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人気商品「使い捨てカイロ」を発明したニッポン企業の発想力と開発魂

人気商品「使い捨てカイロ」を発明したニッポン企業の発想力と開発魂
「快速・貼るホカロン」提供:株式会社ロッテ
「快速・貼るホカロン」提供:株式会社ロッテ

袋から取り出すとポカポカと温かく熱を発散する。今や「使い捨てカイロ」は暮らしの必需品にもなっている。そんなカイロの誕生には、ニッポン企業の見事なアイデアと開発力があった。

カイロは漢字で「懐炉」と書く。「懐(ふところ)の炉」、懐(ふところ)の熱源。江戸時代は、温めた石を着物の懐に入れた「温石(おんじゃく)」があった。昭和時代にかけては、燃料のベンジンを入れて火で加熱する「ハクキンカイロ」。しかし、火を使うこともあって、誰でも簡単に使えるものではなかった。そんな中、革命とも言えるデビューをはたしたのが「使い捨てカイロ」だった。

日本で「使い捨てカイロ」の開発は、米軍の装備品をヒントに始まった。米軍では寒い戦場に赴く時に、水筒の中に鉄の粉と食塩を入れて熱を発散させて“フットウオーマー”として使っていた。「鉄の粉は錆びる時に酸化熱を出す」という化学原理を利用したものだった。当時の日本でそれに目を付けた企業があり、1970年代半ばには日本で最初とされる「使い捨てカイロ」がお目見えしたが、主に鍼灸治療院など医療現場で重宝され、一般に使用される機会はまだ限定的だった。主に鍼灸治療院など医療現場で重宝されたが、使用される場所はまだ限定的だった。

「初期のホカロン1978年」提供:株式会社ロッテ

そこに登場したのが、菓子メーカー「ロッテ」グループのロッテ電子工業(現・ロッテ)だった。菓子の乾燥を保つために使う脱酸素剤を通してやり取りがあった「日本純水素」(現・エア・ウオーター。メカトロニクス株式会社)から「一緒にやらないか」と話を持ちかけられ、誰もが手軽に使うことができる「使い捨てカイロ」の商品化に歩み出した。布製の袋に鉄の粉を入れて、それをプラスチック製の袋に入れて密閉し空気と遮断。使う時に外側の包装から取り出し空気に触れさせて、軽く振ったり揉んだりすると温かくなる。出来上がったカイロには多くの長所があった。火を使わないため、誰でも安心して使える。軽くて持ち運びが便利。ベンジンカイロのような匂いもない。画期的な発明だった。

ロッテはこの使い捨てカイロに「ホカロン」という名前を付けて、1978年(昭和53年)に発売した。主な販売ルートが薬局だったため、商品名には薬の名前に多い「〇〇ン」と末尾に「ン」を付けた。1個100円と値段も手ごろだったため、「ホカロン」は一躍人気商品になった。「100円カイロ」と呼んだ人も多いのではないだろうか。冬場を中心に生活の様々な場面で使われるようになった。

「くつ下用ホカロン」提供:株式会社ロッテ

「ホカロン」の改良は進む。プラスチック製の包装から取り出すだけで、瞬時に酸化して熱を発散できるようになり、わざわざ振ったり揉んだりする必要がなくなった。発売10年目の1988年には「貼るタイプ」が登場し、腰や背中を温めたい人には朗報となった。そして靴下に貼る「ミニタイプ」はつま先を温めるために効果を発揮、これも人気の商品となった。いずれも日本独特の“細やかな心配り”が反映されていた。「使い捨てカイロ」は、ロッテの「ホカロン」に続いて、数多くの企業が生産するようになり、日本の“冬の生活必需品”としての地位を確固たるものとした。

鉄の化学反応を利用して、手軽で身近な「使い捨てカイロ」を発明したニッポン企業の卓越した発想力と開発魂。「使い捨てカイロはじめて物語」のページでは、日本の文化の歩み、その確かな1ページが“ホカホカと”温まっている。

【東西南北論説風(320)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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