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「仲間に救われた」ドラゴンズ木下雄介が父の一周忌に誓う、壮絶人生からの脱却

「仲間に救われた」ドラゴンズ木下雄介が父の一周忌に誓う、壮絶人生からの脱却
「仲間に救われた」ドラゴンズ木下雄介が父の一周忌に誓う、壮絶人生からの脱却

「あれから一年。相手のことは決して許せませんが、父が背負ってくれたと考えて前へ進むしかありません。ボクにも守るべき家族がいますので」

一年前、中日ドラゴンズ木下雄介投手は、突然、父親を失った。大阪に長く住み、年金生活を間近に控えた勤務中、交通事故で死亡。全く落ち度のない、気の毒な巻き込まれ事故だった。

当時ナゴヤ球場でウエスタンリーグの試合開始直前に、突然の訃報を聞いた木下投手。チーム関係者から、すぐに大阪へ向かうよう促されるも、

「父は大切な存在。でも、今の自分は、守るべき妻と子供のために、一軍昇格へアピールの場を逃すことはできません」

と、公式戦で登板。試合を終えてから大阪へ向かった。
実は、木下にとって、大切な人の突然の「死」と向き合うのは、初めてではなかった。彼の経歴にはこんな件(くだり)がある。

「駒沢大学中退」

響きのいいものではない。ただ、決してドロップアウトではない。野球部入学まもない頃、家族にとってかけがえのない人を交通事故で亡くし、その失い方からのショックで、野球への情熱が薄れ、失意からの退部、退学だったのだ。もちろん入学させてもらった周囲への感謝、その後の母校と大学の関係も熟考した上での、中退だった。

再び開いた人生の扉

しかし、木下雄介の人生は、大切な人との別れ、ばかりではない。失意の中、地元大阪へ帰り、スポーツジムでインストラクターとしてアルバイト生活。その職場で出会った奥様との出会いが、彼の野球人生の扉を再び開けることになる。

たまたま誘われた草野球のマウンドで、久々に握った硬式球。そこで、当時はまだ交際中だった奥様やスポーツジムの友人たちの目の前で、なんと150キロを計測。その時の奥様の言葉が忘れられないそうだ。

「あなたのあんな笑顔、初めて見たわ。ほんとは野球が好きなら、もう一度、挑戦してみたら」

木下の転機は、いつも突然だ。草野球の帰りに見かけたFacebook上での告知。木下にとって徳島での高校時代の盟友で、自身と同じように大学を中退していた、現在ジャイアンツで”神走塁”としても活躍中の増田大輝内野手の個人ページ。そこに、四国アイランドリーグが合同トライアウトを開くという告知があった。
増田と木下、共に合格。野球ができる場を得て、そこでの活躍がNPBのスカウトの眼に留まることになる。

ただ、目まぐるしい出会いと別れと経験する木下にとって、ドラゴンズの育成契約から支配下登録を経た今でも、心の根底に消えない思いがある。

「どれだけ大切な人でも突然失う絶望感は、忘れられない。かといって、そこそこ仲良くして、適度な距離で、なんて必要もない。そもそも人付き合いなんていらない。ましてやプロの世界。ライバルと群れる必要もない」

人生観を変えた、母親の言葉

しかし、木下のその頑なまでの哲学は、奇しくも父親を失った悲しみの場で、大きく変わることになる。

家族のために登板した直後、戦列を離れた木下は、父の亡骸と対面。翌日、大阪市内で通夜。ドラゴンズのメンバーはこの日もナゴヤ球場で公式戦があった。その夜、母親を励ましながら通夜を執り行っていた最中、その式場に、スーツ姿の大柄な男性陣がそろって姿を現した。明らかに異質な空気感を醸し出すオーラ。

試合を終えたばかりの、ドラゴンズの仲間たちが駆けつけてくれたのだ。

投手陣の先輩、後輩、投手コーチ、裏方さんたち10人以上。明日も早朝から名古屋で、試合前練習があるにも関わらず。名前は、木下本人の強い希望で伏せておく。ただ、「プロでは人付き合いなんて必要ない」と思っていたはずの木下と家族のために、大阪まで。直後の母親の言葉が、木下雄介の人生観を変えた。

「あなたは、ドラゴンズの皆さんに救われているのね」

失意の中、その瞬間だけは笑顔だった母親。

グラウンドで迎える一周忌

あれから早や一年。今日7月22日は、父親の一周忌。
木下本人にとって、激動の一年だった。

葬儀を終え名古屋へ戻った直後、一軍昇格を果たし5試合に登板。そして今季、155キロ超えのキレのある直球と野茂英雄さん直伝でヒントを得たフォークボールを武器に、守護神候補の一人として沖縄一軍キャンプ帯同。対外試合で結果を残して沖縄から家族の元へという矢先、キャンプ一か月の総仕上げともいえる練習で左足を大けが。

失意の帰名後、腓骨筋腱上支帯縫合手術。コロナ渦中、長いリハビリを続け、今月に入って、シート打撃など実戦形式の登板。そして、先週末のチーム遠征に初めて帯同、今季初登板を果たした。

「ようやくここまで来ることができました。もっともっと状態を上げて、一軍で活躍します」

父親の一周忌はグラウンドで迎える、木下雄介投手に幸あれ。燃えよ!ドラゴンズ!

【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」水曜(午後4時放送)他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ゴルフなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。早大アナウンス研究会仕込の体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】

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