イスラエルがイラン核施設を空爆、報復の連鎖続く

先週末、イスラエルがイランの核関連施設を空爆し、軍幹部らを殺害しました。これに対してイラン側がドローンやミサイルで反撃に出るなど、中東情勢が急速に緊迫化しています。6月16日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別解説委員が、一体何が起きているのか、そしてこれからどうなるのか、原油価格の高騰など世界経済への影響も含めて詳しく解説しました。
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イスラエルは、完璧な防空網で全てのミサイルを迎撃できるはずでしたが、イランの反撃の一部が防空網を突破して着弾。民間にも影響が出るなど、想定外の被害となっています。
一方でイランは、イスラエルからエネルギー施設を攻撃され、こちらも深刻な被害が生じ始めています。
イランのアヤトラ・アリ・ハメネイ最高指導者は「中途半端な反撃では終わらせない」と宣言。イスラエル側も民間施設へのミサイル着弾を理由に「レッドラインを超えた」と主張しています。
イスラエルの周到な準備
石塚が注目したのは、イスラエルの周到な準備です。
世界的に高い評価を受けるイスラエルの諜報機関モサドの工作員が、何年も前からイラン国内に潜入し、防空網の破壊やドローン基地の設置など、攻撃の準備を進めていました。
さらに、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、攻撃前に休暇を取ると発表し、イラン側の油断を誘う情報戦を展開。結果、最初の空爆でイラン軍のトップや核開発の技術者が多数死亡しました。
イスラエルは司令官や核開発の科学者の居場所を正確に把握していたため、ピンポイントで空爆することができたのです。
ガザでイスラエルとハマスの戦闘が始まって以降、イランとイスラエルは昨年の春と秋に2回、ミサイルの撃ち合いを行ないました。しかし当時は事前通告を行なうなど、互いに制御しながらの攻撃でした。
石塚は「今回はもうその次元ではない」と強調。イスラエルの本格的な攻撃が続く中、両国の対立の落としどころは見えてこない状況です。
イスラエルの複雑な国内事情
ネタニヤフ首相は、イスラエルのこれまでのリーダーの中でも特に強権的な人物として知られています。汚職疑惑で刑事裁判を抱えており、首相を辞任すれば刑務所に収監される可能性もあるため、権力の座に留まる必要に迫られています。
また、自身が率いるリクード党だけでは議会で過半数を確保できず、極右政党との連立で政権を維持している状態。連立相手の「ユダヤの力」や「宗教シオニズム」といった政党は、より強硬な姿勢を求めており、「イランと融和的な態度を取れば連立を離脱する」と圧力をかけています。
支持率が低下する中、ネタニヤフ首相は「攻撃しないわけにはいかない」という状況に追い込まれているのが現状です。
トランプ大統領の影響力低下
アメリカの影響力にも変化が見られます。アメリカとイランは、オマーンで核協議を行なう予定でした。閣僚級が参加し、落としどころを見つけようという動きがあったのです。
ドナルド・トランプ大統領は、ネタニヤフ首相に「核協議の最中だから、攻撃は控えてほしい」と伝えていましたが、ネタニヤフ首相はこの要請を無視して攻撃を実行しました。かつてに比べ、アメリカ、そしてトランプ政権のブレーキは効かなくなっているようです。
ネタニヤフ首相やロシアのプーチン大統領は、「この人、口だけだ。怖くない」と、トランプ大統領を軽く見始めたとされています。
トランプ大統領はSNSで「早くディールを成立させろ」と呼びかけていますが、その実効性は疑わしい状況です。
イランの核開発の背景
イランは核開発について「平和利用のため」と主張していますが、実際には兵器への転用が可能な段階まで進んでいるとみられています。IAEA(国際原子力機関)は、イランが十分な査察を受け入れていないとして非難決議を採択しました。
イランはなぜ核に執着するのか。その背景には、「リビア方式ではなく北朝鮮方式を選ぶべき」という考えがあります。
北アフリカのリビアでは以前、カダフィ大佐が欧米の圧力により核開発を放棄し、アメリカと国交を結びました。しかしその後、民衆蜂起が起こると欧米は反体制派を支援。結果、カダフィ大佐は政権を追われ、殺害されました。
一方、北朝鮮は核を手放すことなく体制を維持しています。こうした両国の行方を見てきたイランは、「安易に核を放棄すれば、自国の安全を脅かす事態になりかねない」と考えている節があります。
イランは現在も核関連施設の建設やウラン濃縮を進めています。対するイスラエルは、「放置すれば、イランが“アジアの北朝鮮”になりかねない」と警戒を強め、先制攻撃によって核開発を阻止、あるいは遅らせようとしているのです。
イラン側の反撃と限界
イスラエルは、イランの石油・エネルギー関連施設も攻撃対象にし始めています。
対するイランの対応手段は限られています。軍事的にはイスラエルの方が優位で、イランは先進的な兵器を十分に保有していません。ミサイルやドローンを用いた反撃のほか、親イランの武装組織を通じて攻撃を試みる可能性があります。
実際に、イランが支援するハマス、ヒズボラ、フーシ派など複数の武装組織が存在しますが、これらの勢力も近年弱体化が進んでいます。かつて関係が深かったシリアも政情不安が続いており、有効な連携は難しい状況です。
武装組織による攻撃が行なわれた場合、アメリカ軍基地や中東地域のエネルギー関連施設が標的となる可能性もあります。
世界経済への深刻な影響
さらに懸念されているのが、ホルムズ海峡の封鎖の可能性です。ペルシャ湾の出口にあるこの海峡は、世界の原油輸送の要所にあたるため、封鎖されればタンカーが出られず、原油供給に深刻な影響が出るおそれがあります。
イランが本当に実行するかは不明ですが、可能性として無視できない状況です。すでに原油価格は上昇しており、エネルギー価格の高騰は全産業に波及する懸念があります。
先週末に始まったイスラエルとイランの対立は、我々の生活にも関わる問題として、注視が必要です。
(minto)
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