惜別と希望 球団史上最も愛された助っ人ビシエドとの別れ、そして井上新監督“強竜再建”の秘策とは
【ドラゴンズを愛して半世紀!竹内茂喜の『野球のドテ煮』】CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日12時54分から東海エリアで生放送)
激動の一週間
長い間多くの野球ファンから、そしてチームメイトからも愛されたダヤン・ビシエド選手の退団報道から始まり、井上一樹二軍監督の来季一軍監督就任発表。先週はまさにオフシーズン到来を感じさせる激動の1週間となった。惜別と希望、相反した思いが心の中で渦巻いているドラゴンズファンは多いはず。はたして今後のドラゴンズ再建はどうなっていくのか?気になる2大ニュースを今週のサンドラは追った。
志半ばで去る立浪前監督のために
“名古屋で育てられ、そしてドラゴンズで育てられた身分ですので”
ドラゴンズへの恩返し、そして師と仰ぐ立浪前監督の意志を引き継ぐために、重責を背負うことを決めた。10月10日、ドラゴンズ再建の命を受け、井上一樹二軍監督が来季からの一軍監督を受諾。会見で熱い思いを語った。
一軍監督就任を決断した大きな理由、それは立浪前監督への思いからだった。
井上監督「立浪さんが育てた原石がもう少し磨き続ければ光る手前まで来ている選手がいっぱいいる。その選手たちをなんとか輝かせてやりたい。それであれば、立浪さんとの絆がそこまで深くない方が監督されるよりはバトンをきっちりもらうのが1番スムーズなのかなということを考えました」
志半ばでユニホームを脱ぐ立浪前監督の無念をオレが晴らす。現役当時から兄貴として慕っていた井上監督だからこそ心の内を感じ取ったに違いない。
井上のススメ
基本は立浪イズムの継承。ただ陽の気を1番に考える井上監督らしく会見では“井上のススメ”ともいえる2つの基本指針を明かした。
井上監督といえば、現役時代のニックネーム“ピンキー”から取り入れたバッティンググローブやリストバンドなど球界には珍しいピンクの野球グッズ。それはひとえに“目立ちたかった”から。選手から監督へ立場が変わっても、その心は変わってはいない。
井上監督「他の選手とは違う、自分の個を出すことをこれからの選手たちにも許される範囲でどんどんアピールして欲しいと思っています」
今年二軍監督として11年ぶりにドラゴンズのユニホームに袖を通した井上監督。1年目から優勝争いを繰り広げるなど、指導力を発揮。二軍といえども勝利に徹する考えを貫き通した。
井上監督「勝つことにこだわる。なおかつみんなに愛されるドラゴンズを」
目標はシンプルにドラゴンズを“勝てるチーム”にすること。チーム一丸にまとめあげ、勝つチームになりあがらなくてはならない。我慢と勇気とそして持前のチームを明るくするという自分の長所を全面に出しながら良いチームを作りたいと話した井上監督。
来季はなんでも聞ける優しい兄貴といった存在から、勝利に徹する勝負師へと変身が求められそうだが、気負うそぶりはない。ただし“弱い時にも矢面に立ってやる”という思いで、勝ちに飢えたチームを根本から変えていく。それだけしか考えていない。3年連続最下位という苦境の中で産声を上げた井上ドラゴンズ。井上流のチーム再建が今、始まる。
誰からも愛された助っ人の別れ
それは心のどこかで薄々気づいていたような、同時に目を背けたくなるような、そんな瞬間が訪れた。
ダヤン・ビシエド退団。
来日9年。球団史上最高の助っ人がドラゴンズに別れを告げた。
ビシエド選手「これはビジネスですから仕方ないと思います。ただ今日までの9年間日本で生活できたのはドラゴンズに契約してもらったおかげ。感謝しかありません」
来日1年目の2016年。デビューは鮮烈だった。タイガースとの開幕戦から3試合連続放ったホームラン。その後、首位打者、最多安打、ベストナイン、そしてゴールデングラブ賞を獲得するなど、数々のタイトルを獲得。在籍期間にポストシーズンを経験したことはなかったものの、ビシエド選手の存在は誰よりも大きな光を放っていた。
打撃や守備、ビシエド選手の影響力は野球だけでは留まらず、彼がチームに与えた“人間力”は誰にも真似できない貴重なものとなっていった。
ブライト健太選手「お兄ちゃんじゃないですけど、自分の思っていることも話せるし、すごく良い方でした」
濱将乃介選手「タンケ(ビシエドのニックネーム)のことを嫌いな人はいないんじゃないですか」
さよなら、またいつか
しかしここ2年は出場機会が激減。特に今年は中田翔選手の加入もあってか、わずか15試合の出場にとどまった。今夏には“もしかしたら今年が最後かもしれない”と、苦しい心境を口にしていた。
そしてその日は唐突訪れた。10月6日、今季最終戦後に行われたセレモニー。ビシエド選手の登場に、この日一番の歓声がドームに響く。しかしこれがドラゴンズのユニホームを着ての“最後の姿”そして“別れ”となった。影のキャプテンと呼ばれ、ドラゴンズを支え続けた男が、来季の戦力構想に入ることは叶わなかったのだ。
日本を発つ日、早朝にも関わらずビシエド選手を見送りに中部国際空港へ訪れた選手がいた。選手会長の柳裕也投手だ。惜別のハグをし、笑顔で良き友人を見送った。
柳投手「ビシエドは特別な選手。チームからもファンからも愛された存在。今後も良い関係でいたいです」
チームメイトは家族みたいな存在だった、そして素晴らしい9年間をありがとうという言葉を残し、旅立ったビシエド選手。
“本当にありがとうございます。また会いましょう”
真っ白の歯を見せながら、愛嬌のある笑顔。ドラゴンズのユニホームを着てのビシエド選手はもう見られない。そしてたったひとつ、彼とやり残したことだけが無念でならない。それは…
オレたちは、オレたちは、
ビシエドと優勝したかった!
来年は他チームのユニホームを着て、ドラゴンズの敵として対峙するかもしれない。それでもビシエドの元気な姿が見ることができれば、ドラゴンズファンは皆、笑顔になるはずだ。
さよなら、またいつか。
今度は指導者としてドラゴンズに帰ってきて欲しい。
今まで本当にありがとうビシエド!
これからもがんばれビシエド!
がんばれドラゴンズ!
燃えよドラゴンズ!
竹内 茂喜