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<論説コラム>「楽隊車」と「負け犬」、そして・・・ 自民党総裁選の得票結果から見えるもの

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<論説コラム>「楽隊車」と「負け犬」、そして・・・ 自民党総裁選の得票結果から見えるもの | CBC論説THEコラム | CBCテレビ

なんとも奇矯なタイトルで戸惑われたかもしれない。楽隊車は、英語ではバンドワゴン、負け犬はアンダードッグという。
政治学の世界では、これに「効果」をつけた、バンドワゴン効果、アンダードッグ効果という言葉が、学術用語として定着している。
バンドワゴンとは、パレードの先陣を切って、にぎやかな音楽を演奏する車のこと。欧米で、サーカスや移動遊園地などの興行が街に来たことを、このバンドワゴンが知らせると、楽しい音楽に、子供たち、そして大人も列をなしてついていく・・・、そんなイメージだ。
これに「効果」がつくと・・・、つまり、政治学の用語であるバンドワゴン効果の意味は、勝ち馬に乗る、勝つと見える方に雪崩を打って皆が票を投ずる行動を指す。

一方のアンダードッグ効果、これは水に落ちた犬は打て、ではなくて、形成が不利に見える方を応援してやろう、つまり、負けそうな方に票を投ずる行動をいう。
日本語で言えば、判官びいきといったところか。

■「バンドワゴン効果」「アンダードッグ効果」双方が見られた今回の総裁選

さて、投票をめぐって、まったく逆の行動を指すバンドワゴン効果とアンダードッグ効果、一見、相容れないように感じるのだが、それが同時に起こることもある。
菅義偉氏337票、岸田文雄氏89票、石破茂氏68票という結果となった、今回の自民党総裁選の得票結果を見て私はそう思った。

■総裁選前哨戦で「バンドワゴン効果」

今回の総裁選を時系列を追って見てみよう。

安倍総理の退陣表明が8月28日、翌29日には、早くも各派閥で菅氏の擁立論が浮上している。そして、菅氏が出馬表明をする前日の9月1日には、細田、麻生、竹下、二階、石原の5派閥がすでに菅氏を推すことを決めていたとされる。
もちろん、安倍総理の病気による退陣という突然の事態に、それぞれの派閥が、堅実で安定感のある菅氏を次期総裁に、と評価したからだろうが、これを一面から見れば、バンドワゴン効果、勝ち馬に乗る流れともいえるだろう。
この時点で、無派閥で菅氏を支持するグループと5派閥所属議員の数を単純に足し上げれば、今回の総裁選の枠組みでは、一回目の投票で菅氏が選出されるのは確実であった。

■「2位争い」も重要

だが、総裁選はそれだけでは終わらない。3人の候補のうち、誰が2位になるのかも重要だからだ。

任期中に病気で自民党総裁が辞任したケースは過去に4回ある。このうち、石橋湛山氏⇒岸信介氏(1957年)、池田勇人氏⇒佐藤栄作氏(1964年)は、いずれも前の総裁選で2位だった者が、たいした争いもなく次の総裁に就任している。いずれも前の総裁選で1位と接戦を演じたという事情はあるが、総裁選2位は、「次」につながる大事なポジションなのだ。

では今回はどうなるか。報道もされていたが、獲得地方票と派閥所属議員の数を単純に足し込む限り、事前の私の手元の計算でも、石破氏2位、岸田氏3位となっていた。

■「アンダードッグ効果」得票を分析

そこで、結果の、菅氏337票、岸田氏89票、石破氏68票をどう読むか、である。
更に手元の計算をすすめると、完全無派閥の議員がすべて岸田氏に投票したと仮定しても、少なくとも菅氏を推す派閥から、ある程度の票が岸田氏に流れたと見るのが自然だ。

これについてある岸田陣営幹部は、総裁選後、菅氏を推す派閥から票が流れた可能性に触れ、議員のバランス感覚が働いたと、安堵の表情を見せながら私に語っている。

こうしたことから、今回の総裁選では、前哨戦でバンドワゴン効果、当日の投票ではアンダードッグ効果があった、つまり、一見矛盾する二つの投票行動が同じ選挙で見られた、というのが、私の基本的な見立てである。

■「手をあげること自体が重要」過去の総裁選から

「おそらく出席者の十数名が、
―田中は第一位確実。それならば、大平に入れろ・・・・。
と、そちらに投票してしまったのだ。スポットライトを浴びた大平は、会心の微笑をたたえていた。
―できるだけの票を集め、百票を超え、三木を抜いた。
念願を果たしたという思いが、大平のおもてに満ちていた。
逆に、ライトに照らし出された三木武夫は、茫然自失の体であった。」

これは、政界関係者なら誰でも知っているであろう、政治評論家戸川猪佐武氏の実録政治小説「小説吉田学校(第三部)角福火山」の1972年の総裁選の状況を描いた一節である。

当時は、田中角栄、福田赳夫、大平正芳、三木武夫の4氏が総裁選に出馬しているので、枠組みがそもそも異なるのだが、引用部分だけを、田中=菅氏、大平=岸田氏、三木=石破氏と置き換えると、具体的票数、会心の微笑や茫然自失との直截的な表現は別として、今回の総裁選の状況は、その再現のようにも見えないだろうか。

だが、この話には続きがある。田中総理は、健康とは関係のない、いわゆる金脈問題などから二年足らずで退陣を余儀なくされた。そして、その後を受け継いだのは、「茫然自失の体であった」三木武夫氏だったのである。三木氏は、「青天の霹靂」の名言を残した。

今回の総裁選については、石破氏に2位のポジションを取らせたくないから、菅氏を推す、ある派閥が、岸田氏にも票を流したというアングラ情報もあった。

真偽は不明であるが、仮にそのようなことがあって石破氏が3位になったとしても、青天の霹靂の例がある。これから何が起こるかは分からない。自民党国会議員が総理・総裁を目指すなら、必要な推薦人20人を集めて、様々な思惑の交錯する、この大変なレースに、まずはエントリーしなければならない。その後のドラマは、ここから始まるのだ。

CBCテレビ論説室長 横地昭仁

画像:写真AC

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