ハーラートップタイの中日・柳裕也がつかんだ「盾と剣」
「今日は完投してこいよ」
中日・与田監督が6月14日マーリンズ戦の試合前に柳投手にかけた願望込みのひと言。
柳投手自身の受け止め方は違った。
「みんなの前で明るく言われましたけど、ボクはマストと捉えて、リリーフのためとかじゃなく、自分が完投するんだ、と」
そんな思いで始まった14日金曜のZOZOマリンスタジアム。柳は決意通り、素晴らしい投球を見せた。ロッテ打線相手に6回まで、毎回の10三振を奪いつつ、球数はわずか77球。とにかく早めに追い込んで、2球で追い込むシーンの連続。7回にレアードの来日150号で初失点、同点とされるも、「逆に、今日は自分が投げ切って勝つ」とベンチで着替え、引き締め直した。ベンチの与田監督もナインも思いは同じ。気迫の投球が、強風の中でのレフト松井佑介の好捕を生み、ビシエドの決勝打、高橋周平の本塁打を生んだ。
【ハーラートップタイ】
投手の最多勝争いのことを「ハーラートップダービー」といい、そのトップタイ記録のこと。2019年6月21日現在7勝中。
自分を守るための「盾」
半年前、新政権船出にあたり、与田監督は残留したコーチ・トレーナー・裏方さんから柳のこれまでを聞き取り、新コーチと共に、柳本人と今後のことを話し合った。
入団から2年を知る周囲の印象は、「節目での活躍のインパクトは強い。絵になる投手。ただ、ケガもあり、活躍が続かない」
勝崎コンディショニングコーチのキャンプでの言葉が象徴的だ。
「自分を追い込みすぎ。完璧を求めすぎるからケガをする。背負いすぎて我慢するのではなく、申告してほしい。その勇気が自分とチームのためになる」
横浜高、明治大のエースで主将の本能だったのだろうが、柳は改め、フィジカルとメカニック両方の継続、安定のため、二段モーションに取り組み、球のリリース位置を工夫し、ケガをしにくく、相手打者が嫌がるフォームを心身に染み込ませた。まさに、自分を守る『盾』を獲ようと。
そして臨んだシーズン。昨年の初戦の最初の打者、陽岱鋼への死球で、左手甲を骨折させてしまい、狂ってしまったとも考えられる内角攻め。それを今年は徹底し、4月は負けなし2連勝、幸先の良い結果を残した。
打者を攻めるための「剣」
柳の昨年までの潜在能力である回転数の多さと初速と終速の差の少なさは、内角への意識の徹底によって劇的な相乗効果を生んだ。さらに、交流戦が始まり、パ・リーグの打者の特徴とガッチリ噛み合った。柳自身の実感はこうだ。
「特にパ・リーグの打者は、例えツーボールとボールが先行してしても次を振ってくれてカウントが稼げるので、積極的に攻めることができます。ファウルでカウントを整えられます。独自のカーブで、有利なカウントも作れます。決して、気持ちのゆとりとまではいかないですが、早めに追い込むことができれば、積極的に振ってきてくれるというのはありますね」
まさに今季の柳がつかんだ最高の『剣』が、パ・リーグの打者を苦しめているのだ。
完投勝利の翌朝、大雨のZOZOマリンの屋内練習場で、気持ちのいい汗を流す柳に歩み寄った与田監督。二人のキャッチボールが始まった。与田監督自らが練習中にグローブをはめることは、すでに日常。ただ、二人にとってこれほど最高なキャッチボールはないだろう。
「柳の体は、意外とほぐれてたね。無理をして怪我だけはしてほしくないから」(与田監督)
さあ、柳がつかんだ『盾』と『剣』は、今晩のナゴヤドーム、ファイターズ戦、柳自身にとっての今季の交流戦最終登板へと繋がる。もちろん、二人のキャッチボールがポストシーズンまで続いていくために。燃えよ!ドラゴンズ!
【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週水曜午後4時放送)他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ラグビー・サッカーなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。山本昌ノーヒットノーランや岩瀬の最多記録の実況に巡り合う強運。早大アナウンス研究会仕込の体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】