出て来い“竜のヌートバー”~侍ジャパンから考察する立浪ドラゴンズ2023~
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)侍ジャパンの熱い戦いを目の当たりにしながら、長年の竜党としては、いつも立浪ドラゴンズ2023年シーズンについても思いを馳せている。「大谷翔平がいれば」などとは、夢物語にも決して思わないけれど、日本代表の戦いには魅了され続けである。
「ヌートバー」がほしい!
ドラゴンズに最もほしいと思ったのは、侍ジャパン不動の1番打者ラーズ・ヌートバー選手である。これも夢物語と誤解されるといけないので、言い方を変えれば「ヌートバーのような選手」、すなわち、チームをけん引するムードメーカーである。
かつてドラゴンズには、多くのムードメーカーが存在した。20年ぶりにリーグ優勝を果たした1974年(昭和49年)には、髙木守道さんがいた。2代目「ミスター・ドラゴンズ」。セカンドの守備は一級品、走っては盗塁王、そしてホームランの数も多く「ここぞ」という時には必ず打つ勝負強さがあった。
1982年(昭和57年)のリーグ優勝の時には、田尾安志さんがいた。甘いマスクに隠された燃える闘志と、秀逸なバッティング技術。最多安打タイトルの常連だった。星野仙一監督がトレードで阪神タイガースから獲得した関川浩一さんも忘れ難い。1999年(平成11年)のリーグ優勝を、迫力あるヘッドスライディングでけん引した。いずれもヌートバー選手と同じ、トップバッターである。
ムードメーカー候補は・・・
チームを鼓舞して、ナインに勢いを与えるムードメーカー。実はこのところのドラゴンズでは、お目にかかっていない。ヒットを重ねるだけでも、ファインプレーを見せるだけでも、その役割は果たせない。打線の勢いに火を点ける。その一挙手一投足、さらに発言までもが、勝利を呼び寄せるためのもの。今まさに、米国育ちの日系人ヌートバー選手が、グラウンドで見せているパフォーマンスなのである。
すっかり人気の胡椒引きポーズ「ペッパーミル」はもちろんだが、死球を受けて激高したものの、試合後のインタビューで「こっていたところだったので、ほぐれて良かった」と言い放つセンス。すべてが素晴らしい。羨望の的である。
現実に目を向ければ、岡林勇希選手に期待したい。最多安打のタイトル、幅広い守備範囲、盗塁のスピード、そして何よりけがに負けない根性。竜にムードメーカーが登場すれば、過去の歴史からもペナント奪還が現実味を帯びてくる。
侍ジャパン打者の底力
侍ジャパンの打線に目を向ける。各チームの4番打者も多く顔を揃えるだけに「素晴らしい」ことは当たり前なのだが、何より「ここで打ってほしい」という期待が持てて、多くの場合で、その期待に応えてくれる。チャンスが文字通り「チャンス」なのである。主力打者だけではなく、代打などでも出場する選手が面白いように打つ。
ここ数年のドラゴンズは、チャンスなのに“まるでピンチのように”打者が委縮して、タイムリーが出ていない。2年目となる立浪和義監督も、チーム分析の中で深刻にとらえているのが、まさにその部分なのだろう。勝つことへの執念、そして、そこで打つことができる技術。侍ジャパンに選ばれた野手たちは、全員がそれを会得しているように見える。残念ながら、ドラゴンズから野手は選ばれていない。それが現実である。寂しい。しかし今年こそ!
髙橋宏斗への大いなる期待
投手陣には、ドラゴンズからただひとり髙橋宏斗投手が、代表チームに加わった。そのマウンドを見ることは、ドラゴンズファンとして、どこか誇らしい。そして「抑えてくれ」と強く願う。オーストラリア戦では、9回に抑えとして登板し、チーム唯一の失点となるホームランを打たれた。
しかし、髙橋投手の成長はその後に見られた。ショックで崩れてもおかしくない中、続く打者を三振、ファーストゴロ、そして三振に抑えた。ドラゴンズに戻れば先発投手の役割だけに、WBCはかけがえのない経験だったはずだ。大谷投手やダルビッシュ有投手ら、メジャーで活躍する先輩たちと過ごす濃密な時間もあった。それを糧として、ドラゴンズのエース道を駆け上がってほしいシーズンとなる。
桜が開花し始めた日本列島は、WBC侍ジャパン一色に沸いている。しかし、プロ野球のオープン戦は着実に日程が進み、ペナントレースの開幕も、日一日と近づいている。日の丸ユニホームもいいけれど、ドラゴンズブルーも忘れないで。立浪ドラゴンズ、勝負の2年目シーズンは、WBCが終われば、すぐ目の前にやって来る。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。