中日・大野雄はいつどこで狂ったのか?復活にかける左腕が見つけ出した答え
平田良介が明言した。
「ライトを守っていると、左投手の球筋がはっきり見えるんです。去年、一番ストレートが良かったのは大野(雄大)。あの球でなぜ勝てないのか。不思議でした」
2011年、大野雄は佛教大学からドラフト1位で中日に入団。2年目に4勝。3年目からは3年連続二桁勝利。その後、2年連続で開幕投手も務めるなどエースに成長した。
しかし、去年はまさかの大失速。6試合0勝3敗。防御率8.56。脂の乗った8年目30歳のシーズンは白星なしに終わった。
経験はある。球も良い。老け込む年でもない。では、いつどこでボタンを掛け違えたのか。大野雄が声を絞り出した。
「3月のオープン戦です・・・」
苦い思い出は鮮明に
2月のキャンプは順調だった。首脳陣からも「このまま調整してくれ。開幕は1軍。ローテーションを1年間守れるように」と言われていた。自身も感じる手応え。だからこそ、発言には気を付けた。
「すぐ調子に乗っていると思われるので。開幕投手も『今年は苦手なマツダスタジアムだから遠慮します』と言いましたし、ローテも『5、6番手でいい』と答えていました」
体は充実。言葉は冷静。完璧に仕上がっている、はずだった。
悪夢を見たのは3月7日。宮崎市生目の森運動公園アイビースタジアム。ヤクルト・中日のオープン戦。
「キャンプ以上に大切なのがオープン戦。それは理解していました。しかし、いきなり狂ったんです」
1回裏。先頭打者は日本球界に復帰した青木宣親だった。
「ものすごい注目でしたが、僕は意識していませんでした。しかし、全くストライクが入らず、フォアボール。『まずい』と思っていたら、次のバント処理をミスしたんです」
苦い思い出は鮮明だ。
「その後、ワイルドピッチ。山田哲人に犠牲フライ。2アウトを取って、新人の塩見(泰隆)君にホームラン。いきなり3失点」
2回裏も悲劇は続く。
「先頭の中村(悠平)にフォアボール。次の廣岡(大志)君にホームラン。最悪なパターンでした。結局、3回6失点で降板です」
大野雄は開幕1軍切符を自ら手放した。ここから、もがき始める。
言動、行動も原点へ
「ルーティーンを色々試すようになりました。それまでは尊敬している吉見(一起)さんの真似をしていたんです。先発の日は誰とも喋らず、ロッカーでも孤独にイヤホンで音楽を聞いて、周りが近付けないオーラ全開。ただ、去年はあえてチームメイトと話したり、リラックスするために雑誌を読んだり、携帯のニュースを見たり」
しかし、うまくいかない。
1軍初登板は4月25日。前橋球場。巨人・中日5回戦。前年、完封勝利を挙げた縁起の良いマウンドだったが、4回5失点でKO。
「こんなにイニングを食えない(稼げない)なんてと落ち込みました」
最後の登板は8月25日。当然、オフは長く、自己分析する時間は充分だった。そこで、大野雄に去年を漢字1文字で振り返ってもらった。
「完全に『迷』ですね。心技体の心が揺れ過ぎ。今思えば、あのオープン戦をテンポ良く綺麗に抑えようとしたことが間違い。控えめな発言も自分じゃない。試合前の準備もブレブレ。ピンチでも余計なことを考え過ぎました」
ただ、もう迷いはない。
「今年は『心』です。心で投げます。腕を振って、相手をねじ伏せる。球が荒れたって構わない。目の前の敵に集中する。それが本来のスタイル」
言動、行動も原点に戻す。
「勝って喜び、負けて悔やむ。それが僕。クールな姿は似合わない。今年はどんどん口にします。与田(剛)監督からは『170イニングを投げてくれ』と言われました。まずはそれが目標」
平田が認めるストレートがある。200イニングを投げた実績もある。そして、「心で投げる」という答えも出た。
早く見たい。大野雄の血走る目を、躍動する姿を、弾ける笑顔を。今年、背番号22は去年の遅れを一気に回収するつもりだ。
【CBCアナウンサー若狭敬一
CBCテレビ「サンデードラゴンズ(毎週日曜午後0時54分放送)」、CBCテレビ「スポーツLIVE High FIVE!!(毎週日曜午後1時24分放送)」、CBCラジオ「若狭敬一のスポ音(毎週土曜午後0時20分放送)」、CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週金曜午後6時放送)ほか、テレビやラジオのスポーツ中継などを担当】