侍ジャパン髙橋宏斗がWBC前にマエケンと熱論!~これが決め球の磨き方
竜の若き剛球投手がWBCの舞台へ!中日ドラゴンズの20歳、髙橋宏斗が、最年少で侍ジャパンに選ばれた。その髙橋は、CBCテレビの特別番組であこがれのメジャーリーガー前田健太と対面し、エースとしての姿勢やお互いの勝負球など、熱い野球談議に盛り上がった。米国で活躍するマエケンが、後輩右腕に語った「ウイニングショット(勝負球)」の極意とは? (敬称略)
速球とスプリットの魅力
髙橋宏斗が1軍デビューした2022年シーズン、その投球はめざましい進化を遂げた。
「投げる度に良くなっていく」まさにこの表現がぴったりだった。筆者も、度々応援のためスタンドから観戦したが、7月7日の七夕の夜、横浜スタジアムで髙橋が見せた投球は忘れられない。
球団日本人最速となる158キロの速球に、ハマスタのスタンドはどよめいた。髙橋は150キロ台のストレート、さらにキレのいいスプリットによって、3回まで9人の打者から5つの三振を奪っていた。試合は延長12回0-0の引き分けに終わったが、横浜DeNAベイスターズの強打線を7回まで無失点に抑えた投球は、実に見事だった。
お互いの勝負球を語り尽くす
そんな髙橋宏斗は、前田健太の「スライダー」にあこがれると言う。
「楽にバッターを抑えられる。カウントを取りたい時にも投げられる。三振がほしい時に は決め球になる。幼い頃からの“憧れのスライダー”でした」
これに対して前田は、自分のスライダーは「ツーシームの握り」だと明かす。讀賣ジャイアンツのエース・菅野智之も同じだと言う。ツーシームとは、ストレートに近いスピードで小さく変化するボール、回転する時に縫い目(シーム)が2回見えることから名づけられた。前田は、髙橋に対して、スライダーを駆使しての自らの“投球術”を語った。
「毎回スピードガンを見る。130キロのスライダーで打者が泳いでファールしてくれて2ストライクになったら、三振を取りにいくために、次は125キロぐらいの大きいスライダーを投げる。バッターは同じスライダーが来たと思うし、バットには当たらない」
前田は、カウントによって「球速」と「変化量」を変えると、明らかにした。それに対し髙橋も、得意のスプリットについて「落差の緩急」と「球速の変化」を使っていると答える。前田は「小さく落とす、大きく落とす、速くする、遅くする。それだけで自分の球種は無限大に増えていく」と、髙橋を激励した。
そんな前田健太は、髙橋宏斗の「ストレート」に憧れると言う。
「あのストレートを投げれば勝てる。速いストレートは投手にとってあこがれ。そして髙橋君のストレートはとても魅力的」
その言葉を嬉しそうに受けとめた髙橋は、自分のストレートは、実は数値的に見ても大したことはなく、回転数もホップ成分も特別にあるわけではない、と科学的な分析を披露した。「ホップ成分」すなわち、投手がボールを放してからホームベースに到達するまでの落差の大小を示す指標。前田は、この「ホップ成分」の大切さを説く。
「ホップ成分を高めるには、手首を立てる。さらにストレートは深く握る。浅く握るとボールは逃げていくけれど、深く握ると球を最後に押し込める。意識するとホップ成分は上がる」
前田がアドバイスした“極意”によって、150キロを超す髙橋のストレートは、今後さらにスピードとキレを増していくに違いない。
左打者の打ち取り方を伝授
髙橋も前田も右投手、それだけに左打者をどう打ち取るかは、大切なテーマである。左打者の外角に投げる時のポイントについて、つい抜け球が多くなるという髙橋に、前田はさらなる“極意”を授けた。
「クロスに投げること。真っすぐに投げようとすると、ズレが内側に入りやすい。ボール球になるミスも出る。クロスに投げると失投も減らすことができる。左肩が開くことを我慢する。試合中にうまくいかないと思ったら、その日はそれを捨てる」
毎試合毎試合、完璧な投球ができるわけではない。前田が語った「うまくいかない日は、そのボールを捨てる」。“捨てる”、そして柔軟性を持って修正する。先発投手にとっての“金言”とも言える。なぜなら、先発投手の役割とは「ゲームを作ること」、そしてその上で「チームを勝たせること」なのだから。
「それを捨てる。捨てて高めに投げる。ホームランの少ない打者に、高めのボールを打ってもらって外野フライに打ち取る。バッターに打たせてアウトにする。これを考えるようになると面白い」
日米通算156勝の右腕、先発投手として活躍を続ける“真髄”がそこにあった。そして、髙橋は、そのひと言ひと言を、真剣な表情で吸収していった。
侍ジャパン最年少、高卒3年目でのWBC代表入りは、2009年大会での田中将大以来となる。メジャーで活躍する大谷翔平やダルビッシュ有、さらに“完全試合男”である1期先輩の佐々木朗希ら、そうそうたるメンバーの中、髙橋は語る「どこでも投げる」。代表で背負う背番号は「28」、ドラゴンズのエース道を歩む自分史の中に「2023年」「28番」という数字を刻み込むに違いない。戦いのステージは、もうまもなくである。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。