「食品用ラップ」は軍需用品から台所の必需品へ、ニッポンで大進化を遂げた!

「食品用ラップ」は軍需用品から台所の必需品へ、ニッポンで大進化を遂げた!

どの家庭の台所にも必ず常備されているのではないだろうか。食材、料理、そして盛りつけた皿などを包み込む「食品用ラップ」。日本の開発技術によって、今なお進化を続けている、その歩みを追ってみた。

ルーツは米国だった。1933年(昭和8年)にダウ・ケミカル社が開発した合成樹脂による薄いラップ。実は第二次世界大戦中に戦場で使われた。湿気を通さないため、火器や弾薬を包む軍需用品だった。終戦後になって、ラップを製造していたメーカーの幹部が家族でピクニックに出かけた時、妻が夫の会社が作っているラップで、サラダ用のレタスを包んで持参した。みずみずしさを保つ野菜は新鮮で美味しかった。それまで火薬を包んでいたラップは、食品用とした新たな道を歩み始めた。これが米国生まれ「サランラップ」の第一歩である。

「魚肉ソーセージを包むクレハロン」提供:株式会社クレハ

日本でも、そのラップに注目した会社があった。1944年(昭和19年)創業の「呉羽化学工業株式会社」である。か性ソーダの生産から生まれる塩素で、塩化ビニリデンという合成樹脂を開発し「クレハロン」と名づけて製品化した。魚を獲る漁業用の網として使用したが、なかなか売れなかった。そんな時に米国では、合成樹脂のラップを食品用に使っていることを知った。そこで「クレハロン」を食品用のラップとして開発することにした。最初は薬品の臭いが残っていて、魚肉ソーセージなど香辛料が効いている食品では気にならなかったが、それ以外のほとんどの食品は臭いの影響を受けた。そこで配合の際に安定剤を加えるなど工夫をして、ついに無臭フィルムが完成した。

「クレラップ第1号1960年」提供:株式会社クレハ

1960年(昭和35年)7月、日本で最初の食品用ラップ「クレラップ」が発売された。呉羽化学工業、現在の「株式会社クレハ」である。第1号の「クレラップ」は、幅30センチ、長さ7メートルで、販売価格は100円だった。「クレラップ」は、一般家庭へ冷蔵庫が普及していくと共に人気が出始めて、さらに電子レンジの登場によって、台所に欠かせない商品になっていった。

家庭に広がっていくと共に、様々な問題点や要望が届くようになった。「スパッと切れない」「斜めに切れてしまう」「切ったラップ同士が引っついてしまう」。こうした声に対し、ひとつひとつ改良を加えていった。ラップを端から端へ切るのではなく、真ん中から一気に切れるようにすればいい。ラップの箱に付ける刃を「V字型」にして、箱を持つ手をくるっと回転することによって、ラップを真ん中から切ることができるように工夫した。手に持ちやすいように、箱の角には丸みをつけた。上手に切ると、ラップ同士が重なってしまうことも少なくなった。「クレラップ」の歴史、それは発売から今日まで加えられてきた、細やかな改良の歩みでもある。

「最新のクレラップ」提供:株式会社クレハ

食品用ラップは、主に台所を舞台にするだけでなく、様々な場面で使われるようになった。災害時には、皿やコップにかぶせて洗う手間を省いたり、トイレに敷いても使用したりできる防災グッズにもなった。けがの場合は止血用にも重宝した。そして書店では、立ち読み防止や本の表紙がそらないように、店頭の本をくるむことでも使われている。

「サラダを包むクレラップ」提供:株式会社クレハ

米軍の軍需用品から生まれた合成樹脂のラップは、ニッポンの技術と細やかなアイデアによって、ますます活躍の場を広げている。「食品ラップはじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが“みずみずしい新鮮さを保ったまま”しっかりと包み込まれている。
          
【東西南北論説風(396)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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