海外の旅行客が驚く“究極のグルメ”!日本生まれの「食品サンプル」にかけた夢

海外の旅行客が驚く“究極のグルメ”!日本生まれの「食品サンプル」にかけた夢
「讃岐骨付鶏セットサンプル」提供:株式会社いわさき

大正時代の末期から昭和時代にかけて、日本各地で百貨店の創業が相次いだ。そんなデパートにあるレストランのショーウインドウに、実際の料理に代わって、食品のレプリカが登場するようになった。そんな食品の模型に注目したひとりの人物がいた。岩崎瀧三さん、1895年(明治28年)に岐阜県の郡上八幡に生まれた。15歳の時に大阪の貿易商に働きに出て、やがて仕出し屋に勤めたが、ちょうどその頃に知人から見せられたのが食品の模型だった。当時は数も種類も少なかったが、その瞬間、岩崎さんが思い出したのは幼い頃の記憶だった。

当時は数も種類も少なかったが、その瞬間、岩崎さんが思い出したのは幼い頃の記憶だった。

「岩崎瀧三さん」提供:株式会社いわさき

ローソクに火を灯した時、溶けた蝋(ろう)が水の中に落ちると、それが固まって、まるで白い花のようになった記憶。その美しい形は、まるで梅の花のように、岩崎さんの心に焼きついていた。食品模型はまだ企業化されていない時代だった。

「質の良い食品模型を作れば、商売になる!」

当時36歳の岩崎さんは、蝋の原料であるパラフィンを使って、独自の食品模型作りを始めた。実物の料理にパラフィンをかけて剥がしてみたがうまくできない。参考にしたのは、お寺などにある釣鐘の製造方法だった。型を作って、そこにパラフィンを流し込めば、熱が冷めた時に、それは食品の形として固まるのでは?最初はすぐに割れてしまったが、和紙を使って“裏打ち”することでハードルを乗り越えた。

「第1号 記念オム(複製)」提供:株式会社いわさき

食品模型作りの歩みは、妻のすゞさんとの夫婦共同作業だった。すゞさんが焼いたオムレツをモデルに選んだ。実は岩崎さんは、絵を描くことが大好きで、固まった模型に色を付けることは得意中の得意技だった。本物のオムレツの横に、模型を置いて筆を取った。色塗りが終わった時に、すゞさんが感嘆の声を上げた。「どっちが本物かわからない!」。大喜びの岩崎さんは、そのオムレツ模型に「記念オム」と名づけた。初心忘るべからず。

ここに日本で最初の「食品サンプル」事業の記念すべき第一歩が始まった。1932年に岩崎さんは大阪市に「岩崎製作所」を創業し、食品サンプル作りを本格的にスタートした。

「昭和40年代サンプルケース」提供:株式会社いわさき

蝋(ろう)から始まった岩崎製作所の「食品サンプル」作りは、熱にも強く丈夫なシリコンや樹脂へと進んでいく。食材を枠で囲ってシリコンを流し込み、型を作る。そのシリコン型に樹脂を流し込み固める。細かい部分を修正し、丁寧に色づけ、でき上ったパーツをひとつずつ食器に固定していく。「盛り付け」と名づけられる作業の最終工程は、まさに本物の料理にも負けない職人芸だ。「食品をそのままコピーするだけでは、本来の魅力を伝えきれない」と岩崎さん。並べるウインドウ内の照明の明るさ、そして展示される角度まで緻密に計算した。理想としたのは「本物そっくりのサンプル」ではなく、「本物よりも“ホンモノ”らしい食品サンプル」だった。その志は、岩崎製作所の現在の姿「株式会社いわさき」にも脈々と受け継がれている。

「一人焼肉セットサンプル」提供:株式会社いわさき

日本独特の「食品サンプル」は、海外からの旅行客を大いに驚かせる。こうしたサンプルを他で見ることはない。手先が器用な日本人ならではの“芸術作品”のミニサンプルは、キーホルダーや携帯電話ストラップなどにも姿を変えて、お土産としても人気である。

「いわさき」の国内シェアはグループ全体で70%。しかし、長引く新型コロナウイルス感染拡大の影響は飲食店に大きな打撃を与え、食品サンプルの注文も減っていると言う。それでも「食品サンプルの使命は、飲食店の魅力を伝えること」という基本を守りながら、

その“盛り付け”の日々は今日も続く。

「本物の料理よりも美味しそうで本物らしく」日本伝統の繊細な技術が、世界の食文化に大きな革命をもたらした。日本で生まれた「食品サンプル」たちは、これからも料理の魅力をショーウインドウの中から力強く発信していく。日本生まれ・・・「食品サンプルは文化である」。

東西南北論説風(255)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿のコレ、日本生まれです」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして紹介します。

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