根尾が打ち、石橋が守り、高橋宏斗が投げた!若手ドラゴンズ躍動の東京遠征
まさに“非常事態”だった。活躍していた石川昂弥選手や木下拓哉捕手ら主力4選手が、新型コロナ陽性によってチームを離脱した。選手の数が揃わず、ウエスタンの試合は中止になった。そんな中で行われた東京での6連戦。「暗雲立ち込める」という言葉が頭に浮かんでいたが、結果は3勝3敗の5分。手負いのチームに勢いをつけたのは、高卒2年目から4年目の若竜だった。(年齢は2022年5月17日現在)
22歳の根尾が目覚めてきた
根尾昂選手は入団4年目の22歳。2022年シーズンは「外野手1本」と決まったが、ショートのレギュラーだった京田陽太選手の不調などチーム事情によって、ショートに再コンバートされて2軍戦に出場していた。しかしコロナ禍での選手離脱によって、急きょ1軍に上がり、外野であるライトの守備についた。5月13日の讀賣ジャイアンツ戦、右翼線への当たりをセカンドへの矢のような送球で打者走者を刺殺。一瞬ドームが静まり返るような、素晴らしいストライク送球だった。3戦目では、左へ右へ2本のタイムリー安打。いずれも見事な当たりで、連敗中のチームを鼓舞した。いよいよ1軍での「ショート根尾」も近いかもしれない。
21歳の石橋の頼もしき面構え
石橋康太捕手は根尾選手と同じく入団4年目の21歳。チームの要である木下捕手の後を受けてマスクをかぶると、「待っていました!」とばかりに存在感を発揮した。もともと評価の高い打撃はもちろんだが、今回の東京遠征では、キャッチャーとしての力量を見せつけた。最も印象に残ったのは、投手とのコミュニケーションである。マウンドへ歩み寄って投手と会話を交わす回数は、とても多い。さらにベンチではイニングの合い間に先発投手の横に座って話し込む姿もよく目にする。東京ドームでは、大野雄大と柳裕也という左右の先輩エースをリードして評価も高まった。木下選手の復帰後も、ひょっとしたらスタメン出場?の期待を持たせる。そんな面構えが頼もしい。
20歳の岡林こそ“立浪竜の申し子”
岡林勇希選手は入団3年目の20歳。よく石川昂弥選手が“立浪野球の申し子”的に紹介されることがあるが、実は「申し子」は岡林選手なのではと思う。広角に打てるバットコントロールは、立浪和義監督が評論家時代から高く評価していた。足も早い。高校時代は投手もやっていたため肩も強い。シーズンを戦う体力が課題とされて、一時ベンチを温めた時もあったが、ジャイアンツ戦では縦横無尽にグラウンドを駆け回った印象が残る。外野を守るアリエル・マルティネス選手の打棒が爆発中だけに、けがで調整中の大島洋平選手が復帰した時、首脳陣の頭を悩ませる存在であることは間違いない。何せ、開幕戦のスタメン選手なのだから。
19歳の高橋が歩む“エース道”
高橋宏斗投手は入団2年目の19歳。先発した5月14日のジャイアンツ戦、前半の投球は圧巻だった。150キロを超す自慢のストレート、切れ味あるカットボール、空振りを誘うツーシーム。球数こそ多かったので難しいかとは思っていたが、かつて1987年8月に高卒ルーキー近藤真一投手が成し遂げた“巨人相手のノーヒットノーラン”を実現するのでは?と期待したくなったほど、勢いのある投球だった。まだまだスタミナ不足もあり、6回途中でマウンドを降りたが、弱冠19歳のこの投球がチーム内の各投手に好影響を与えていることは間違いない。とにかく楽しみな投手が登場した。まだ10代である。
若竜が活躍できる立浪マジック
今回の東京での6連戦でも、立浪采配には目を見張った。特にジャイアンツ2戦目、高橋投手の交代時期である。「6回の最初から?」「無死2,3塁で4番の岡本和真選手の時?」「岡本選手四球の後の中田翔選手の時?」そして「中田選手を打ち取り、左打者の大城卓三捕手を迎えた時?」ファン目線で観ていても合わせて4回、交代タイミングがあった。しかし立浪監督は動かなかった。大城選手を三振に打ち取り、続く代打の中島宏之選手に押し出し四球を与えて3点差になった“5回目”のタイミングでベンチは交代に動いたが、久しぶりに手に汗握る場面を続けて見せてもらった。高橋投手はもちろん、根尾、石橋、岡林各選手も、このどっしりとしたベンチ采配があるからこそ、思い切ったプレーができるのだろう。一方で、手を抜いたプレーがあった場合、それは即1軍ベンチを外れることを意味する厳しさが、背中合わせにあることは間違いない。
コロナ禍で1軍を離れた選手たちも、いずれ戻ってくる。その時、立浪監督はどんなオーダーを組むのだろう。そんなワクワク感が一気に増した東京での6連戦。そう言えば“非常事態”だったのだ、いつの間にか忘れていた。
【東西南北論説風(341) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。