苦節10年、キャビアの生産にこぎつけた過疎村の挑戦
世界三大珍味のひとつでチョウザメの卵、キャビア。世界では中国で多く生産されていますが、日本でも生産に成功した村があります。愛知県北東部に位置する豊根村では、2012年から10年かけてチョウザメの養殖に取り組んできました。初めて生産されたキャビアが2022年4月10日、報道陣にお披露目。過疎化が進む中で、豊根村が10年かけて挑戦してきた軌跡を取材しました。
豊根村に話題性のある名物を作りたい
豊根村は人口わずか1,002人。年々、過疎化が進んでいます。2012年、副業で川魚を養殖していた熊谷仁志(くまがい・ひとし)さんに、役場の課長から声がかかりました。
熊谷さん「飲み会がありまして、そこで(役場の課長から)『なにか村の特産品ができないか』と言われました。三大珍味で何かできないかと思いました。キャビア・トリュフ・フォアグラ…魚なら飼えるかもしれないぞと」
豊根村に話題性のある名物を作るべく、熊谷さんの挑戦が始まりました。
しかし、メスのチョウザメからキャビアが採れるまでには、およそ10年かかると言われています。そこでキャビアに先駆け、いくつかチョウザメに関連する商品「チョウザメのお寿司」や、チョウザメのうろこを使ったピアスやストラップも生まれました。
「チョウザメは村の希望というか、未来。村民として誇らしい気持ちです」
と村の人たちからも大きな期待が寄せられます。
また、村には熊谷さんをモデルにした「チョウザメが村の人口を超えましたので、食べに来てください」という自虐のポスターまで登場。
当時は1,090人だった村の人口をはるかに超える5,000匹のチョウザメが飼育されていました。
村おこしに惹かれて移住してきた若者も
こうした豊根村の村おこしに惹かれ、移住してきた若者もいます。
名古屋市出身の小早川武史(こばやかわたけし)さん(24歳)は、2019年から地域おこし協力隊として、熊谷さんのもとでチョウザメを養殖。2022年3月で地域おこし協力隊の活動は終わりましたが、村に残って養殖を続けることに決めました。
現在、独り立ちして2,000匹あまりを育てています。 チョウザメに惹かれた理由を聞いてみると、
確立されていないチョウザメの養殖法
チョウザメの飼育法はまだ確立されていません。
飼育を始めて3年以上が経つ小早川さんでも、まだまだ1人ではできない作業があります。チョウザメは2~3年経つと、腹を切って卵巣の有無を確認しますが、小早川さんは性別を見分ける自信がありません。
熊谷さん「小早川に信頼が置けたらいいけど、そんなに甘い世界ではない。1匹見誤ったら損害が30万円の世界」
しかし、小早川さんが村に残ることを決めた時、一番喜んでくれたのも熊谷さんでした。 3年やってきて辞めるのはもったいない、一職10年。10年水を止めずに養殖してきたからこそ、キャビアができたと自負しています。
実は、熊谷さんの育てたチョウザメが2021年春にはキャビアが採れるまでに育っていました。しかし、新型コロナ感染拡大の影響でお披露目が延期。出荷も諦めざるを得ませんでした。
熊谷さんも「キャビアは高級食材なので、景気の悪い時に売り出したくない」と考えており、ようやく2022年春にお披露目を迎えることができたのです。
まずはふるさと納税の返礼品から
こうして迎えた2022年4月10日のお披露目会で、試食した愛知県知事の大村知事は「本格的なキャビア。非常においしかったです」、村内の旅館経営者も「豊根村の水で育ったまったく臭みのないおいしいキャビアだと思います」と高評価が相次ぎました。
熊谷さんは「きょう発表会ですけど、僕にとっては通過点。これで終わりっていうことではない。次の段階に向けてこれからも試行錯誤は続きます。」と語ります。
小早川さんは「熊谷さんがこれまでやってきた養殖がこういう形で成果としてでたので、自分もそれを目指して、まずは自分のキャビアを作れるように頑張っていこう」と意気込みを語りました。
まだ生産量は少ないため村のふるさと納税の返礼品からのスタートですが、村の人たちも大きな期待を寄せています。お披露目会は通過点でしかありません。キャビアを「豊根村の名産」にするために、熊谷さんたちの挑戦はまだ始まったばかりです。
CBCテレビ「チャント!」4月11日の放送より。