災害救助犬10年経っても“活躍の機会限られる”理由は? それでも「育成続ける」#あれから私は
東日本大震災でも被災者の捜索で活躍した「災害救助犬」。
この10年、全国で災害救助犬の数は増えたものの、活躍の機会が十分にあったとは言えない状況です。
一体、なぜなのか…災害救助犬の今を取材しました。
災害現場で生存者を探す「災害救助犬」
『きょうは11回目の試験です。じゃがいもは、調子が良さそうです。』
『合格です!やっと合格です!』
去年8月に出版されたこの絵本の主人公は、岐阜市で暮らすオスの「じゃがいも」9歳。
災害現場で活躍する「災害救助犬」です。
災害救助犬とは、地震などの現場に駆けつけ、瓦礫に埋もれた生存者や行方不明者を嗅覚で探し出す犬のこと。
東日本大震災でも活躍しました。
災害救助犬になるためには厳しい訓練が必要で、認定試験に合格しなければいけません。
「合格まで普通の犬の倍以上かかりましたね」(じゃがいもの飼い主 山口常夫さん)
合格率は1~2割と狭き門で、じゃがいもは10回続けて不合格。
2017年、11回目の挑戦でようやく合格し、災害救助犬になりました。
Q.合格した時はどんな思いでしたか
「合格して嬉しいというよりは“達成できてほっとした”という感じでしたね」(山口さん)
災害救助犬の活躍に必要な「指導手」が増えない
こうした「じゃがいも」の奮闘もあり、現在、全国の災害救助犬は約400頭まで増えました。
しかし、災害が起きた際にすぐに現場にかけつけることが出来るのは、わずか15頭ほどだといいます。
災害救助犬を現場で指示できる人「指導手」が足りないのです。
その理由の一つが、お金の問題です。
災害救助犬は、自治体や消防などからの出動要請を受けて被災地に駆けつけます。
しかし、ボランティアのため、報酬は一切なく、交通費も自己負担です。
東日本大震災の時も活動 指導手に聞く「課題」
災害救助犬のジャーマンシェパード「ちわお」とコンビを組む、指導手の古川祥子(ふるかわしょうこ)さん。
本業のドッグトレーナーのかたわら、13年前から災害救助犬の育成に携わり、東日本大震災の時にも出動しました。
「東日本大震災は想像を絶していました。広すぎて、“どこから手をつけたらいいんだろう”という感じでした」(古川さん)
東日本大震災では行方不明者などの捜索で活躍しました。
しかし、その活動費は、国からも出ていません。
「資金的な援助ができたら、若い世代がもっと関わって、犬の頭数も増えて、活動する人も増えるのではないかと思う」(古川さん)
なぜ、支援するお金が出ないのか。
国に災害救助犬を管轄する省庁が無いからです。
災害救助犬として認定を受けるまで、訓練費などに数十万円から数百万円がかかります。
また、災害救助犬になった後も、継続した訓練費や食費なども含め、古川さんの場合1年の飼育代として50万円以上かかっているといいます。
それでも活動を続ける理由は…
「犬が頑張ってるから、私も頑張らないとっていう感じですよね」(古川さん)
訓練で能力を披露 相手は「消防隊員」
2月、ちわおと古川さんは千葉県の山奥にいました。
家屋が倒壊し瓦礫が散らばる現場を再現した場所で、助けを求めている人を探す訓練です。
災害救助犬が頼りにしているのは「人のにおい」。
ちわおが吠え続け、古川さんに知らせます。
東日本大震災以降、災害救助犬の高い能力が認められるようになり、行政や警察・消防と災害救助犬の出動要請の協定を結ぶところが増えました。
しかし…
「“来てください”という要請、それも早期の出動要請は今までないです」(NPO災害救助犬ネットワーク 津田光 理事長)
災害が発生しても、すぐには出動要請がされない現状。
行政や消防などが、災害救助犬を現場でどのように活用していいのかが分からないのが問題だといいます。
「正しく認知されて初めて有効に使われ、きっと成果が出るだろうと思っています」(津田 理事長)
災害救助犬の活用方法を知ってもらうために、消防の有志らとの合同連携訓練が行われました。
消防は、瓦礫の下に生存者がいないか、災害救助犬に捜索を依頼。
反応があり次第、消防隊員が救助するという連携の確認です。
古川さんと、ちわおが捜索をスタート。
すると…人のにおいを察知した「ちわお」が吠えました。
すぐに、救助犬チームから消防に報告。報告を受けた消防が駆けつけ、救助活動が始まりました。
訓練に参加した消防隊員は…
「発見がすごく早い。びっくりしました。消防に必要だなと思いました」
Q.訓練をしていないと現場で活用は難しいか
「そうですね。怖くて災害救助犬を投入できないし、うまく連携できないと思います。連携訓練をもっと広めてもらいたいと思いました」
しかし、こうした連携訓練をするかどうかは、現場に任せられています。
「基本的なスタンスを国が示すというか…こういう状態なら災害救助犬を投入するとか、そういった基準を示してもらいたいと思っています」(NPO災害救助犬ネットワーク 津田光 理事長)
スイスやアメリカでは、消防が災害救助犬を受け入れやすいように、救助犬の情報を国に登録。
情報共有をする仕組みがあります。
そうした仕組みづくりが日本にも求められています。
「救助犬を正しく理解してもらって、もっと活用の場が広がればいいなと思っています。その目的を果たすために、これからも救助犬の育成を続けたい」(指導手 古川祥子さん)
(2021年3月5日放送「チャント!」より)