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タイとカンボジアがいったん停戦。そもそも軍事衝突の原因は?

タイとカンボジアがいったん停戦。そもそも軍事衝突の原因は?

タイとカンボジアが国境地帯で衝突し、24日から本格的な戦闘に発展。今週に入ってなんとか停戦合意に至りましたが、まだ予断を許さない状況が続いています。この2国間の武力衝突は何度か繰り返されているのですが、その原因は何なのでしょうか?7月30日放送『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別解説委員がタイとカンボジアの武力衝突について解説しました。聞き手は永岡歩アナウンサーと三浦優奈です。

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停戦後の現在の状況

まずは今回の武力衝突は7月24日に発生し、停戦するまでのわずか数日間で30人以上死亡し、民間人も巻き込まれました。

実は5月ぐらいから小競り合いが続き、カンボジアでは地雷をタイの兵士が踏んでケガを負うなどした流れで、今回の軍事衝突につながってしまいました。

28日にはタイとカンボジアの首脳がマレーシアで協議し、無条件の停戦で合意されました。
マレーシアが仲介した理由は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の議長国であるため。

ただ、現地時間の29日午前0時から停戦としているにもかかわらず、現地からの情報では銃撃が発生し、どちらが先に撃ったかで意見の食い違いがあるそうです。

何万人といわれる避難民も「停戦合意と言われても、すぐに家には戻れない」と感じているようです。

原因は100年前にさかのぼる

ではなぜ、昔からタイとカンボジアで何度も武力衝突が起きているのでしょうか?

カンボジアの北西部分はすべてタイと接していて、国境とされる部分は800kmほど続いています。
ただし、国境と明確に決まっていない部分が実は4分の1ほどあり、お互いに自分たちのものと主張している状況です。

カンボジアは大昔、アンコール王朝が率いた大国でしたが、シャムと呼ばれたタイがどんどん力をつけてきて、カンボジアと対決するようになりました。

やがてカンボジアは衰退し、ベトナムなどとともにフランス領となってしまったため、20世紀初頭に国境はフランスとタイの間で協議することに。

しかし、お互いに持っていた地図の縮尺などが微妙に違っていたため、国境の認識に食い違いがあるという、GPSがある現在では考えられないような事態を招きました。
その食い違いが100年以上経った今でも続いているのです。

世界遺産にも影響

国境による認識の違いは、世界遺産にも影響を与えています。

その一例が国境付近にあるプレアヴィヒアというヒンドゥー教の寺院。もとは9世紀にクメール人が建てましたが、タイもカンボジアもお互いが自分の寺院だと主張。

カンボジアが国際司法裁判所に提訴して勝利するのですが、周りの土地については判断がついておらず、いまだ係争中です。
この寺院の世界遺産登録を巡っては2008年に武力衝突が起き、兵士が何名か亡くなっています。

さらに国境の設定以外で現在問題となっているのが、カンボジアとタイの政治状況。
今回の停戦合意でカンボジアから出席したフン・マネット首相は、フン・セン前首相の息子。

父親はかなりの権力者でしたが、2代目ということで国民に引き続き強い力を見せなければならないと感じているからか、タイには甘い対応はできないという思いがあるようです。

タイの政治的事情

一方でタイの首相はペートンタン・シナワット氏という女性。こちらもタクシン・シナワット前首相の娘で似たような状況ではあります。
ただし、停戦会議にタイ側からやってきたのは、ペートンタン首相ではなく、プームタム首相代行。

「これには意味がある」と石塚。
以前、ペートンタン首相がフン・セン前首相と電話で会談した音声が録音され、流出しました。
ペートンタン首相が「タイの軍隊は不甲斐ない」と語ったり、相手におもねるようなことを言ったりした会話の内容をカンボジア側が流出。

これを聞いたタイ国民が激怒し、野党から憲法違反と訴えられたため、現在憲法裁判所で審理中のため、首相の職務は停止しています。
そのため、首相代行が停戦合意の場に出席したという事情があります。

また現れたトランプ大統領

ただ、このような状況でもいったん停戦に合意できたのは、ドナルド・トランプ米大統領が強く働きかけたため。

「自分が外国の戦争を止めてやった」という手柄を得たいトランプ氏ならでは、という動きですが、その道具に使ったのはいわゆるトランプ関税。

タイとカンボジアにそれぞれ36%かけると言っていた関税について、「停戦しないなら関税の引き下げ交渉はしない」と言って停戦させたと言われています。

それだけではなく「アメリカだけに手柄を取らせたくない」と中国まで登場。
軍事衝突が大国に利用されているという図式が見えなくもありません。

もちろん、この衝突は日本にとって他人事ではありません。
タイやカンボジアに工場を作っている日本にとっては、ビジネス上の損失につながる可能性もあります。
(岡本)

 

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