フジテレビを巡る「物言う株主」の攻防。20年前の恩人が経営陣一掃を要求

アメリカの投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」がフジテレビの親会社、フジ・メディア・ホールディングスの社外取締役候補として、SBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝氏や、旧ジャニーズ事務所からタレントマネジメント業務を引き継いだSTARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)のCEO・福田淳氏ら12人を、株主提案として提示すると明らかにしました。6月予定の株主総会で取締役の総入れ替えを求めています。4月17日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別解説委員が、この「物言う株主(アクティビスト)」の実態について解説しました。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く「アクティビスト」とは何か
「アクティビスト」とは、企業の株式を一定量保有して発言権を持つ投資家のことを指します。彼らは通常の株主と異なり、保有企業の経営戦略に対して明確な意見を述べ、経営陣の交代要求や株主還元の増加など、具体的な提言を積極的に行ないます。
こうした「積極的に経営に関与する」姿勢から、日本では「物言う株主」とも呼ばれています。こうした「物言う株主」の介入によって、企業の経営改革が進み、企業価値が向上するケースもあります。
フジ・メディアHDを巡る攻防
今回のフジ・メディア・ホールディングスの事例は、「アクティビストのやり方としてはわかりやすい」と石塚は解説します。
事の発端は、中居正広氏の女性問題が表面化したことでした。ダルトン・インベストメンツはフジ・メディア・ホールディングスの株を持っており、中居氏のトラブルが発覚して以降、フジの問題点を指摘し、改善策を求め続けてきました。
この問題を契機に、フジ・メディア側は日枝久氏が相談役を退任するなど、取締役の一部入れ替えを発表しました。しかし、ダルトン・インベストメンツはこれでは不十分だと主張。
日枝氏が選んだ取締役がまだ残っているという理由で、北尾氏を筆頭とする12人の新取締役候補名簿を提示し、完全な経営陣の入れ替えを要求しました。
錯綜する株主の思惑
フジ・メディア・ホールディングスを巡っては、もうひとつの「物言う株主」の存在も浮上しています。
それが元通産官僚の村上世彰氏が率いていた「村上ファンド」系列の投資家たちです。この村上ファンドに関連して、村上氏の長女である野村絢氏も投資家として活動しています。
旧村上系のファンドがフジの株を積極的に買い集めた結果、野村氏がフジ・メディア・ホールディングスの筆頭株主になり、これは金融業界でも注目を集めました。
現在は、ダルトン・インベストメンツが北尾氏を含む新たな取締役候補を提案する一方、旧村上ファンド系の勢力も筆頭株主として存在感を示しており、両者がそれぞれ「物言う株主」としてフジ・メディアの経営に影響力を持とうとしている構図です。
20年前の因縁
興味深いのは、この騒動に名前が挙がる北尾吉孝氏とフジテレビの関係です。約20年前の2005~2006年頃、「ライブドア騒動」として知られる企業買収劇がありました。
当時、ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏率いるライブドアがフジテレビの親会社だったニッポン放送の株を買い占めようとした際、フジテレビが助けを求めたのが北尾氏だったのです。
投資の世界では「ホワイトナイト(白馬の騎士)」と呼ばれる救済役として北尾氏が登場し、フジテレビを守る役割を果たしました。
その介入により堀江氏は最終的に撤退。しかし石塚によれば、現在の北尾氏は「あの時助けなければよかった。その後フジテレビはこの程度の会社になってしまったのか」と言っているといいます。
日本企業とアクティビストの関係
日本企業とアクティビストの関わりはかなり多くあります。
たとえば、東芝が経理不正会計で問題になった際には、シンガポールの「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」という物言う株主が厳しく追及。東芝はこのファンドから資金提供を受けましたが、当然その代わりに経営への口出しも増えたといいます。
またオリンパスでは、アメリカの「バリューアクト」が赤字だったデジタルカメラ事業の売却を促し、医療事業への特化を実現させました。
このように、アクティビストの介入によって企業の方向性が大きく変わることもあります。
変化するアクティビストの評価
石塚は、アクティビストに対する評価も変化してきていると説明します。
かつて2000年代初めにアメリカから日本に進出したアクティビストは、良いところを見つけて株を買い、意見を言って会社を変え、株価が上がれば売り抜けて去るという手法から、「ハゲタカ投資ファンド」という悪いイメージが定着していました。
しかし近年は、アクティビストの存在が企業価値を向上させる例も増加しています。
「いろいろな意見を言ってくれるおかげで企業が良くなり、企業価値が上がった。ありがとう」というケースも少なくないと石塚は指摘します。日本企業のコンプライアンス意識が高まる中で、外部からの厳しい指摘が企業にとってむしろプラスになることもあるそうです。
古い体質の企業にメスを入れる役割として、アクティビストは必ずしも否定的に捉えられなくなってきています。
6月に予定されるフジ・メディア・ホールディングスの株主総会で、この騒動がどのような結末を迎えるのか、今後の動向が注目されます。
(minto)
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