グリコ・森永事件をモチーフにした小説『罪の声』誕生秘話
12月7日放送『北野誠のズバリサタデー』(CBCラジオ)では、ゲストにベストセラー作家の塩田武士さんが登場。代表作といえる第7回山田風太郎賞を受賞した『罪の声』(講談社)は、昭和で大きな未解決事件のひとつ「グリコ・森永事件」をモチーフに描いた小説で、2020年には小栗旬さん主演で映画化もされました。ここでは『罪の声』の執筆に関するエピソードについて取り上げます。聞き手はパーソナリティの北野誠と加藤由香アナウンサー、角田龍平弁護士です。
関連リンク
この記事をradiko(ラジコ)で聴く小説のあらすじ
京都でテーラーを営む曽根は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つけます。
ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字が。テープを再生すると自分が幼い時の声が聞こえてきました。
それは31年前に発生して未解決のままとなっている「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものでした。
新聞記者と曽根がギン萬事件の真相にたどり着いたものとはいったい何か?というのが、小説のあらすじです。
小説を書こうと思ったきっかけ
モチーフとなった「グリコ・森永事件」は1984年(昭和59年)に発生しましたが、この時塩田さんはまだ4歳ですので、リアルタイムには見聞きしていません。
なぜ「グリコ・森永事件」を参考に小説を書こうと思ったのでしょうか?
塩田さんが大学3回生の時、この事件に関する本を読んでいて、犯行に録音テープが使われていたことを知りました。
それが自分と同世代で同じ関西のこどもだったため、「どこかですれ違っているかもしれない」と感じて鳥肌が立ったことが、小説を書くきっかけになったそうです。
同じく「グリコ・森永事件」から着想を得たといわれている『レディ・ジョーカー』(新潮文庫)などの小説やノンフィクションの書籍、新聞などさまざまな文献に目を通し、自分で資料を作っていきました。
そこで身代金の受け渡しなどの現場の住所や当時の住宅地図などを集め、事件から30数年後に取材にも行かれました。
杜撰なのに、なぜか捕まらない
一方、リアルタイムでこの事件を知る北野は、意外と杜撰な計画だったのでなぜ解決できなかったのか、疑問に思っていました。
塩田さん「これだけ大量の遺留品が残っていて、コートやら掃除機やら何やら残っていて、全部あと一歩のところで関係者が亡くなっていたり、脅迫文を打っていたタイプライターも、買ったと思われるところにもう半年早く行っていれば買った人が割れてたり。
とにかく一歩の差で、警察がカーチェイスみたいになった時もあと一歩で信号が赤になったとか、そういうところで運に見放されたところがあって。杜撰は杜撰なんです」
塩田さんは、グリコの社長が誘拐されて閉じ込められていた水防倉庫にも足を運び、「これは土地勘がないと無理」と思ったそうです。
事実と虚構が入り混ざる
結局、身代金の受け取りは成功しないまま犯人が終結宣言を行なったため、事件の目的はよくわからず、一説には株価を操作して儲けるのが目的ではないかという見方がありました。
塩田さん「当時、架空口座が作り放題だったというのがあって、たどっていくと犯行前に株が不自然な動きをしてるというのは確かにあるんですね。
それは外国筋の動きであるということもあって、その話を追っていけば確かにそういう面はあるかもしれないということで、兜町の人にも取材はしたんですけど、やっぱり最終的にはハッキリしないですし、捜査側からは無いと言うんですけれども」
事前に空売りをして、事件によってグリコの株が大きく下がれば儲けることはできますが、痕跡を完全に消して株の取引をするのは難しいようです。
実際の事件を題材とした作品ですが、塩田さんは「虚実の境目を突くというところが、実は小説で一番面白いんじゃないかと思います」とまとめました。
(岡本)