トラックマン数値「チームトップ」の裏付けを自身の安定感へ。中日・柳裕也の挑戦
「最近、トラックマン※、トラックマンって、データが独り歩きし過ぎじゃないですか。ボクが、メジャーへ行く前からデータ面で、秘かに意識してきたことは、何かといいますと…」
CBCラジオ「ドラ魂KING」の生放送で、私、宮部が、柳裕也投手のトラックマンでの高数値を紹介した際、語りだした川上憲伸さん。
※高性能弾道測定器「トラックマン」:投球時の回転数、初速、終速などを数値化する装置
今季3年目の柳投手は、今年こそ先発ローテーション入りを目標に沖縄キャンプ、オープン戦で順調に結果を残している。
明治大学時代、エースで主将という二人の共通項からも、川上さんが気に掛けている投手だ。加えて、柳投手のマウンド姿は、常に白星以上のドラマを生んでいる。その姿も、二人は重なる。
ルーキーイヤーには、プロ初勝利を父の日に挙げた。小学生時代に亡くした父親に捧げる白星だった。昨年は、プロ初完封勝利をシーズン12球団完封一番乗りで記録。しかし、ケガもあり年間2勝に留まった。
打者を打ち取るためにできること
3年目の今季へ向け、自分には何が足りないのか模索する柳投手に、チームのスコアラー陣は、参考になればと、昨年のトラックマンのデータを手渡した。
それによると、柳投手の投球時の回転数と、リリース時の初速と捕手捕球直前の終速の差の少なさは、共にチームトップという誇るべき数値だ。
このデータに柳投手自身は、いたって冷静である。
「数値の良さは、ありがたく受け止めてます。ただ、問題は、打者を打ち取らないと、全く意味がないことです。数字のコンテストではないので」
「だからこそ、シーズンオフから強く考えているのは、『高め』への意識です。これまでは自分の持ち味の、ほぼ真上から腕を振って角度をつけて低めを狙い続けていました。伊東ヘッドコーチも言ってくださいました。狙っての高めをもっともっと投げれば、元々スピードが落ちにくい低めの球も生きるぞ。回転の良さを伸ばすことにもなると」
「それと、『内角』への意識。今年は、もっとハッキリと、内角直球でカウントを作り、外角への変化球の出し入れで勝負したいんです。それと、内角高めへ投げ込むことで、最高スピード自体も上がってきた実感があります。」
柳投手自身は、オープン戦で手ごたえを掴みつつあるが、これはそもそも基本中の基本であり、公式戦で内角へ投げ切るのは容易ではない。甘めに入るリスクを伴うことは、本人も重々承知している。
見抜かれた弱点、先輩から贈られたエール
そして、敵も然さる者。元ドラゴンズ人気投手で、ここ何年も古巣に対する先乗り分析を続ける巨人・中里篤史スコアラーも、早々に見抜いていた。
「キャンプの初日から、彼の内角への心がけは、ブルペン視察で感じてます。ただ、印象的なのは、昨年のウチとの初対戦、柳投手にとってのシーズン初登板の初回、先頭打者の陽岱鋼(ようだいかん)へのわずか5球目、左手甲に死球、骨折させてしまいましたよね。あれから内角へ投げにくくなった嫌いも、見逃しません。同じ、投手の立場からも」(中里スコアラー)
今更、その心理を柳投手に聞くほど野暮なことはなく、もちろん、今でも引きずっていては、プロでは話にならない。
だからこそ、川上さんの指摘は、こうだ。
「ボクは、スピードの緩急と見られがちですが、回転数の緩急をつけてきました。同じ内角へでも、キレの良いストレートもまず必要。また、例えばスライダーという球種は、回転数の多さを見せつけられる。打者に、その残像を残しておいて、そこからが勝負なんです。特に柳は、回転数の多い球種と少ない球種のギャップを最も活かしやすいわけですから」
現役時代、高速カットボールをメジャーの中継を観て習得し、90キロ台のスローカーブとの緩急で無敵を誇った魂のエースが、明治の後輩にエールを贈る。
柳投手が投げる姿、掴む勝ち星には、毎回ドラマがある。ただ、昨年までは、それが継続とはならなかった。だからこそ、トラックマンデータの裏付けを自身の安定感に繋げるべく、シーズンへ向けての挑戦が続く。
ドラゴンズファンは、新たなチームの大黒柱を求めているぞ。燃えよ!ドラゴンズ!
【選手データ】
柳 裕也(やなぎ ゆうや)
背番号:17 ポジション:投手
生年月日:1994年4月22日 身長・体重:180cm 85kg
投打:右投右打 出身地:宮崎
出身校:大王小-小松原中-横浜高-明治大
現役:中日(2017~)ドラフト1位
【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週水曜午後6時)他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ゴルフなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。山本昌ノーヒットノーランや岩瀬の最多記録の実況に巡り合う強運。早大アナウンス研究会仕込の体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】