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畑を荒らすニホンカモシカ “特別天然記念物が相手”「イノシシよりも大変」

畑を荒らすニホンカモシカ “特別天然記念物が相手”「イノシシよりも大変」

 岐阜県との県境に位置する豊田市の大野瀬町(おおのせちょう)。

「あれだけになるまで食っちゃった、あれ全部あったんだけどこっちもあったのに」(農家・大石康男さん)

 農業を営む大石康男さん。
 畑の大根やニンジンなど合わせて250個が、根こそぎ喰い荒らされてしまいました。

「妻が漬物の加工場を営んでいるので、その足しになればと思って作っていたけど…」(大石さん)

 以前はシカによる獣害が中心でしたが…

「シカに白菜を食べられたことはなかった。今年は白菜が食べられた」(大石さん)

 最近は、別の動物による被害が増えているといいます。
 付近の住民からも次々に証言が。

「うちの前の葉っぱを食べていて、玄関あけても逃げない。ひどいときは家の屋根に乗っている」
「その辺りの道路を歩いている。みんな野菜を食われたって言っている」

元の形がわからなくなるほど食べられている

 その“害獣”の姿は、探せばすぐに見つかりました。
 シカによりも少し小柄で、灰色の毛に覆われ、短い角が。
 こちらを確認しても逃げるそぶりすら見せません。

「おとなしいというかじっとこっちをみていますね。カメラ目線でじっと見ています」(記者)

「ニホンカモシカ」。国の特別天然記念物です。

捕獲や駆除はできない「保護動物」

町のいたるところで姿を見かける

「いましたいました。さきほどの地点からは30mくらいしか離れていません」(記者)

 その後も、次々と姿を現すニホンカモシカ。
 実は、シカではなくウシの仲間で、その昔、毛皮や肉目当ての乱獲により絶滅寸前まで数が減りました。
 そのため、1955年に国の特別天然記念物に指定。原則、捕獲や駆除は禁じられています。

「ニホンカモシカは、古いお寺や仏像と同じで、国宝級のような扱いがされています。傷をつけたり、勝手に捕まえたりすると罰則を伴うような『保護動物』です」(豊田市文化財課 自然担当 酒井博嗣さん)

 こうした中、長年にわたる保護の甲斐もあって、愛知県内では推定生息数が7年前から倍増。
 すると、今度はニホンカモシカによる食害が始まったのです。
 
Q.「カモシカこの辺どうですか?」(記者)
A.「いますよ、困っている。いまはイノシシよりもカモシカ。カモシカは青々とした葉をみんな食べちゃう。何にしたってこのあたりは大変なことになっている」(近所の住民)

カモシカによる被害は隣町でも増加

イノシシ用の柵を飛び越える姿

 隣町の押山町(おしやまちょう)の区長・太田幹男さん。
 ここでも、二ホンカモシカによる被害が増えています。

「10月、直近の映像です」(豊田市・押山自治区長 太田幹男さん)

 カモシカによる食害の様子を撮影した映像を見てみると…畑に姿を現したのは1頭のニホンカモシカ。
 インゲンの葉を食べています。
 太田さんが近くでカメラを構えて撮影していますが、全く気にしていない様子です。

「ニホンカモシカは特別天然記念物でもあるし、キャラがあまり憎めないし…非常に困ってますね」(太田さん)

 去年9月に撮影された親子の二ホンカモシカは、イノシシ用に設置した柵を簡単に飛び越えています。

「撮影したカモシカに名前つけちゃってね。馬鹿なこと言ってますけど、もう半分は笑い事じゃない。近所では稲も野菜もやっていられない。そういう状況です」(太田さん)

「特別天然記念物」だから…捕獲できない

暗闇に目が光る

 そして、夜になっても…

「いたいた、目が光っている」(記者)

 住民はいまや、シカやイノシシより二ホンカモシカに悩まされていますが、問題は「特別天然記念物」という位置づけです。

「カモシカは特別天然記念物で捕ったらだめでしょう。かなわないですね、本当は…」(近所の住民)
「カモシカだけ優遇というのはおかしいと思う」(カモシカの被害にあった大石さん)

 捕獲や駆除が禁じられているニホンカモシカ。
 全国的な被害の拡大を受け、一部の地域では「個体数調整」という名目で駆除が行われていますが、豊田市では現在、認められていません。
 そのため地元からは、「特別天然記念物」の解除をしてほしいという切実な声も。
 これについて、所管する文化庁の見解は…。

『原則として数の増減による解除は行われていません。解除されるのは、カモシカが絶滅した場合などに限られます』(文化庁)

 増えたからと言って、特別天然記念物の指定を解除することはないとする国。

岐阜大学 応用生物科学部 浅野玄 准教授

 一方、ニホンカモシカが人里に出没する様になった理由について、カモシカの研究者はこう指摘します。

「カモシカが山の高い所から低い所に生息地をシフトさせている。山のエサが何らかの原因で減っていて、やむを得ず人里に下りて畑の植物をエサとして利用している。シカの数が増えているというのは、少なからず影響を与えていると推測している」(岐阜大学 応用生物科学部 浅野玄 准教授)

 本来山の高い所に生息する二ホンカモシカ。
 しかし、より大きなシカが増えすぎて、元々の住処を追われるようにして人里に下りてきているといいます。

 被害に悩む農家の大石康男さん。
 ニホンカモシカを網や罠で傷つけることはできないため、ロケット花火や爆竹などで脅すしかないといいます。

Q.「野生動物と一緒に暮らしていくことはできるか」(記者)
A.「カモシカとは共生できないと思う…一緒に生きていくことは難しくないかな…」(大石さん)

 徹底した保護で守った動物が暮らしを脅かす存在となっている現実は、自然との関わり方の難しさを改めて考えさせます。

(2021年1月20日 15:49~放送『チャント!』より)

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