11月公開の映画『アイミタガイ』原作小説を書評家が紹介
水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんがおすすめの書籍を紹介します。10月30日の放送では、11月1日公開の映画『アイミタガイ』(監督:草野翔吾)の原作小説、中條ていさんの『アイミタガイ』(幻冬舎文庫)をピックアップしました。
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「相見互い(あいみたがい)」は、同じ悪い境遇や身分の人が互いに同情し合い、また助け合うことを意味します。
小説『アイミタガイ』が刊行されたのは2013年のこと。
この作者の中條さんは三重県在住、名古屋の南山大学を卒業した作家です。
原作小説に具体的な地名は一切出てきませんが、この映画のロケは三重県桑名市を中心に、愛知県など東海地方でも行なわれました。
放送局がある名古屋ではそういった面でも注目度が高い作品です。
原作は短編集
『アイミタガイ』が大好きな小説だという大矢さんは、映画化と聞いて「どうやるのかな」と思ったそうです。
というも、この原作小説は短編集。
全部バラバラの話ですが、登場人物が繋がっていたりと緩い繋がりがある作品です。
そのため、オムニバス映画にするのか、それとも1本の映画にするのか、1本にするならどうやってくっつけるんだと疑問でした。
そこで大矢さんがその映画の公式サイトで話を読んでみると、どうも設定をかなり変えているようです。
そして、原作の短編集のエピソードをうまく繋げて1本のストーリーにしているそうです。
短編集を長編映画に。どのように演出しているのか、そういった面で見るのも楽しいかもしれません。
あらすじ
『アイミタガイ』に収録されているのは5つの短編です。
まず第1話では、若い青年が主人公です。
毎日通勤電車で出会う男の人がいて、いつも一緒の車両の同じ場所に乗っています。
ある日その人が寝過ごしそうになっていたため、主人公は起こした方がいいんじゃないかと思うも、知らない人だから気が引けてしまい、どうするべきか迷う話です。
第2話はホームヘルパーの女性が主人公。
知り合いのウェディングプランナーから、金婚式の演出でピアノがを弾ける人を探していると聞きます。
主人公が通っている家の老夫人が元ピアニストだったため、話をしてみると…?
第3話は、娘を事故で亡くしたその夫婦の話。
事故死した娘宛てに養護施設から手紙が届いたのをきっかけに、 娘の知らない面があることを知っていく話です。
第4話は中学受験に失敗した小学生の話。
そして最終話は、 両親が離婚して母と暮らしている娘が父親へのわだかまりが影響して自分の結婚に踏み切れません。ある日娘は腹違いの弟に出会って…。
大矢「この5つの話が、緩く繋がっているのがこの物語のいいところで、 1個1個の話も、すごいじんわりこう染みてくるようないい話ばっかりなんですよ」
共通テーマがアイミタガイ
全く異なる5つの物語の共通するテーマが、「アイミタガイ」です。
例えば、この第1話の電車に乗った青年は迷った末に、ある方法でさりげなくその男性を起こします。この起こしてもらった男性が、別の話の主人公なんです。
青年に起こしてもらったおかげで、乗り過ごさずに済んだことは男性にとって大きな出来事となるのですが、そんなことになっているとは最初の青年はもちろん知りません。
このようにその本人にそのつもりはなくても、ちょっとしたことが誰かを助けていたり、慰めになっていたり、元気づけていたりする様子が描かれています。
大矢「そういうことの巡り合わせで人の世っていうのは、繋がってるんだなっていうことを感じさせてくれるような短編集なんですね」
主人公は脇役
では、短編集が長編映画でどのように展開していくのでしょうか?
主人公は黒木華さん演じるウェディングプランナーの梓ですが、実はこのウェディングプランナーは第3話の脇役なんです。
さらに映画のホームページから登場人物の名前を見ると、「あれ、これ、第何話のあの人だ、っていうことは、この人が出てくるんだ。じゃあ、あのエピソードが出てくるのかな」といったように、前もって予想を立てることができます。
その状態で映画を観ると、答え合わせができるのも楽しみ方のひとつです。
脇役を主人公に置き、短編集を長編映画に作り替えた作品『アイミタガイ』。
大矢さんは「原作を読んでおくことで、映画を観るときのちょっと変わった楽しみ方ができるんじゃないかな」と勧めました。
(ランチョンマット先輩)