無観客キャンプ打ち上げ!沖縄のドラゴンズ最前線で目撃したコロナ禍の球春
中日ドラゴンズの春季キャンプが終わった。新型コロナウイルス感染への警戒から、キャンプ地である沖縄県は県下一斉に独自の緊急事態宣言を出し、どの球団もファンを入れない異例の無観客キャンプとなった。
北谷町役場もPCR検査
「私もPCR検査を受けました」
1軍のキャンプ地である北谷町の野国昌春町長は、微笑みながらも真剣な目で語る。
ドラゴンズが北谷町をキャンプ地に選んでから、今回は節目の25年。役場では毎年この時期、職員たちが思い思いにドラゴンズのユニホームやシャツを着て窓口に立つなど、町を挙げての応援態勢となる。本来ならば、25周年を大いに祝いたかったはずだ。しかし、今年はその一切が自粛となった。
「私はすでに検査を3回受けて、来週また1回受けます」
こう語る観光係長の上地勝樹さんは「ドラゴンズ北谷協力会」のメンバーでもある。役場はじめ球団と接触するあらゆる人たちにPCR検査は求められた。
新型コロナ厳戒態勢は続いた・・・
ドラゴンズの新型コロナ警戒態勢は徹底していた。選手や球団関係者は、不要不急の外出禁止、もちろん食事は宿舎内で義務づけられた。ホテル内にある大浴場やサウナも、他との接触を避けるために使用禁止。これまで2人で使っていた相部屋も、ひとり使用となった。1年前に「アグレスタジアム北谷」と改称された球場でも、敷地内への立ち入りは厳しく制限された。報道陣にも取材前の検温はもちろんのこと、取材パスに加えて「PCR検査済」の陰性証明証の着用も義務づけられた。その甲斐あって、キャンプ期間中、感染者はひとりも出なかった。
心の叫び「居ても立っても居られない」
ファンにとっては寂しい春季キャンプとなった。球場の周辺には、入場できないことが分かっていながらも、つい足を運んでしまったというファンの姿もあった。
「せめて選手たちと同じ空気を吸いたくて。居ても立っても居られなかった」
ドラゴンズだけでなく、全国のプロ野球ファンが同じ思いだったはずだ。
北谷町役場の1階受付にも、先日、年配の女性がやって来て、
「毎年楽しみにしている。何とか球場で練習を見ることができないか」と“直訴”に来たそうだ。そんなコロナ禍のキャンプ。
ファンに人気のキャンプグッズもオンライン販売となった。3年前は松坂大輔グッズ、2年前は根尾昂グッズ、そして去年は石川昂弥グッズなどを求め、ファンが長い列を作ったが、その風景も今回は見られなかった。それでも、キャンプ期間の中盤には球場近くの大型スーパー内に特設ショップがお目見えし、地元の人たちの要望に応えていた。
無観客のスタンドに思う
阪神タイガースとの練習試合を取材した。例年ならば、球場スタンドにはユニホーム姿の大勢のファンが陣取り、選手たちに熱い声援を送る。しかし、当然それもない。打球の音、ミットの音、そして両軍ベンチからの声が屋外のグラウンドに響くだけ。昨シーズンの無観客試合で度々体感したはずの空気が、沖縄の太陽の下ではより鮮明になってしまう。
外野フェンスに掲示された「ちばりよードラゴンズ」(頑張れドラゴンズの意)という大きな文字が、どこか寂し気に見えてしまった。球春到来を祝うために、ファンの存在は欠かせないものだとあらためて痛感させられた。それは選手たちも感じているはずだ。
沖縄県を直撃したコロナ禍
ドラゴンズはじめ9球団が春季キャンプを行った沖縄県。新型コロナの影響は深刻だ。
2020年の年間観光客数は373万6600人、前の年に初めて1000万人を突破した勢いは一気に失速し、63%超の大幅減少となった。新年度の予算案でも税収の減少率は13.6%で沖縄県が全国でトップ。経済は大きな打撃を受けている。
北谷町の球場北側に広がる観光地、美浜アメリカンビレッジも、スマホの位置情報分析によると県外からの客がほぼ半減しているという。名物の大観覧車、その建物1階にあった大型ドラッグストアは撤退していた。キャンプ地の痛手は根深い。そんな厳しい環境の中、それでも2021年の春季キャンプは無事に終わった。
ペナントレースの勝利こそ
春季キャンプという最初のステージでは、コロナウイルス相手には負けなかったドラゴンズ。しかし、キャンプの目的は、あくまでもペナントレースの勝利である。球団創設85周年を迎えた中、感染防止対策ではなく、練習そのものの中味が問われる戦いがいよいよ始まる。自粛を余儀なくされたファンの視線は例年以上に熱く、そして厳しい。それに勝利で応えてこそ、異例の無観客キャンプに“勝った”と言えるだろう。開幕はもう目前だ。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】