飛騨古川の「数河獅子」1300年の歴史に幕…。最高のフィナーレを飾るべく奮闘する男たちに1カ月以上密着!
岐阜県の山奥、飛騨市古川町数河地区の、1300年受け継がれてきた伝統の獅子舞「数河獅子(すごうじし)」が、2023年9月5日、長い歴史に幕を閉じました。最後の数河獅子にかける地元の人たちの想いとは…。最後の瞬間に向けて練習を続け、渾身の舞を披露したアツいOMATSURIちゃんたちに、1カ月以上かけて密着しました。
深刻な担い手不足…「ちゃんとした数河獅子を見せられるうちに区切りを」
2023年8月1日、飛騨古川の山奥にある小さな集落「数河」。獅子舞の稽古をしている場所に向かうと、2頭の獅子舞が舞い踊っていました。1300年前からこの土地で受け継がれる獅子舞「数河獅子」の練習をしていたのです。
躍動感あふれる2頭の獅子で舞う数河獅子は、作物を荒らす獅子を天狗たちが退治する物語を3段構成の演舞で表現しています。一番の見どころは最初の演舞。夫婦獅子が人里に現れ、 駆け回る姿を様々な曲芸で演じる「曲獅子」です。
プロレス技「ジャイアントスイング」さながらの『抱きかかえ』に、高さ約3mに及ぶ『肩車』。立ち上がる獅子の頭の動きも、かなりアクロバティックです。獅子を操るのは「若社」と呼ばれる地元出身の男たち。リーダーは森下博史さん(45歳)です。今年の数河獅子には、特別な想いがありました。
(若社リーダー・森下博史さん)
「本当は30代半ばで引退する。でも今は後輩がいない、見込みもない。なので…(数河獅子の奉納は)ことしで最後」
2019年に「あと3年」と決めるも、新型コロナの影響で丸3年、奉納ができませんでした。今後について話し合った結果、今年最後に舞うことを決めたのです。20年前は30人いた若社メンバーも現在はわずか9人、平均年齢は42歳。勇壮な獅子を演じるには、若さも人数も限界でした。“ちゃんとした数河獅子を見せられるうちに、区切りをつけたい”と決断したのです。
大技「前車」が成功しない…ギリギリの調整は祭り前夜まで続く
岐阜県飛騨市古川町の中でも、人里離れた数河地区。人口はここ60年で、3分の1以下の149人になりました。この地区に住む子どもたちも、2023年で数河獅子が終わることは親から聞き、知っています。
(子ども)
「ショックだったり、悲しかったり。自分も数河獅子が好きだし、この地区の自慢だから。長年続けてきてその歴史が終わると考えると、心がズシンと重くなる」
祭りまで2週間を切り、森下さん率いる若社チームは会場となる神社で舞台の準備を開始。4年ぶりに倉庫の扉を開きましたが、肝心の木材は無事でした。舞台を組めば、気持ちは一気に本番へと向かいます。
本番前夜、最後の練習風景を覗いてみると、若社のリーダー・森下さんの腕にはあざが。原因は、「前車」と呼ばれる技の失敗でした。
(若社リーダー・森下博史さん)
「それ(前車)ができないと、ちゃんとした奉納にはならない」
数河獅子の演舞で、数ある技の中でも序盤に披露されるのが「前車」です。2人1組の獅子が大回転する大技で、これが決まるかどうかが全体の出来栄えに大きく影響するといいます。しかし、その後の練習も失敗続き。森下さんも45歳、若かりし頃の感覚を覚えていても、なかなか体がついていきません。
(若社リーダー・森下博史さん)
「(Q完成度は?)6割。(Q前日ですけど…)合わせます!」
不安が残る形で、前日の練習を終えました。
「全員でできて良かった」最後の獅子舞を無事に奉納
祭り当日、飛騨古川の小さな集落で1300年受け継がれてきた「数河獅子」の最後の奉納だと聞きつけた観客100人以上が集まりました。1300年受け継がれてきた数河獅子も、午前の松尾白山神社の奉納と、午後の白山神社の奉納、2回で終わります。
まずは1回目の奉納です。前日の練習で失敗を重ねていた渾身の「前車」も、見事成功しました。1回目の奉納を無事に全うし、残すはあと1回。最後の舞は間近で見て欲しいと、舞台ギリギリまで観客を呼び込みます。ついに始まった、最後の奉納。その時、五穀豊穣を願う獅子の舞に、太陽が燦々と照らす中キラキラと雨が降り始めました。
(観客)
「すごいよね、本当に。1300年ずっと守ってきたんだもんね。ひょっとすると神様が泣いているのかな」
神秘的な雰囲気の中、1300年伝わってきた「数河獅子」が幕を閉じたのです。最後の奉納を終えた、若社リーダーの森下さんに話を聞きました。
(若社リーダー・森下博史さん)
「4年ぶりに数河獅子をやってたくさんの方に見てもらったし、自分一人じゃ何もできないので全員でできて良かった」
森下さんから、OMATSURIちゃんの証である万感の思いがこもったアツい手形をいただきました。
CBCテレビ「チャント!」9月20日放送より