ドラゴンズ“黄金時代のエース”吉見一起投手に言葉の花束を贈る

ドラゴンズ“黄金時代のエース”吉見一起投手に言葉の花束を贈る

中日ドラゴンズの背番号「19」吉見一起投手が現役引退を決めた。球団史上初のリーグ連覇、その黄金時代を投げ抜いたエース。ずっと声援を送り続けてきたファンとして思いは尽きない。

エース吉見の凄味とは?

「サンデードラゴンズ」より吉見一起投手©CBCテレビ

吉見投手は、トヨタ自動車から2005年ドラフト希望枠で入団、背番号「19」を背負った。かつて同じ社会人から入団しパームボールを駆使して新人王にもなった藤沢公也投手ら、ドラゴンズでは味わいのある投球をする投手がつける番号という印象だった。
吉見投手は入団3年目の2008年から5年連続で2ケタ勝利を記録した。通算222試合に登板して90勝56敗、防御率2.94。特筆すべきは、その勝ち越し数である。
吉見投手が現役15年間に積み重ねた「貯金34」はそのままチーム成績に反映された。
今季「完封また完封」の大活躍で正真正銘エースの座についた大野雄大投手が、通算69勝67敗の「貯金2」であることを考えると、まさに吉見投手はドラゴンズのエースにふさわしい“勝てる投手”だった。(数字は11月5日現在)

わが思い出の吉見投手“熱投譜”

「サンデードラゴンズ」より吉見一起投手©CBCテレビ

その投球には見ていて“安心感”があった。抜群のコントロールと打者との巧妙な駆け引き。ファンとして、そのマウンドを幾度ナゴヤドームのスタンドで見守ったことだろうか。思い浮かぶ2つの観戦ゲームがある。

2011年10月19日は球団初のリーグ連覇を決めた翌日の登板だった。先発ではなくリードの5回からリリーフに立って勝ち投手になった。2年ぶり2度目の最多勝を決める18勝目。「タイトルは取れる時に取れ」という落合博満監督の、吉見投手に対する“贈り物”だったが、このシーズンは最優秀防御率のタイトルも獲得した。見事な活躍。シーズンMVPこそ同僚の浅尾拓也投手に譲ったが、間違いなく同等の“MVP”だった。

2019年6月22日は北海道日本ハムファイターズ戦で、かつてトヨタ自動車時代の同僚だった金子弌大(本名:千尋)投手とプロの舞台で初めて投げ合った。球界を代表する両先発投手のマウンドは、まるでお互いが投球という術(すべ)によって会話をしているかのようで、観戦冥利に尽きるゲームだった。吉見投手は先輩に投げ勝って勝ち投手に。しかし、それがシーズン唯一の勝ち星になるとは、スタンドで声援を送りながらその時は思いも寄らなかった。

ドラ検定1級に見る秘密

「サンデードラゴンズ」より吉見一起投手©CBCテレビ

2016年に実施された中日ドラゴンズ検定1級の問題の中に、吉見投手について象徴的な設問が2問ある。
「吉見一起は2015年10月1日に右ひじの手術をした。吉見にとって何回目の手術に
なったか?」
不覚にも私は「4度目」と回答し不正解だった。正解は「5度目」である。
そして同じ検定1級からもう1問。
「2007年9月29日、巨人と対戦したファーム日本選手権で勝利投手となったのは誰?」
正解は「吉見一起」である。2年目のこの時期、吉見投手はファームで調整中だったのだ。ちなみにこの設問はその2年前の検定2級で出題された同じもので、正解者が少なかったことから1級に“格上げ”されての再出題だったようだ。
この2つの検定問題から浮かび上がるのは、度々のけがなどを克服しながら竜の「エース道」を歩いた野球人生の1ページである。

吉見が語ったドラゴンズ愛

「サンデードラゴンズ」より吉見一起投手©CBCテレビ

言葉を持っている投手だった。球場でのヒーローインタビューを聞くのが楽しみだった。そこには自分の投球を冷静に分析する言葉があり、また、チーム全体を俯瞰して見る姿があった。そして吉見投手の言葉は、そのピッチングからも雄弁に語られていた。
2017年の春季キャンプ前のことだった。吉見投手は来たるシーズンへの抱負として、こう語ったのだ。
「今年の自分のテーマはキャッチャーを育てることだ」
吉見投手と共にドラゴンズの黄金時代を築いた正捕手・谷繁元信さんが引退してから、竜のホームベースは“主”なき状態が長く続いていた。チーム全体にとって大きな命題だった。自らの投球による“会話”で、コンビを組むバッテリーまでも構築しようという心意気。吉見投手ならではの“チーム愛”だった。

現役最後の贈り物それは?

「サンデードラゴンズ」より吉見一起投手©CBCテレビ

新型コロナウイルスに揺れ続けた2020年シーズン。数々のベテラン選手が「来季は構想外」とされて、他球団での現役継続を模索している。内川聖一選手、福留孝介選手、そして能見篤史投手ら、かつて活躍した有名選手も多い。ファンの立場としては、おらがチームの選手を応援すればするほど、他チームのユニホーム姿を思い描きたくないのが本音でもある。吉見投手も「まだまだ投げられる」という思いは十分に強かったと推察する。他球団のユニホームを着て現役を続ける選択肢もあったはずだ。しかし、ドラゴンズブルーのユニホームのまま、マウンドを去る決断をした。その葛藤は察して余りある。しかし「いつか指導者としてドラゴンズのユニホームを着たい」、この決意こそ、吉見投手から私たちファンへの最大の贈り物なのかもしれない。

今季ナゴヤドーム最終戦は11月6日、引退試合となる。そのマウンドで、吉見一起投手は投球によって何を語り、セレモニーでどんなメッセージを語るのか。
早々と購入した観戦チケットを見つめながら、球団史に残るエース、現役最後の“言葉”をスタンドの一席にて楽しみにしている。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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