日本シリーズのMVP中村紀洋~ドラゴンズ立浪新政権コーチ列伝(3)
立浪ドラゴンズの秋季キャンプが始まった。11年ぶりペナント奪還へ、3代目「ミスター・ドラゴンズ」立浪和義新監督が選んだ指導者たち、現役時代にも竜を支えた魅力的な顔ぶれが揃った。そんなコーチたちの横顔を、ファンから見た思い出を中心に紹介する。
第3回は、1軍打撃コーチを担当する中村紀洋さん。
猛牛打線の中心打者
「いてまえ打線」という言葉に、懐かしさを覚えるプロ野球ファンも多いことだろう。近鉄バファローズ(後にオリックス・ブルーウェーブと合流し、現在はオリックス・バファローズ)の打線に、いつしか付けられた呼び名、1980年(昭和55年)頃、故・西本幸雄監督の時代だったろうか。大阪弁で「やっちまえ」という景気のいい意味なのだが、とにかく打った。力強かった。その「いてまえ打線」で1990年代後半に中核だったスラッガーが、中村紀洋さんである。ファンは親しみをこめて、こう呼んだ「ノリ」。その「ノリ」が選手としてドラゴンズのユニホームを着たのは、2007年(平成19年)春季キャンプ地の沖縄だった。
テスト生から竜の仲間入り
契約交渉がこじれて自由契約選手となった中村選手に、手を差し伸べたのは落合博満監督だった。「このままユニホームを脱がせてはいけない。チャンスを与えたい」と最初はテスト生として、キャンプに招いた。中村選手は髪を丸刈りにして参加、まずは育成選手として背番号「205」を与えられた。今あらためて思えば、落合監督は最初から「間違いなく戦力になる」と考えていたはずだ。前年の2006年、おそらくドラゴンズ史上最強と言える戦力でリーグ優勝しながらも、日本シリーズで北海道日本ハムファイターズに敗れていた。さらに戦力補強が必要だった。オープン戦でも結果を出した中村選手は、開幕直前に支配下登録された。新たな背番号「99」は開幕戦スタメンに名を連ねた。
歓喜!日本シリーズMVP
この年、ドラゴンズは実に53年ぶりの日本一を達成した。その立て役者のひとりは間違いなく「ノリ」だった。3塁のレギュラーとしてシーズン130試合に出場して、打率.293、ホームラン20本、79打点。キャンプにテスト生として参加した選手にして、見事な活躍だった。そして前年に続き、同じファイターズとの日本シリーズ。中村選手は5試合すべてでヒットを打ち、打率.444の4打点、シリーズのMVPに選ばれた。実は立浪和義さんとの縁はこのシーズンにある。開幕戦では、なんと立浪選手と中村選手、この2人がお立ち台に上っている。時は流れ、今度は監督とコーチという立場でドラゴンズのステージに戻ってきた。
中村コーチへ、そして選手たちへ
ドラゴンズファンとして正直な思いを吐露すると、2年後のオフにFA権を行使して、名古屋を去った時にはがっかりした。恩義ある落合監督がチームの指揮を執る間は、当然のようにドラゴンズのユニホームを着続けると信じていたからだ。しかし、今回の打撃コーチ就任で考えを変えようか。「ノリ」のドラゴンズでの“第2幕”が、今度は指導者として再開されるのだと。「いてまえ打線」のホームラン王に、最重要課題である竜打線復活の夢をかけたい。
そしてドラゴンズの選手たち。“教え上手”と評価の高い中村紀洋コーチにどん欲に食らいつき「いてまえ打線」に負けない「強竜打線」を築いてほしい。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。