直木賞候補作を書評家が解説。読みどころは主人公の“周囲の人々“
水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、おすすめの新刊や名作を紹介します。7月22日の放送では、書評家の大矢博子さんが蝉谷めぐ実さんの小説『見えるか保己一』(KADOKAWA)をピックアップ。江戸時代に活躍した全盲の国学者・塙保己一の生涯を描いた作品でありながら、主人公本人だけでなく、保己一を取り巻く人々の葛藤や成長に焦点を当てた点が大きな魅力だといいます。聞き手は永岡歩アナウンサーです。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴くあらすじ
本作は江戸時代に活躍した国学者・塙保己一を描いた小説です。 彼は日本各地に伝わる歴史書や物語、和歌、浄瑠璃など膨大な古典を集めて編纂した『群書類従』を完成させたことで知られています。
大矢「この『群書類従』があったから、現在の私たちは『源氏物語』や『枕草子』を読むことができる。この国の文化史にとても大きな貢献をしました」
日本文化の継承に計り知れない功績を残した人物です。
塙保己一は1746年、現在の埼玉県で生まれました。幼い頃に病気を患い、7歳で視力を失います。しかし、人から一度読んでもらった文章を一語一句間違えずに暗唱できるほどの優れた記憶力を持ち、その才能は周囲でも評判になったといいます。
15歳で江戸へ出た保己一は、視覚障害者の職業組織「当道座」に入り、鍼灸やあんまなどの仕事に携わりました。しかし、学問への情熱を抑えきれず、自ら当道座を離れて研究の道へ進みました。その後、どうなるのか…本作は、保己一の生涯を綴った作品です。
読みどころは主人公の周囲の人々
大矢さんは、本作の魅力は「目が見えないのに頑張って素晴らしい、という話ではない」と強調しました。
保己一は卓越した才能とカリスマ性を持つ人物ですが、その存在ゆえに周囲の人々はさまざまな思いを抱えます。
保己一の状況を理解しようと努力する人もいれば、見えないことにつけ込んで利用しようとする人、偏見を持つ人もいます。また、保己一に認められたい一心で努力を重ねる人もいますが、本人にはその努力が見えないという切なさも描かれています。
大矢さんは、見える人が見えない人を完全に理解することはできないからこそ、すれ違いや思い込みが生まれ、それでも理解しようと懸命になる人々の姿が胸を打つと説明しました。
大矢「保己一の伝記ではなくて、周囲の人々が、その保己一に何を見て、どう変わっていったかというところに、ぜひ注目してほしい1冊です」
江戸時代の福祉制度にも焦点
大矢さんは、本作では保己一の人生だけでなく、江戸時代に視覚障害者を支えた制度や社会の仕組みについても描かれていることを見どころのひとつに挙げました。
当道座のように視覚障害者だけが認められていた職業や権利などが物語の中で自然に紹介されており、「こういう制度がちゃんと書かれる小説って少ないかなという気がします」と話しました。
歴史小説として物語を楽しみながら、当時の福祉制度や社会の在り方について知ることができる点も、本作ならではの魅力だといいます。
永岡「ハンディキャップを持たれてる方への理解もちょっとずつ広がっていく中でまた読むと、感じ方というところも変わっていきそうですね」
この作品を読むことで新たな視点や気づきが得られるのではないかと永岡はコメントしました。 歴史上の偉人を描いた伝記小説とは一味違う視点で、人と人との関わりや理解の難しさを考えさせてくれる『見えるか保己一』。気になった人は、ぜひ手に取って、その魅力を味わってみてはいかがでしょうか。
(ランチョンマット先輩)
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