ガッツポーズはしない!竜ドラ2橋本侑樹投手が“伝説のサブマリン”に明かした理由
CBCテレビ『サンデードラゴンズ』(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム
2019年11月24日の『サンデードラゴンズ』は実業団女子駅伝中継のためお休みです。前回の番組には中日ドラゴンズのドラフト2位指名・橋本侑樹投手(大阪商業大学)がスタジオ生出演しました。これまでの歩み、現在の立ち位置、そして未来予想図など、即戦力左腕の呼び声高い橋本投手の魅力たっぷりだった番組内容をご紹介します。
橋本が自ら評する「強気で冷静」
「最速152キロ」「切れ味鋭い変化球」そして「鋼(はがね)のメンタル」というキャッチフレーズと共に、豪快なピッチング映像が流れた直後に、スタジオに登場した橋本侑樹投手の手には「ここに注目!」と題されたフリップ。
そこに書かれていたのは「強気で冷静」。「強」の文字がひときわ大きい。その言葉通り、スタジオでもまったく動じない橋本投手は精悍な顔つきで、その意味を説明する。
「どんな場面でもマウンドに上がったら強気で、ピンチでも強気で冷静という気持ちを忘れないよう心がけている」
この言葉に、ゲスト解説者の“伝説のサブマリン”山田久志さんがすかさず感想を送った。
「ピッチャーで一番大事なものの2つだね。弱気が一番困るもんね」
通算284勝、かつて阪急ブレーブスの黄金期をエースとして支えた大投手の言葉に、思わず微笑む橋本投手。スタジオでのトークは、まるで橋本投手自身がこの秋に達成したノーヒットノーラン試合のように気持ちよくスタートした。
橋本侑樹とはどんな投手?
ドラゴンズのスカウト陣が迷うことなくドラフト2位で指名した橋本侑樹とはどんな投手なのか?
福井県高浜町の出身、高校は岐阜の名門・大垣日大高校だった。その後、大阪商業大学に進み、3年秋の関西六大学リーグでは防御率0.71で最優秀防御率、そして4年秋のリーグ戦では京都産業大学を相手にノーヒットノーランを達成した。その日は2019年9月15日。奇しくもその前日には竜の本拠地ナゴヤドームで、同じ左腕の大野雄大投手がノーヒットノーランの快投を見せた。その時から竜とのドラゴンズブルーの縁(えにし)は結ばれていたのだろう。
父親の憲明さんは「負けん気の強い子だった」と、ある思い出を明かした。
小学生の時にコールド負けをした時、ゲームセットで整列した中、橋本侑樹少年だけがひとり悔し涙に暮れていたそうだ。その負けん気が、ノーヒットノーランという大記録に結びついたのだろう。
大学時代の秘密練習とは?
大阪商業大学野球部の富山陽一監督は、橋本投手についてこう語る。
「マウンドへ行く前の表情がたくましい」
そんな大商大野球部の独特の練習方法について、橋本投手が披露した。
投手の場合は、カウント「2ボール、ノーストライク」あるいは「3ボール、ノーストライク」を想定して投げる。打者の場合は、カウント「ノーボール、2ストライク」あるいは「1ボール、2ストライク」を想定して打つ。「次こそ勝負」というプレッシャー想定での1球。スタジオで山田久志さんも「いい参考になった」と評価したこの練習の効果について、橋本投手は次のように語った。
「ノーアウト満塁になったとしても、(次の打者はノーボール、ノーストライクの)カウントゼロから始まるのだから、そういうピンチが来ても気持ち的に余裕がある」
そんな橋本投手のことを大商大ナインは「試合前はしゃべらずにひとりで走っている。
何も考えられないくらい緊張する」「試合前に吐きそうになっていることがある」と笑う。
それをスタジオで聞いた橋本投手は「メンタルは強いです」と言い切った。やはり負けん気は強そうだ。
名将・阪口監督からのお墨付き
橋本投手にとって、忘れられない恩師がもうひとりいる。大垣日大高校野球部の阪口慶三監督だ。かつて“愛知4強”と言われた名門・東邦高校を率いて、甲子園でも全国制覇を成し遂げた名将である。
1年前に、同じように大垣日大から大商大、そしてドラゴンズへと入団した教え子・滝野要選手が挨拶に来た時に、滝野選手の手のひらを触って「こんな手でどうする!」とパチン。きびしい洗礼だった。
さて、今回の橋本投手はどうだったのか?
阪口監督の表情はいつも通り、しかし橋本投手の掌を触って、その目にふっと優しさが浮かぶ。
「いいタコができている。きれいにボールを切っているね」
橋本投手は阪口監督について「練習はきびしいが、野球以外はやさしい。お父さんみたいな存在」と語る。その阪口監督からのお墨付きに、思わず破顔一笑の橋本投手だった。
伝説のサブマリンが認めた!
スタジオで横に座る山田久志さんからこんな質問が飛び出した。
「プロに入ったら、先発?中継ぎ?抑え?一番やってみたいポジションは?」
橋本投手はこう答える。
「与えられたところでチームに貢献できるようがんばります」
山田さんは「チャンスあるよ!」と力強く後押しをした。
その山田さんは、反動をつけるため腕を後ろに引く「テークバック」が小さいのが特長という橋本投手の投球フォームについて、
「大きいより小さい方がいい。タイミングの取り方はむずかしいが、ものにしたら大きい」
こう分析した。そして橋本投手にアドバイスした。
「プロに入ると今まで経験したことがないことがたくさん出てくる。大切なのは、ピッチャーは長いペナントレースを戦う上で、ずっとうまくいくことはありえない。打たれたり、負けたり、大きな試合で先発をまかされてそれができなかったり、その時の“切り替え”。そこで自分がどうやって立ち直っていくか、そこをめざしてほしい」
あえて投手としての逆境を例に出して、これにどう立ち向かうかを語る山田さんの熱い言葉からは、橋本投手への大きな期待が感じられた。
岩瀬仁紀さんからの金言
そしてもうひとり、プロの世界に入る橋本投手にアドバイスを送ったのは、ドラゴンズで日本プロ野球界を代表する“抑えのエース”だった岩瀬仁紀さんだった。
「チーム内で自分の居場所を作ること、これが最初にするべきこと。自分はこれでやっていけるというものを早く見つけてほしい」
「1年でも長くこの世界でやってほしいし、ローテーションの柱としてがんばってほしい」
プロ1年目にセットアッパーとして65試合に登板し、その後はクローザーとして前人未到の407セーブを積み重ねた岩瀬さん。竜の大先輩からの激励メッセージは、橋本投手の表情が、この日もっとも紅潮した瞬間だった。
ガッツポーズをしない理由
『サンデードラゴンズ』恒例の「未来予想図」。橋本投手は力強く書いた。
「1年目は開幕1軍」「3年目は信頼される投手」「10年目は日本一の投手」。
そして「10年後と言わず、10年後までにはそうなりたい」と力強く宣言した。
この日の橋本投手の言葉で、強い印象を受けた言葉がある。自分はガッツポーズをしないタイプだと明かし、その理由を次のように語った。
「ガッツポーズをすると、相手チームに『こいつ、ピンチだと思っていたんだな』と思われる」
“エースの風格”という言葉がある。ガッツポーズをしない理由を聞いた瞬間、そんな言葉が脳裏をかすめた。橋本侑樹投手が大学時代に背負っていた番号は「18」。そういえば、松坂大輔投手が去る来季のドラゴンズで、背番号「18」は誰が付けるのだろうか。
ひょっとして・・・。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。