捜査員が闇バイトに応募?「仮想身分捜査」が開始された

今月、警視庁は捜査員が架空の人物の運転免許証などを使って闇バイトに応募し、犯行グループに接触する「仮想身分捜査」を全国で初めて実施し、特殊詐欺事件の容疑者のひとりを検挙したと発表しました。警察官がSNSを通じて匿名流動型犯罪グループと接触し、いわゆる実行役とみられる容疑者を詐欺未遂容疑で逮捕したとのことです。6月17日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、光山雄一朗アナウンサーがこの「仮想身分捜査」について、アディーレ法律事務所弁護士の正木裕美先生に尋ねました。
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まず「仮想身分捜査」とはどういうものかを説明する正木弁護士。
正木「捜査員の方が架空の身分を利用して行なう捜査活動です。捜査員が闇バイトの募集などに応募して犯人に接触するとき、警察であることは名乗らずに、別の名前、別の人であることを提示して行ないます。
基本的には犯罪をさせるという目的ではなくて、相手の組織などを把握するための情報、証拠集めのためにする捜査になります。偽造の身分証などを利用します。
闇バイトの募集は『身分証を送れ』と指示されることが多いので、そういうときに提示するのが偽造の身分証だったりします」
おとり捜査との違い
よく聞く「おとり捜査」とは違うのでしょうか?
正木「いずれも普通の捜査では摘発が難しい一部の犯罪に対して行います。どちらも警察だと名乗ってやるわけではないので、その意味では同じですが、いくつか違う点があります。
おとり捜査は、直接の被害者がいない薬物犯罪とか銃器の犯罪が対象になります。
仮想身分捜査は、基本的に闇バイトの対策で行われるものなので、強盗、窃盗など被害者がいるような犯罪も対象になっています。
次におとり捜査の場合は、偽造の身分証明証の提示はしません。もちろん捜査員であることは名乗らないけれど、偽造の身分証明証を出すことまではしない。仮想身分捜査の場合はそこまでやります。
また、おとり捜査の場合はたとえば売人に接触をして薬物を買うという形で、対象者に対して犯罪行為の働きかけがあります。
しかし、仮想身分捜査については情報収集だけなので、そのような強い働きかけを行いません」
1月に実施要領を制定
「仮想身分捜査」はいつから行われているのでしょうか?
正木「今年1月に警察が実施要領を定めました。というのも、仮想身分捜査は法律に定められた捜査方法ではないです。
なので、裁判所が発行する令状などが不要で、警察判断の任意捜査として行なわれるものです。
とはいえ、適正な捜査がされなければいけないということで、警察が実施要領を定めました。
それが今年の1月なので、その後に行われたものだと思いますが、その時期ははっきりとは出ていません」
なぜ、導入したか?
仮想身分捜査を導入しないといけなくなった背景は何でしょうか?
正木「闇バイトを実行犯とする強盗事件が社会問題化していたということが大きいです。
闇バイトの場合はSNSなどで募集をかける。一番の問題は応募者に身分証を提出させて、個人情報を利用して脅かすことによってやめることができなくする。
闇バイトとわかっていた人もわかってない人も抜けられず、凶悪な犯罪に手を貸す、場合によっては被害者が亡くなるということが発生していました。
今までのおとり捜査だと、偽造身分証を出すまではやっていなかったので、いざ接触して『身分証を送ってください』と言われても出すものがなかったので、それ以上話が進まないということがありました。
もちろん捜査であることを感づかせないためにも、捜査員を守るという意味でも偽造の身分証を使わないとなかなか捜査ができなかった。ということで仮想身分捜査という踏み込んだ捜査を行なうようになりました」
違法にはならない?
免許証などの偽造が違法になることはないのでしょうか?
正木「直ちに違法になることはないです。身分証の偽造とか偽造した身分証を使うのは有印公文書偽造罪、偽造公文書行使罪といった犯罪になりえます。
ただし、刑法には別の規定があります。形式的には犯罪行為に該当するが、それが法令による行為だとか、正当な業務による行為にある場合は犯罪にはしませんという規定があります。
例えば医者の手術。形式的には傷害罪です。だけれども、正当な仕事としてする限りは犯罪とならないです。
これと同じように本来は身分証の偽造は犯罪になるけれど、通常の捜査では摘発が難しい、仮想身分捜査による捜査の必要性がすごく高いよね、といわれる犯罪の中で適正なものであれば、正当な業務行為として犯罪にならないという考え方に基づいて行われています」
犯罪対象は広がる?
仮想身分捜査は捜査方法としては、今後も広がっていくのでしょうか?
正木「いろんな犯罪に広がるかというと、そうではないと思います。
仮想身分捜査は、国は犯罪を抑止、摘発する立場にあるにもかかわらず犯罪を誘発しているという側面は否定できません。捜査機関、協力者の人権侵害、生命、身体の危険もあるような捜査になります。
そうすると、対象犯罪がなし崩しに拡大していくことは違法捜査につながっていく。そういう問題点は指摘されているので、あくまで限定的な範囲で行なわれることが望ましいし、その範囲に限って適法だという考え方が基本的なところだと思います」
(みず)
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