今、打ち明ける中日・鈴木博の本音。2年目の飛躍に必要な心技体の充実

今、打ち明ける中日・鈴木博の本音。2年目の飛躍に必要な心技体の充実

すでに鈴木博志は疲れていた。

5月30日。ナゴヤドーム。中日・オリックス2回戦。先発の松坂大輔が6回無失点の好投。2番手の祖父江大輔も1回無失点。1対0。中日1点リード。ルーキー右腕は8回表のマウンドに立った。

「今だから言いますが、その日はブルペンから実は異変を感じていたんです。全く力が入らない。下半身がフワフワしていて、投球フォームがバラバラ。自分がどう投げているのか分からない。野球人生で初めての感覚でした」

それでも、2アウトを取った。しかし、瞬く間に奈落の底に落ちる。

悪夢は吉田正尚に与えた四球から始まった。続くステフェン・ロメロがライト前ヒット。小谷野栄一にまた四球。満塁からT-岡田に逆転2点タイムリーを浴び、とどめは安達了一の2点タイムリーツーベース。怒涛の4失点。顔面から血の気が引いた。

「松坂さんの勝ちを消してしまって・・・」

23試合目の登板だった。この日を境に歯車は狂いだす。結局、交流戦は8試合0勝2敗。防御率11.05。完全に輝きを失っていた。

救いの手を差し伸べた森繁和前監督

理由は何か。アスリートに大切な3要素の心技体。鈴木博は「心」に問題があると感じていた。

「その頃、森(繁和)監督に『お前、本気で投げているのか。打たれたら、ユニフォームを脱ぐくらいの覚悟で投げろ』と言われたんです。見透かされているようでした」

恐怖を知った新人に宿る不安。指揮官はそれを見抜き、喝を入れた。

「監督には技術指導もして頂きました。腕が体から離れて遠回りしているのを修正するため、ノックバットを持ってシャドーピッチングをしたんです。それがはまりました」

「心」と「技」を整えた鈴木博は一気に上昇カーブを描く。リーグ戦再開後、10試合連続無失点。その間、プロ初を含む3セーブを記録した。

「最後を締める喜びは格別です」

恐怖の次に味わった至福。しかし、長続きしなかった。

「あれは頭から離れません。一番悔しい試合です。真っ直ぐが吸い込まれるように高めに浮きました」

8月12日。ナゴヤドーム。中日・ヤクルト19回戦。1対0。中日1点リードの9回表に若き守護神は登板した。

先頭の山田哲人に内野安打。続くウラディミール・バレンティンへの初球だった。快音が鼓膜に響く。弾道を目で追う。白球はレフトスタンドに消えた。翌日、鈴木博は1軍から消えた。

鈴木博に足りなかったもの

「メンタルも技術もですが、最も足りなかったのは体力でした。交流戦が始まった頃に疲れるなんて。これではリリーフは務まらない」

去年10月は宮崎フェニックスリーグ、11月は沖縄・北谷キャンプで自らを極限まで追い込んだ。最大のテーマはプロの「体」を手に入れること。土台なくして活躍なしだ。

同時に「心」と「技」も磨いていく。

「阿波野(秀幸)コーチが発案した半分青く塗ったホームベースで投げると、すごくストライクゾーンがイメージできるんです。キャンプではそこにストレートを思い切り投げ込むことを徹底しました」

やはり鈴木博の魅力はストレート。四隅ではなく、ストライクゾーンに通す基本技術を反復した。

「小笠原(孝)コーチからは『9回満塁フルカウントで不安がよぎるような球種は消せ』と言われました。実は今まで投げていた深く挟むフォークの制球に自信がなくて。話し合いの結果、浅く握るスプリットに変えました」

鈴木博はチーム最多の53試合に登板。多くを経験し、大いに反省し、厳しく鍛錬し、徐々に進化する。今はその過程にいる。

去年、中日は63勝78敗2分。逆転負け38回はリーグワースト。ファンは痛感した。勝利には磐石な救援陣が必要だと。心技体の全てを充実させつつある背番号46。彼がその一翼を担うことを期待している。

【CBCアナウンサー若狭敬一
CBCテレビ「サンデードラゴンズ(毎週日曜午後0時54分放送)」、CBCテレビ「スポーツLIVE High FIVE!!(毎週日曜午後1時24分放送)」、CBCラジオ「若狭敬一のスポ音(毎週土曜午後0時20分放送)」、CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週金曜午後6時放送)ほか、テレビやラジオのスポーツ中継などを担当】

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