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見事だった!大野雄大の「6試合連続完投」へ心からの拍手を!(観戦コラム)

見事だった!大野雄大の「6試合連続完投」へ心からの拍手を!(観戦コラム)

勝てなかった。しかし、9回115球を投げ終えてマウンドを降りる背番号「22」をナゴヤドーム万雷の拍手が温かく包み込んだ。中日ドラゴンズ大野雄大投手が、6試合連続の完投を成し遂げた瞬間だった。しかし残念ながら、その後に「勝利」という二文字は続かなかった。

チーム新記録へ登板だ!

大野投手が新たな記録に挑んだ試合だった。
1955年の石川克彦さん、1961年の権藤博さん、そして2006年の佐藤充さんの球団記録、5試合連続完投勝利に並んでいた大野投手は、2020年9月8日、本拠地ナゴヤドームで先発マウンドに立った。2試合連続で完封しており、こちらも1973年に背番号「17」の巨人キラー渋谷幸春さんが持つ球団記録「3試合連続完封」に並ぶ可能性もあった。
迎えるは首位の讀賣ジャイアンツ、そして投げ合う相手は開幕から無傷の9連勝中である菅野智之投手。「相手にとって不足なし」という言葉は、まさにこの夜のためにあるのだろう。
大野投手の先発ローテーションが変更になった直後に、公式ファンクラブのサイトで内野席チケット1枚を購入したが予想は的中。日本中のプロ野球ファンが注目する期待の投手戦、スタメン紹介の場内アナウンスも声高らかに盛り上げた。「究極のエース対決!」と。

痛恨の先取点は坂本バット

マウンドに向かう大野投手への拍手、その大きさと“質”の違いを、スタンドにいながらひしひしと感じた。熱い、そしてファンの気合いがこもっている。それに応えるかのように、1回表ジャイアンツの攻撃を、三者凡退それも2三振で斬った。上々の立ち上がりである。
この試合のポイントは「先取点」だと思っていたが、それを手にしたのはジャイアンツ、3回表1番バッター坂本勇人選手の二死2塁からのツーベースだった。低めのボールを泳ぎながらも打ち返した。直前の回にドラゴンズは二死1、2塁のチャンスで、同じ1番である大島洋平選手が三振に倒れていただけに、その勝負強さの違いが際立った。場内の106ビジョンに映し出される得点圏打率の大きな差が、その現実を残酷なまでに見せつけていた。そして、この先取点は本当に重かった。

沈黙を続けた竜打線

打てない。ドラゴンズ打線は、この1点を手に入れてギアを加速させた菅野投手を打ち崩すことができない。150キロの速球を軸に要所を締める圧倒的な投球に、終わってみれば散発6安打。菅野投手は7回で交代したが、ドラゴンズ打線は菅野投手に対して25イニング無得点となった。
この試合の前まで、チーム打率.240、本塁打37本、得点235点と、すべてリーグ最下位どころか12球団最下位の“点の取れない”チーム。昨シーズンから続く課題は、まったく解消されていない。それでも、この試合だけは打ってほしかった。流れを変える“劇打”を誰かに打ってほしかった。
大野投手自らは、投げ合う相手の菅野投手から2安打を放った。投げて打って孤軍奮闘の背番号「22」。凡退を続ける淡白な打線を見ながら、「心意気」「工夫」「意地」など、目の前にない文字が次々と浮かんできた。

ファンからの万雷の拍手

先にマウンドを譲った相手エースを横目に、大野雄大投手は9回を投げ切った。
6試合連続での完投。それだけに、2対0というスコア以上に重く感じられる敗戦だった。ゲームセットの後、1塁線上に並んでファンに挨拶するドラゴンズナインに大きな拍手が送られた。負けゲームでは極めて珍しいエールだったが、その拍手が送られたのは、たったひとりの投手に対してだった。
近くの席の男性ファンがつぶやいた。「大野への拍手だよ」

大野雄大。左腕。ドラゴンズの背番号「22」。実に見事な「完投負け」いや「敢闘勝ち」だった。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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