“可児の竜”がエースになる日を信じて― ドラゴンズ勝野昌慶を全力で応援するコラム

“可児の竜”がエースになる日を信じて― ドラゴンズ勝野昌慶を全力で応援するコラム

「自分も高校時代に毎日使っていました」―

岐阜県は可児市と多治見市のちょうど境目にJR太多線「下切」という駅がある。基本、上りと下りで1時間に4本程度走るローカル線。周りには猫カフェと歯医者さんと薬局、少し歩くとコンビニが1軒あるぐらい。田んぼと小さな川が流れる田舎の風景にポツンと佇むどこにでもあるような無人駅だが、ホームから眺める幼稚園の後方へと沈んでいく夕陽には何度も癒された。筆者にとって子どもの頃から慣れ親しんだこの駅は、かけがえのない故郷のひとつ。まさかこの“故郷”を共有できるプロ野球選手に出会えるなんて―。彼がこの駅を使っていたという思いがけない感動から勝手に親近感を抱き、それと同時に全力で応援すると心に決めたのである。

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

筆者が今最もプロ野球選手の中で応援したいその彼とは、中日ドラゴンズ・勝野昌慶(かつの あきよし)投手―。2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主要舞台として注目を集めている岐阜県可児市出身。今まさに“旬の人”にならずしていつなるというのか。10月11日のナゴヤドームで行われるジャンアンツ戦では、岐阜県可児市協賛「明智光秀生誕地 可児市デー」が開催されるが、市役所の方々には麒麟にばかりご執心していないで、仕舞いこんだ垂れ幕をもう一度引っ張り出してほしいものである。

それはさておき、まずは勝野投手の略歴から紹介したい。小学2年生のときに「岐阜東濃リトルリーグ」で野球を始めた。きっかけは先にチームに入団していた保育園からの親友に誘われたことによる。もともと祖父とのキャッチボールで興味は抱いていており、普段からテレビの中継でドラゴンズ戦を観ていた。ちなみに印象に残っている選手はタイロン・ウッズ選手だという。やはりいつの時代も子どもの心を掴むのはホームラン。そういえば、最近話題に挙がらなくなったナゴヤドームのホームランテラスの建設計画はどうなったのか・・・。

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

中学では「中濃ドリームボーイズ(現岐阜中濃ボーイズ)」に所属し、高校は公立校で県内屈指の強豪・土岐商業高校でエースとして活躍。土岐商OBでプロの道に進んだ先輩には同じく投手として1998年に阪神タイガースから6位指名を受けた奥村武博さんがいる。ちなみに奥村さんも最寄駅が「下切」という共通点。下切駅を使って土岐商に通うとプロの道が拓けるというジンクスが生まれる・・・か!?
社会人野球の道に進んだ三菱重工名古屋時代に都市対抗野球大会出場やWBSC U-23ワールドカップの日本代表に選出されるまでの成長を遂げ、晴れて2018年ドラフトでドラゴンズから3巡目指名。子どもの頃に思い描いていた将来の夢はただひとつ。

「プロ野球選手になること以外は考えていなかったです」―

勝野昌慶の人間的魅力は、時折見せる素の一面にあり

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

「勝野昌慶」というキャラクターにどんなイメージが持たれているだろうか。勝野投手を知るOBで元コーチは「いい意味でマイペースというか、ちょっと変わった子(笑)。ある意味プロ向き」とメディアで語っているのを耳にしたことがある。筆者はルーキーイヤーの春季キャンプとシーズン中に数回取材をさせてもらっただけなのだが、その表現のニュアンスが少し分かる気がした。野球に関する質問もプライベートな話題も受け答えはすべて同じトーン。終始テンションは低いのだが決して冷たく感じなかったのは、どの質問にも真摯に答えようとする姿勢が伝わったからである。なにより時折見せる素の一面、少しだけ頬を緩ませる笑顔が柔らかい空気感を醸しだすのが特徴的だった。

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

そんな一面にふれた取材のある一幕。「お気に入りのアーティストや音楽は?」というアンケートに、勝野投手は「米津玄師の『Lemon』」と記していた。そこで曲に関する思い入れがあるのか?と尋ねたときである。それまでは表情を変えなかったのだが、「一時期よく聞いていたというだけなので・・・」と苦笑い。とくにエピソードがないことを申し訳なく思ってくれたのか、それとも流行に乗ったことが恥ずかしかったからなのか。直感で思ったのは、彼は真面目な好青年であるということ。癒される時間は「子どもと一緒にいる時間。お風呂にも入れてます」と明かす良きイクメンパパ。このご時世に合った安心かつ信頼できる癒し系。勝野投手の人柄をもってすれば、メディアへの露出が増えればきっと人気もあがるはず。そのためにはイチにも二にも1軍での活躍次第ということになるのだが・・・。

門倉2軍投手コーチが語った「投手・勝野昌慶」の魅力

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

プロ入り直後、勝野投手は壁にぶつかっていた。先輩投手の制球力の高さに愕然とし、自分のピッチングスタイルに迷いが生じていたのだ。自分を見失いかけたその時、暗闇から進むべき道に光を照らしたのは門倉健2軍投手コーチだった。

「彼には自分の良さがなにかということから話し合いを始めました。勝野の場合はコースを狙うのではなく、ストライクゾーンにナチュラルに動くストレートを投げこんでバッターを詰まらせたり、先っぽに当てさせることを追い求める方が大事なんじゃないかと。もともと彼自身もそのことを理解していたのですが不安だったんでしょうね。そこからはとにかく強く腕を振ることに取り組んだんです。いい方向に進んでくれましたね」

