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世界で新型コロナ・ワクチンの争奪戦が起きている!?~そもそも「ワクチン」とは何か?

世界で新型コロナ・ワクチンの争奪戦が起きている!?~そもそも「ワクチン」とは何か?
CBCテレビ:画像 『チャント!』

 新型コロナとの戦いで、「ゲーム・チェンジャー」になるのが「ワクチン接種」だといわれている。「ワクチン」への期待はきわめて大きいが、ここにきて、必要な量がすぐには揃わないこともあって、いわば「争奪戦」のようなことも起きている。
 改めて、「ワクチン」の歴史から振り返ってみたい。

「ワクチン」と「牛」の関係

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 英語で「Vaccine」と綴る「ワクチン」。語源はラテン語の「メス牛=Vacca」だという。実は、ワクチンの誕生には「牛」が(それもメスの牛が)、大きな役割を果たしていた。

「ワクチン」誕生ものがたり

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 人類は古くから、「一度かかったら、二度はかからない病気がある」ということに、経験的に気づいていた。やがて、「人間は、体内に二度目を防ぐ仕組みを持っているのではないか」と考え始める(のちに「免疫」と呼ばれるものである)。

 18世紀末。イギリスの医師エドワード・ジェンナーが注目したのが「牛」だった。牛には「牛痘」と呼ばれる感染症がある(「痘」というのは、皮膚にできる「水ぶくれ」を表している)。牛の乳しぼりをする女性らも、この「牛痘」に感染することがあった(人間の場合、その症状は軽いものだったが…)。
 ジェンナーが目をつけたのは、“その後”だ。「牛痘」にかかった人は、当時、イギリスなどで流行していた「天然痘」にかからないか、かかっても軽くてすむ…という事実だった。

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 ジェンナーは、「ダメージの少ない病気にあえて感染させておくと、より重い病気にかかるのを防げるのではないか」と考え、実験を始める。
 この発想と挑戦が、「天然痘」の予防接種「種痘」を生み出すことになり、やがては、「ワクチン」「予防接種」の普及につながっていく。医師や科学者たちの閃きと地道な研究・努力が積み重なって(もちろん、「牛」と「農民」の存在も忘れてはいけないが…)「ワクチン」が誕生し、多くの人々を救ってきた。

新型コロナと「ワクチン」。現代人は何をしているのか!?

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 新型コロナとの戦いでも、大きなカギとなるのは「ワクチン」だ。だが、期待が大きいが故に、様々なトラブルや衝突を生んでもいる。
 たとえば、イギリスの製薬会社アストラゼネカが作った新型コロナ・ワクチン。自国であるイギリスに優先的に回すのでは…という動きがあって、EU(ドイツ・フランスなど、つまりは大陸側)が怒った。「約束が違う」というのだ。EUは域内各国の分をまとめて購入したうえで、加盟国に分配する予定だったが、その計画に不透明感が浮上することになったからだ。製薬会社側にも言い分はあるようだが、EUは、十分なワクチンが用意できない場合に備えて「EU内で作られたワクチンが、EU外に輸出される場合は厳しくチェックする(規制する)」と言い出した。
 今度は、EUからの「ワクチン」輸入を予定していた国々が驚いた。日本も…である。アメリカの製薬会社ファイザーが欧州の工場で作ったワクチンの輸入を想定していたからで、ワクチン接種を担当する河野太郎大臣が、さっそく不快感を表明した。

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 こうした動きを背景に、EUの中でも不満の声が挙がる。たとえばハンガリー。「このままEUに任せていたら、いつワクチンが確保できるかわからない」というわけだ。そこに、独自のワクチン開発を進める中国が接近する。「ワクチン、いかがですか?」と。ハンガリーは、EU加盟国では初めて中国のワクチンを買うことを決めた。

 自分の国の分さえ確保できれば…という「ワクチン・ナショナリズム」や、ワクチンを融通するから仲間にならないか的な「ワクチン外交」など、あまり好ましくない動きが、「ワクチン」をめぐって、地球上のあちこちで蠢き(うごめき)始めている。

「消火器を買い占めても、全体の火事は消せない」

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 すでにワクチン接種を始めている国のほとんどが、裕福な国や、力のある国、あるいは製薬会社などとのパイプがある国…と指摘する声もある。
 WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、こうした事態を憂いて注意を呼び掛けた。というより、警告している。
 「町全体が火事のときに、自分たちの家だけを守ろうと、消火器を買い集めているようなものだ」。
 確かに、たとえ自分の家の火を消しても、周囲の家々が燃え続けていれば、火の粉が飛んでくることもある。協力して、全体の火を消さなければ、意味はない。

     ***

 命を救うため、「ワクチン」を開発した先人の知恵と努力、そしてなにより、その思いを、現代人も忘れないようにしたい。そして、自らに問いかけたい。何のための「ワクチン」なのかと。

『実はニュースなキーワード』(3)「ワクチン」

【CBCテレビ特別解説委員・石塚元章(いしづか・もとあき)】

 放送記者、編集長、海外支局長、ニュースキャスターなどを経て、現在はTV『ゴゴスマ』(CBC-TBS系)、ラジオ『石塚元章 ニュースマン!!』、『石塚元章の金曜コラム』(CBC)などに出演。「硬いニュースを柔らかく、柔らかい話題も時に硬く」「論説より解説」がモットー。

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