高速風で“水滴を吹き飛ばす”~日本製「ハンドドライヤー」驚きの発想と開発史

高速風で“水滴を吹き飛ばす”~日本製「ハンドドライヤー」驚きの発想と開発史

トイレなどで手を洗った後に、温風の力で手を乾かす機器「ハンドドライヤー」は、20世紀の初め頃、米国で発明されたと言われる。欧米などでは、日本と違って、ハンカチで手を拭く習慣がないため、温風を手のひらに当てることによって、水分を蒸発させて乾かした。ハンドドライヤーは、1960年代に日本に入ってきたが、そんな習慣の違いもあって、なかなか一般には普及しなかった。

「風の中津川」ここにあり

「中津川製作所」提供:三菱電機株式会社

そんなハンドドライヤーに注目した会社があった。三菱電機である。「もっと簡単に、手を乾かす機械を作れないだろうか」。実は、三菱電機は、開発にうってつけの施設を持っていた。岐阜県中津川市にある中津川製作所、戦後、扇風機の製造を手がけてきた工場があった。“モーターと羽根による風のコントロール”は、得意中の得意、社内では別名「風の中津川」と呼ばれていた。担当者は考えた。

「温風ではなく、強い風によって水を吹き飛ばすことはできないか」

手の両側から風を当てる

「原理モデル」提供:三菱電機株式会社

開発がスタートした。ビニール製のパイプに穴を開けて、高圧で空気を送り込んで手を乾かす実験をくり返した。しかし、一方の側から風を当てただけでは、あまり効果がなかった。水滴が、指の反対側に回り込むだけで、手はうまく乾かなかった。従来の温風ハンドドライヤーは、吹き出し口から出る温風に、下から手をかざして乾かしていた。その風を両側から当てることを思いつく。機械のすき間に手を差し入れる構造にして、指に両側から風を当てた。それによって、水滴を一気に吹き飛ばすことに成功した。

強い風を生み出せ!

「ジェットタオル使用風景イメージ」提供:三菱電機株式会社

手についた水滴を吹き飛ばす、このためには、より強い風が必要だった。開発の末、風速65メートル、時速にして実に234キロメートルという風を作り出した。強力なファンを導入して、手のひら全体に、勢いが強いまま風が当たるようにした。さらに、ポケット型の箱のすき間に手を入れるスタイルでは、手を動かす空間が前後に限られるため、左右の壁をなくして、手を“横にも自由に”動かせる形にした。

その名も「ジェットタオル」

「ジェットタオル1号機『JT-16A』・1993年」提供:三菱電機株式会社

1993年(平成5年)、世界で初めて“水を吹き飛ばして乾かす”高速風のハンドドライヤーが誕生した。風が両側から吹き出るのも世界初だった。三菱電機は、この商品に「ジェットタオル」と名づけた。誕生して30年になる。実は、この「ジェットタオル」を真っ先に導入したのは、パチンコ店だった。客がトイレに行って、あっという間に手を乾かして、席に戻ることができるからだった。そんな評判と共に、国産のハンドドライヤーは注目を集めていった。

一瞬で乾く魅力

「ノズル(送風口)のアップ」提供:三菱電機株式会社

2年後には、やがて一般に普及していくスリム型の「ジェットタオル」が完成。手を乾かすための所要時間は、4~6秒に縮まり、さらに進化したハイパワー型では、それが2~3秒になった。従来の温風式ハンドドライヤーでは、30~50秒かかっていたことからすれば、まさに“一瞬で手が乾く”印象だった。

環境にも優しい“タオル”

「スリム型の最新ジェットタオル」提供:三菱電機株式会社

「ジェットタオル」は、コスト面でも大きく進歩した。紙タオルと比べると、平均的な1か月のコストは、紙タオルがおよそ5000円、ハンドドライヤーの電気代は70円。機器の減価償却費を加味しても、月3000円ほどだった。さらに、紙タオルと違って、ゴミが出ない。環境問題の面でも大きな長所があった。まさに、エコノミー面でも、エコロジー面でも、両方に力を発揮する開発だった。海外で生まれたハンドドライヤーは、温風ではなく「高速風で吹き飛ばす」というニッポンの、まさに“発想の転換”によって、大きく成長した。

「ハンドドライヤーはじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが“どんな強い風にも吹き飛ばされない”開発魂と共に、刻まれている。

         
【東西南北論説風(455)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

関連リンク

あなたにオススメ

RECOMMENDATION

エンタメ

ENTERTAINMENT

スポーツ

SPORTS

グルメ

GOURMET

生活

LIFE