「人じゃ跳べないような高さも、馬と一緒なら跳べる」(2年 玉木志旺さん)
「人馬一体」で伝統を紡いできた名古屋大学の馬術部。
新型コロナの影響を受け、部の存続に立ちはだかるハードルに挑む、学生たちの姿を追いました。
「かわいがっているので、馬が出ていってしまうというのが一番悲しいし、想像するとつらかった」(3年 米谷倫香さん)
歴史ある馬術部 コロナ禍でピンチ
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愛知県東郷町。
周りを緑に囲まれたこの場所で、名古屋大学の馬術部は活動しています。
名大馬術部の創部は戦後間もない1949年。
今年で72年目を迎える伝統ある馬術部で、全国大会にも常連の強豪校です。
コロナ禍の1年、主将として部を率いたのは、3年生の米谷倫香さん(21)。
新型コロナの影響で直面したのは、深刻な部員不足です。
「人数が減った時に、このままだと世話ができないんじゃないかって話になって…」(米谷さん)
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1年生が入部はしてくれましたが…
「馬に乗れたらかっこいいかなっていうミーハーな気持ちで」(1年 竹内菜々子さん)
「初心者がいっぱいいる部活にしようと思って」(1年 小川雅弥さん)
現役部員は、米谷さん、玉木さん、吉村さん、竹内さん、小川さん。あわせて5人だけ。
馬術部の馬は、アンリオ、シャルロッテ、ポップチャート、アンビション、クロッカス、ビスキュイの6頭。
人よりも馬が多い状況です。
部員の1日を取材 練習は週4回…世話は?
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「2年生が、6人から1人になりました」(米谷さん)
コロナ禍で部員が5人も辞めた理由は、馬術部特有の日常が関係していました。
まだ外が薄暗い中、厩舎にはすでに部員の姿が。馬たちへのエサやりです。
朝5時起きで世話を済ませて、授業に向かう日もあります。
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夕方は、馬場に戻って小屋の掃除を終え、ようやく馬に乗り、週4日の練習に励みます。
日が落ちてくると、練習を切り上げ、馬のケアを行います。
「毎日違う馬の様子を見ながら接して、愛情が増えていって、だんだん離れられなくなりました」(米谷さん)
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午後7時、部活は終了ですが、部室には2人の部員が残ります。
課題やテスト勉強などをしながら、夜が更けるのを待ちます。
午後10時。夜のエサやり当番です。
消化の遅い馬のために、回数を分けてエサを与える必要があるのです。
部員が交代で、毎日1日4回のえさやり当番をこなし、週5~6日は馬との生活です。
部員減少の理由は「コロナ禍で負担が増えたこと」
「4人とか3人とかで全部同じことをしなきゃいけなかった時は、さすがにしんどいなと思いました」(2年 玉木志旺さん)
大学側から“密”を避けるため同時に活動できる人数に制限が課せられ、部員1人1人の負担が増加。
次々と部員が辞めていきました。
もうひとつの課題 “お金”
この1年に直面した課題は、もうひとつ。「お金」です。
「今から森林公園の乗馬施設にバイトに行きます。部費を稼がせてもらうために入れてもらっています」(米谷さん)
バイト内容は、馬の世話や乗馬客の補助です。
「1日入ると8000円くらいもらえて、そのうち6000円を部費に入れています。これが大学の馬たちのためになるなら、苦ではないです」(米谷さん)
年間650万円の運営費が足りない「何頭か減らすしか…」
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馬術部の運営には高額な維持費がかかります。
馬のエサ代、装蹄費に医療費…年間で650万円ほど。
部員たちが馬術大会などのスタッフとして複数のアルバイトで稼いでいますが、新型コロナの影響でバイトの仕事が激減。
それでもこの1年、部員だけで400万円ほどの収入を得て活動資金に充てましたが…大学やOBからの補助などを入れても、どうしても50万円足りませんでした。
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「お金が足りなくてやっていけなかったら、何頭か減らす…もうそれしかないとは思っていました」(米谷さん)
このままでは馬を手放さなければいけない――そこで、部存続のために始めたのがクラウドファンディングでした。
わずか1か月で目標の50万円を上回る、57万8000円が集まりました。
「寄付してもらえる人がたくさんいたことは驚いたし、とてもありがたかった。“馬を出す”ことが回避できて、ほっとしました」(米谷さん)
苦境乗り越え 今年度最後の公式試合に挑む
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3月上旬。今年度最後の公式試合が開かれました。
中部学生フレンドシップ馬術大会。2日間で中部地区の大学11校が出場しました。
名古屋大学馬術部は、さまざまな部門で活躍。
2人が優勝、出場部員全員が表彰台に上がりました。
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「あきらめずに普段の練習や世話を続けてこられたのが、今こうやって結果として表れてよかったと思います。これからもこの馬たちにも頑張ってもらいたいし、名古屋大学馬術部としても、まだまだ続いていってほしいと思います」(米谷さん)
5人の仲間と6頭の馬でコロナ禍の1年を乗り切った名大馬術部。
これからも「人馬一体」で困難を飛び越えていきます。
(2021年3月15日放送「チャント!」より)