カッターナイフは日本生まれ~発明のきっかけはガラスの破片と板チョコだった
刃を出して切る。切れ味が悪くなったら刃を折ってまた使う。おなじみの文房具カッターナイフ、実は日本で生まれたのである。そこには思いもかけない秘話があった。
カッターナイフを生み出したのは、大阪市にある「オルファ株式会社」の創業者、故・岡田良男さん。「オルファ」=「折る刃」という社名が発明の歴史を象徴している。岡田さんの実家は印刷用の紙を断裁する工場だった。岡田少年は小さい頃から工作好きで、ハサミやナイフをよく使っていたという。10歳の時に、第二次大戦の空襲で焼け出されてしまった岡田さんは、電気の見習い工として働き始め、やがて印刷会社に勤める。印刷用の紙をカミソリの刃で切断していたものの、危ない上に刃が切れなくなると捨てていた。
「もったいない」
そんな岡田さんに、後に世界的な道具の発明に結びつく2つのヒントが訪れた。
まずは、街の靴職人の仕事。靴底を削るために、ガラスの破片を使っていたが、切れ味が落ちると破片を割って、また鋭い面で削り続けていた。もうひとつは、少年時代の記憶だった。終戦を迎えた後、日本にやって来た進駐軍のアメリカ兵たちが食べていた「板チョコ」。うまく割ってチョコレートを食べていたその風景が、靴職人と結びついたのだった。板チョコのように、刃の部分に切れ目を入れておいて、ポキポキと折って使っていけば、1枚の刃を何回も切れ味よく使えるのではないか。カッターナイフ誕生の道が始まった。
開発において最も苦労したことは「使う時は折れなくて、刃を替えたい時は簡単に折れる」という構造にすること。切れ目の角度と深さが、最大のポイントだった。試行錯誤を重ね、1956年(昭和31年)に試作品「折る刃式第一号」が完成した。大手メーカーに早速製造を持ちかけたが「刃物は折れたらダメ」「売れない」と言われ、最後には町のプレス工場に依頼して3000本を作った。しかしサイズも形もバラバラなものだったので、自分でひとつひとつ手直しした。ここで電気工の経験が生きたのだった。人生においての経験で、実は無駄なことはないのだろう。1959年(昭和34年)、ついに「折る刃式カッターナイフ」が発売されることになる。
カッターナイフ(cutter knife)は和製英語である。「カット(cut)するナイフ(knife)として命名されたが、純粋に英訳すると「utility knife」とのこと。しかし、国によっては「Japanese knife(ジャパニーズ・ナイフ)」と呼ばれることもあるというほど、日本発のカッターナイフは海外に広がった。その販売は100か国以上と言う。事業を拡大するために初期の頃に岡田さんが協力を求め、「特許:日本転写紙、発明者:岡田良男」で一緒に特許を取った会社も現在「ネヌティー株式会社」としてカッターナイフを販売している。工作好きだった少年が考え出した文房具は、今や世界中で欠かせないツール(道具)となったのだった。
岡田さんがこだわったものに、もうひとつ“色”があった。カッターナイフのために、岡田さんは黄色を選んだ。理由は「暖かみのある色」、そして薄暗いところでも、工具箱の中でも“目立って”見つけやすいようにという使う人への心配りだった。刃物という、使い方によっては危険な道具に、暖かいイエローのボディー。現在も黄色は、オルファ株式会社の“企業カラー”である。
戦後初めて見た米国の板チョコをヒントに生まれたカッターナイフ。「黄色」は職人・岡田良男さんの“志”と“夢”とそして“真心”がこめられた色でもある。
最後にひと言・・・「カッターナイフは文化である」。
※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿のコレ、日本生まれです」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして紹介します。
【東西南北論説風(223) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】