「実は3回泣いているんです」中日小笠原慎之介、今だから語る!開幕戦“涙の145球”の真実
【ドラゴンズを愛して半世紀!竹内茂喜の『野球のドテ煮』】
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日12時54分から東海エリアで生放送)
まずまずの好天続きだった今年のゴールデンウィーク。しかしドラゴンズファンにとって連休当初は涙雨が降り続いた。4月28日から始まった地元バンテリンドームでのベイスターズにまさかの3連敗。戦いの舞台は甲子園へ移り、タイガースとの戦いもうまく行けば3連勝を狙えたものの結果は1勝2敗と、酒量が増えた竜党は多かったのではと想像する。しかし最後の最後で宿敵ジャイアンツからホームでカード3連勝を飾り、溜飲を下げた。なかなか浮上するきっかけを掴めなかったが、故障していた選手も徐々に戻って来たドラゴンズ。連勝を続け、これからの反撃に期待していきたい。
さて今週のサンドラは、開幕投手を務めた小笠原慎之介投手に単独インタビュー!涙を流した145球の裏側とは?そして真のエースへ今シーズンにかける思いを語った。
「開幕へのこだわりは僕が一番強い」
3月31日敵地東京ドームで迎えたドラゴンズの開幕戦。劇的な勝利の裏側にあった小笠原慎之介投手“涙の145球”。その時、彼は何を思い、感じていたのか?その胸の内を明かした。
昨シーズンは10勝8敗、防御率2.76とキャリアハイの成績。入団7年目にしてチームの勝ち頭となった。今年1月、自主トレ中にチームの顔ともいえる“開幕投手”について、こう語っていた。
小笠原投手「たぶん僕が一番強いと思います。誰にも負けないです」
何故そこまで開幕投手にこだわるのか?小笠原投手はきっぱりと答えた。
小笠原投手「開幕投手をモチベーションとしてまずキャンプを臨みたいと思ったこと。やっぱりスイッチを入れないといけないなと。一番近い目標はそこかなと思いましたね」
開幕投手への矜持
迎えた自身2度目の開幕戦。1失点はしたが、1点リードして7回を投げ終えた。その時、球数はすでに120球。誰もが頭によぎった「交代」の二文字。その時ベンチでは…。
小笠原投手「立浪監督が来て“どうする?8回も行くか?”と言われて、“全然行きます!”と言いました」
交代なんて頭の中にはまったくなかった。続投の意思表示こそ、小笠原投手がこだわり続けた“開幕投手への矜持”だ。
小笠原投手「(立浪監督が)“じゃあ、そのまま9回ライデルにつなげるか?”と言われて。ここまで信頼してくれているんだなと。そこでもう一回スイッチを入れてマウンドに上がりました」
続投するも逆転打を許し、無念の降板。勝ちにこだわり投じた145球の熱投は実らず、この日初めて両手をひざにつき、初めて下を向いた。
小笠原投手「悔しい気持ちもあったし、野手陣が先に点を取ってくれたので申し訳ない気持ちの方が大きかったですね」
あの日3回見せた“涙”
小笠原投手が見せた“魂の力投”にチームが奮起。勝利へ向けての“底力”を呼び起こした。9回、チームは同点に追いつくと、一打勝ち越しの場面で打席には高橋周平選手。開幕戦勝利に導く決勝タイムリーを放った。
実は高橋周選手と小笠原投手、同じ小、中学校出身の幼馴染。
小笠原投手「(高橋周選手を)初めてカッコイイと思いましたね。ウチのガキ大将!」
満面の笑みを浮かべ、饒舌に当時を振り返った小笠原投手。そして今まで語られていなかった涙話について吐露した。
小笠原投手「あの日3回泣いているんですよ、僕」
降板してベンチ裏で悔し涙をこぼしたのが一度目。その後はチームが逆転し、感極まっての涙をこぼし、最後は試合が終わって泣いた。
小笠原投手「野球って素晴らしいスポーツだなと、改めて感じさせてもらえる瞬間でしたね」
小笠原投手自身に勝ちはつかなかった。しかし逆転は許したものの、続投した場面を価値あるものと捉えている。
小笠原投手「自分の中で7回に降りたら、開幕投手としてどうなのかな。この先エースとして、中日ドラゴンズを引っ張っていけるのかなと。(逆転はされたものの)8回は行きたいと言って正解だったと試合を振り返った時にはそう思っていましたね」
自信をもって投げる
5月8日現在、ここまで5試合で2勝を上げ、防御率は2.73。投手陣の柱としての働きを見せている。その要因のひとつは、今年1月に行ったアメリカ自主トレ。メジャー通算135勝、野茂英雄さんと一緒にドジャースの先発投手として活躍したラモン・マルティネスさんから言われた言葉だった。
“自信をもって良い球を投げれば、バッターはどんな球が来るのか分かっていても打てはしないよ”
自信を持って投げろ…それはマルティネスさんから何度も口酸っぱく言われた言葉。しかし小笠原投手にとって、大きく変わるきっかけとなった言葉にもなった。その変化とは?
小笠原投手「余裕ですかね。マウンド上で自分と対話ができるようになったこと。去年まではそれができなかった。一喜一憂していたりとか。それが今年になって自分と対話しながら“大丈夫”だとか“抑えられる”とコントロールできるようになりました」
時には厳しい言葉を自分に投げかけては鼓舞することもあるという。客観的に自分自身を冷静に見つめながら、バッターと対峙できるという余裕ができたと、自身を分析する。それは精神的なものだけではなく、肉体的にも、そして技術的にも成熟した証といえる。
いつかはエースに
開幕早々、小笠原投手が師匠と仰ぐ、大野雄大投手がヒジの故障で離脱。ただ慌てる素振りは決して見せない。
小笠原投手「大野さんも僕の性格を知っていると思うので、無理に全部責任を負ってというよりは、“やれることだけをやりなさい”と言われました」
あらためて自分の“役割”を認識し、対戦チームがエース級を当ててくる日に先発登板を続けている。悲壮感はない、頭の中にあるのは、相手エースと投げる楽しみだけだ。
小笠原投手「楽しいです。エース級と戦うのは。自分の中でモチベーションを高く保てますし、その分プレッシャーが結構重くのしかかってきますが、それもひとつの楽しみとしてマウンドに上がっています」
相手のエース級に勝てば、チームに良い流れがくる。そう信じて、左腕を振り続ける。シーズンを迎える前、“いつまでも大野さんや柳さんに頼っていてはダメなんです”と次代のエースとしての自覚を口にしていた小笠原投手。
最後にエースへの思い、それはどのような存在なのかを聞いた。
小笠原投手「エースは人を動かす。見ているファンを感動させる。それができる人がエースになれると僕は思っています」
中学、高校と日の丸を背負い、年代のトップとしてマウンドに上がった経験を持つ小笠原投手にとって当然プロでも一番になりたい気持ちは強いはず。ドラゴンズ入団当初に抱いた、“プロ野球界で一番の左投手になりたい“という思い。きっと今でも心の中にしまっていることだろう。
いつかはエースに。そして球界を代表する投手へと成長することを期待したい。プロの世界でも日の丸を背負って、海外の猛者たちと対峙する姿を今から楽しみに待ちたいものだ。
がんばれ慎之介!
がんばれドラゴンズ! 燃えよドラゴンズ!
竹内 茂喜