人が利用した。弱ってきた体力を補う、そんなイメージの乗り物だったが、2000年代に入ると、世の“お母さん”たちが注目するようになった。小さい子どもの送り迎えや、買い物の時などに“楽に乗れる”自転車として、一気に人気を集めた。電動アシスト自転車は、いわゆる「ママチャリ」の主役となった。

ヨーロッパで生まれた自転車は、ニッポンの開発技術とアイデアによって、老若男女問わずに誰からも愛され、そして利用される乗り物として、大きく進化したのだった。「自転車はじめて物語」のページでは、日本の文化の歩み、その確かな1ページが、自慢の変速機とモーターによって“進化という名の坂道”を、今日も軽やかに上り続けている。

          
【東西南北論説風(443)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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