新型コロナに感染 中傷に悩み…無言電話にデマ それでも「気づけたことがある」
「もう忘れることにしているというか…」
岐阜県多治見市の子育て支援を行うNPO法人「Mama's Cafe」の理事長・山本博子さん。
2020年7月、新型コロナウイルスに感染しました。
『死ぬのかと思って怖かった』
『精神的にかなり追いつめられる。涙が止まらなかった』
山本さんが当時書き留めていた文章です。
冒頭には「2020コロナ記録」の文字。
二十歳を過ぎた息子の感染がわかったことで、母親の山本さんもPCR検査をすると、結果は陽性。
無症状でしたが、その日のうちに入院することに。
そして、SNSでこう発信しました。
『息子に続き私もコロナ陽性者となりました』『見たことのない景色を見ています』
当時、多治見市で感染した人はごくわずかでした。
「こういう仕事もしていたので、即日そのまま公表しました」(NPO法人Mama's Cafe 山本博子 理事長)
Q.公表した理由は、お店を運営しているから?
「そうです。客商売をしているというのもあったし、多くの人に会っている仕事なので。あとは、小さな町で根も葉もないような噂が出る前に、正しい情報を流そうと思い公表しました」(山本さん)
寄せられたメッセージ「たった1パーセントの中傷が…」
「たくさんのメールや電話をもらい、90%以上が励ましでしたが、たった1、2%の心ない誹謗中傷は破壊力が抜群でした。正しい情報を流しているのにデマが流れて、すごく絶望していました」(山本さん)
記録には後悔の気持ちも
『自分の知らないところで、たくさん迷惑をかけているというのを突き付けられ、苦しくなる』(山本さんの記録より)
「感染したばかりの頃は、恐怖と不安なんです。自分の病状がどうなってしまうのかとか、どれだけたくさんの人に迷惑をかけてしまうのかという不安とか、店のことはどうなってしまうとか…2、3日後になってくると、今度は懺悔と後悔しかない。あの人が濃厚接触者になってしまったのは、3日前に私が会ってしまったからだとか、あの時にあの場所に入らなければよかったとか…」(山本さん)
自分を責める気持ちなど、精神的なダメージがどんどん大きくなっていく中で、自分へ向けられるSNS上での視線も気になっていきます。
書き留めた記録には…
『フェイスブックに「公園近くのカフェオーナーがコロナに感染したから公園にはいかない方がいい」と書かれているのを発見。ここで完全に心が折れた』(山本さんの記録より)
入院中スマホに無言電話が…
さらに、スマホには“無言の非通知電話”がかかってきたといいます。
その恐怖も忘れられません。
「これだけ誹謗中傷を受けるということは理不尽じゃないかという、怒りの感情が抑えきれなくなっていて、相当気持ちが落ちていってしまった」(山本さん)
入院生活は約2週間。ベッドの上で、こころに大きなダメージを受けることに。
誹謗中傷をする人たちに思うことは…
「そっとしておいてほしかったですね。隔離された部屋の中で闘っているときに、ひどい言葉を投げつけるということは、単なる“弱い者いじめ”でしかない」(山本さん)
感染したことで“新たな気づき”も
しかし、山本さんは自分が感染したことで、気付かされたことがあったと言います。
2001年から続けてきた、子育てママたちへのサポート事業について…
「今までは“頑張れ!頑張れ!”とお母さんたちを励ましてきていました。けれど、自分がそこまで落ちた時に、もう頑張れない状況の人の気持ちがわかりました。“つらいよね” “助けてって言っていいんだよ”というのが、新型コロナに感染して、仕事に対する気持ちがすごく自分の中で変わったなと思っています」(山本さん)
「感染者を守る」取り組みを始めた
山本さんが理事長を務める「Mama's Cafe」では、家族・スタッフに感染者が出た場合の「組織がすべきマニュアル」をまとめました。
「組織が感染者個人を守ることを宣言する」
情報を公開する範囲は、本人と家族の意向を尊重し、基本的には公開すること。
「休業中の給料は保証することをスタッフ全員に伝える」
お金のことは言い出しづらいため、早めに伝えるということです。
ほかにも、入院2日目以降のサポートとして、LINEやメールは本人の心理的負担になるようなら“見ない決断”を促すことなど、山本さんの体験をもとに決めたということです。
(2021年2月17日 15:49~放送『チャント!』より)