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

自信を取り戻して辿り着いた2019年5月17日のプロ初登板は白星こそ掴めなかったが、ジャイアンツ打線を相手に6回3失点。続く登板2試合目は同24日のスワローズ戦、6回2/3を1失点で見事にプロ初勝利を掴んだ。プロ1年目は怪我の影響もあり3試合に登板して初勝利の1勝どまり。2年目の今季もここまで9試合に登板して3勝4敗。社会人の日本選手権でMVPに輝いた即戦力投手としては物足りないと言わざるをえないのだが、成長の跡も確かに見える。昨年の秋に発症したヘルニアを克服し、今季はここまで1軍と2軍でコンスタントに登板を重ねている。大きな故障による離脱は防げている要因は、野球に真摯に向き合う実直な性格によるものと考えられる。門倉コーチは勝野投手の課題に取り組む姿勢を高く評価していた。

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

「1年目のシーズン初め、毎日野球をするというプロの生活の中で疲労が溜まった時期がありました。ただ彼はその期間に自分のやるべきことをしっかり取り組んでいた。地道な下半身強化や体幹を鍛えることだったり、ピッチングのフォーム固め。非常に良い時間を過ごしていました。試合で投げられない時間もプラスにしたんですよね。ピッチャーとしての勝野の魅力はなんといっても物おじしないところ。マウンドさばきに度胸がある。どんなに大事な試合でも同じ気持ちで投げていけば自然と結果はついてくる。それぐらい力を持った選手です」

今季3勝目を挙げた10月6日のスワローズ戦。立ち上がりは制球が定まらず苦しいピッチングであったが、走者を出しても表情を変えることなく飄々と投げこんでいった。自分のスタイルでリズムを掴み7回2/3を5安打無失点。手が届きそうだったプロ初完投・初完封勝利はお預けとなったが、その日はさほど遠くないだろう。
翌朝、筆者は前夜の活躍をしっかりとたしかめようと、とある駅の売店で中日スポーツの朝刊を手にした。もちろん一面は勝野投手が独占。勝野親衛隊としては喜ばしいかぎり。

竜のエース、そして球界を代表する投手となり地元に“勝野旋風”を

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

“とある駅”とは、勝野投手が高校時代に通っていた沿線の多治見駅。隣の市とはいえ、ゆかりのある地元と言っていいはず。それなのに、イマイチ盛り上がりに欠けている。この町で勝野投手の名前を目にしたのは、老舗スポーツ用品店の入り口に掲げられた「祝中日ドラゴンズ入団・勝野昌慶君・岐阜東濃リトルリーグ出身」という横断幕ぐらい。地元からプロ野球選手が誕生した反応はこの程度なのか―。その原因に少し心当たりがあった。それは、ごくごく小さな世界の話であることをあしからず。

筆者は一度、息子が通っている軟式野球チームの子どもたちに「好きなプロ野球の球団」について聞いたことがある。全員とはいわないまでもドラゴンズと答える子が多数を占めるかと思ったのだが、そうではなかった。ジャイアンツやタイガース、さらにはライオンズなどに分かれ、圧倒的支持は得られていなかった。(ちなみにライオンズと答えたその子は県内でもトップクラスの強肩強打かつ俊足の捕手。きっとプロ野球選手になるであろう逸材なのでドラゴンズのスカウトの方には今から注目しておいてもらいたい。)
簡潔に言わせてもらう。今のドラゴンズは身近にいる地元の子どもたちをしっかりとファンにとりこめてはいない・・・と思う。その理由のひとつとして、じつに分かりやすい単純明快な答えを受け取った。

「だって弱いじゃん」―

なにも言えなかった―。そりゃそうだ。応援しても負けてばっかりなら呆れてくる。そもそも、7年連続Bクラスでクライマックス・シリーズにも行けてないのだから熱くなんてなれやしない。せめて短期決戦特有の面白さを知れば変わるかもしれないのだが・・・。セ・リーグにCSがない今年はAクラスに入ったとしても、「だから?」となるに違いない。
弱いチームに入った地元選手は本来受けるべきはずの熱烈応援というアドバンテージはないのか―。もしもそうであるならば・・・。

「サンデードラゴンズ」より勝野昌慶投手©CBCテレビ

勝野投手、キミは実力で地元に『可児の竜・勝野昌慶旋風』を巻き起こしてもらいたい。方法はいたってシンプル。ドラゴンズといえば大野雄大投手やビシエド選手、大島洋平選手のように、球界を代表する選手となるのだ。そうすれば人気も知名度もついてくる。幸いにも子どもたちは強い選手に憧れる素直さを持ちあわせている。地元の野球少年少女のヒーローになれるだろう。そうして竜のエースとなったキミの使命はもちろん、チームを優勝に導き地元にドラゴンズ人気を回復させることだ。まだ通算4勝の選手に何言ってんだ、とヤジが飛んできそうだが、そんなのかまうもんか。ただ実家の最寄り駅が同じだということに親近感を抱き、勝手に親衛隊を名乗る同郷のしがないライターは、ただただ信じて言い続ける。勝野昌慶は竜のエースになる男だと―。勝野投手にとって迷惑でしかないのかもしれないが、たとえなんと思われようとも全力で応援する気持ちに変わりはない。ただ、もしも、この熱量が過ぎるようであれば・・・お詫びしたい。本当、スミマセン!!

高橋健二

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